ゴーヤチャンプルなるやうにしかならぬ
広渡敬雄
今週は大阪に出張しているが、残暑の厳しい暑さである。気温は35℃近くあり、湿度も高く、じめっとしている。
昨日、仕事で阪神甲子園の阪神対DeNA戦を観に来たが、あいにくのゲリラ豪雨により中止となった。夕方5時から激しい雨が降り始め、雷がなり、甲子園付近の道路は冠水した。試合開始の6時に試合中止が決定。しかし、7時過ぎには雷雲が去り、月が出ていた。昔、アメリカのメジャーリーグを観戦した時には、雨が止むまで、1~2時間ほど待った記憶があるが、昨日も一時間ほど待てば試合ができる状況となったので、残念に思った。まあ、「なるようにしかならぬ」のか。
ゴーヤチャンプルなるやうにしかならぬ 広渡敬雄
掲句は、句集『風紋』の令和五年の句である。ゴーヤチャンプルは、正式にはゴーヤーチャンプルーと伸ばすようだが、ゴーヤー(苦瓜)をチャンプルー(ごちゃまぜ)という沖縄の方言である。
料理は、豆腐、豚肉、ゴーヤーなどを炒めた沖縄県の郷土料理で、夏バテ防止の一皿ともいわれている。ゴーヤーは、荔枝(れいし)の傍題で秋の季題である。
暑いときに食べるイメージなので夏の季題だと思っていたが、実がなるのが秋なので秋季になる。
作者は、ゴーヤーチャンプルーを作ろうとしているのだろうか。具材を入れて炒めればゴーヤーチャンプルーになる、いや、「なるようにしかならぬ」のである。
句集の題名にもなっている『風紋』は風によって作られる砂紋のことで、自分の意志ではなく、風の力によって砂が形作られる。やはり、「なるようにしかならぬ」のである。そう考えると、自分の周りには「なるようにしかならぬ」ことばかりである。あまり小さいことに気をもまずに前に進もう、そんなことを思わせる句である。
(塚本武州)
【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。
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