雪が来るうさぎの耳とうさぎの目青柳志解樹【季語＝雪（冬）】

ハイクノミカタ

雪が来るうさぎの耳とうさぎの目　青柳志解樹【季語＝雪（冬）】

2024/1/26
ハイクノミカタ, 塚本武州
1929年生まれ, 2021年没, 「山暦」, 「鹿火屋」, うさぎ, が, の, 冬の季語, 来る, 目, 耳, 雪, 青柳志解樹

雪が来るうさぎの耳とうさぎの目

青柳志解樹

大相撲初場所が大詰めを迎えている。１２日目が終わり、大関昇進を目指す関脇琴ノ若が１１勝１敗で単独トップ、綱取りを目指す大関霧島、横綱照ノ富士、大関豊昇龍が１０勝２敗で追う展開となっている。震災被害のあった石川県出身の初入幕力士、大の里は９日目まで１敗を守って頑張っていたが、１０日目以降、上位陣との対戦で負けが続いている。スピード出世で十分に髪が伸びておらず、髷を結えない若い力士であるが、体が大きく、将来有望な力士である。

さて、日本海側は大雪が降っているが、雪の句を探したところ、こんな句に出会った。

雪が来るうさぎの耳とうさぎの目　青柳志解樹

上五の「雪が来る」は、これから雪が降るのであろう。中七・下五は「うさぎの耳とうさぎの目」の対句になっていてリズムがいい。ただ、「うさぎ」を二回繰り返す意味はあるのだろうか。うさぎの耳と目だけでも十分意味が通じるし、残りの字数で他のことを言うこともできる。しかし、作者はあえて、「うさぎの〇〇」を対句にしたのである。解釈はいろいろあると思うが、私は、うさぎが１匹ではなく、２匹以上いると想像する。空は今にも雪が降りそうな灰色の雲に覆われ、野原には白いうさぎが数匹、飛び跳ねたり、餌を探したり、食べたりしている。白うさぎが忙しなく動く姿があたかももう雪が降り始めているような、そんな美しい白い世界を想像させる。

掲句を生成AIで画像化するとどうなるか、興味があったのでやってみると、雪の中に１匹の白と茶色の混ざったうさぎがピンクの耳と青い目でこちらを見ていた。生成AIでは、雪は既に積もっていて、うさぎは１匹、茶色の斑のある白うさぎで、私の解釈とは微妙に異なる。なるほど、句の解釈が広がるから、掲句は名句なのだと感じた。

さて、冒頭の大相撲に戻るが、今度の日曜日に千秋楽を迎える。果たして、どの力士が優勝し、誰が来場所に昇進するのか楽しみである。では、よい週末を。

（塚本武州）

【執筆者プロフィール】
塚本武州（つかもと・ぶしゅう）
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、２０２１年４月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫（ユキ）の３人暮らし。

【塚本武州のバックナンバー】
＞＞〔51〕真っ白な息して君は今日も耳栓が抜けないと言う　福田若之
＞＞〔50〕什器全て鈍器に見えて冬籠　今井聖
＞＞〔49〕初旅の富士より伊吹たのもしき　西村和子
＞＞〔48〕ポテサラの美味い雀荘大晦日　北大路翼
＞＞〔47〕絶叫マシーンに未婚既婚の別なく師走　村越敦
＞＞〔46〕永遠とポップコーンと冬銀河　神野紗希
＞＞〔45〕酔うて泣きデザートを食ひ年忘　岸本尚毅
＞＞〔44〕いつせいに柱の燃ゆる都かな　三橋敏雄
＞＞〔43〕鍋物に火のまはり来し時雨かな　鈴木真砂女
＞＞〔42〕あたゝかき十一月もすみにけり　中村草田男
＞＞〔41〕向日葵をつよく彩る色は黒　京極杞陽
＞＞〔40〕つれづれのわれに蟇這ふ小庭かな　杉田久女
＞＞〔39〕べつたら市糀のつきし釣貰ふ　小林勇二
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＞＞〔36〕月かげにみな美しき庭のもの　稲畑汀子
＞＞〔35〕ラグビーのゴールは青き空にあり　長谷川櫂
＞＞〔34〕コスモスを愛づゆとりとてなきゴルフ　大橋晄
＞＞〔33〕秋めくや焼鳥を食ふひとの恋　　石田波郷
＞＞〔32〕めちやくちやなどぜうの浮沈台風くる　秋元不死男
＞＞〔31〕よし切りや水車はゆるく廻りをり　高浜虚子
＞＞〔30〕おもかげや姨ひとりなく月の友　松尾芭蕉
＞＞〔29〕生れたる蝉にみどりの橡世界　田畑美穂女
＞＞〔28〕鬼灯市雷門で落合うて　　　　田中松陽子
＞＞〔27〕買はでもの朝顔市も欠かされず　篠塚しげる
＞＞〔26〕少し派手いやこのくらゐ初浴衣　草間時彦
＞＞〔25〕赤ばかり咲いて淋しき牡丹かな　稲畑汀子
＞＞〔24〕紫陽花のパリーに咲けば巴里の色　星野椿
＞＞〔23〕うつとりと人見る奈良の鹿子哉　正岡子規
＞＞〔22〕小燕のさヾめき誰も聞き流し　　中村汀女
＞＞〔21〕夏場所や新弟子ひとりハワイより　大島民郎
＞＞〔20〕白魚の命の透けて水動く　　　　稲畑汀子
＞＞〔19〕滝落したり落したり落したり　　清崎敏郎
＞＞〔18〕あれは伊予こちらは備後春の風　武田物外
＞＞〔17〕風光りすなはちもののみな光る　鷹羽狩行
＞＞〔16〕晴れ曇りおほよそ曇りつつじ燃ゆ　篠田悌二郎
＞＞〔15〕山又山山桜又山桜　　　　　　阿波野青畝
＞＞〔14〕春風や闘志いだきて丘に立つ　　高浜虚子
＞＞〔13〕行く雁を見てゐる肩に手を置かれ　市村不先
＞＞〔12〕梅咲きぬ温泉は爪の伸び易き　　梶井基次郎
＞＞〔11〕こぼれたる波止の鮊子掃き捨てる　桑田青虎
＞＞〔10〕とれたてのアスパラガスのやうな彼　山田弘子
＞＞〔9〕雛節句一_ト夜過ぎ早や二_タ夜過ぎ　　星野立子
＞＞〔8〕百代の過客しんがりに猫の子も　　加藤楸邨
＞＞〔7〕春光のステンドグラス天使舞ふ　　　森田峠
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＞＞〔3〕わが知れる阿鼻叫喚や震災忌　　　　京極杞陽
＞＞〔2〕福笹につけてもらひし何やかや　　　高濱年尾
＞＞〔1〕一月や去年の日記なほ机辺　　　　　高濱虚子