ハイクノミカタ

海鼠切りもとの形に寄せてある 小原啄葉【季語=海鼠(冬)】


海鼠切りもとの形に寄せてある

小原啄葉

ありていに言っただけなのに驚かされる句だ。

切り分けたものを元の形に戻すという行動のみに着目すれば笑える気もするが、海鼠の曖昧模糊としながらも確かに切られてしまっている具体的な姿や、またその姿と「もとの形」とが皮肉にもそれほど遠くないことなどが残酷な読み味につながっている。「形」について、あらためて足を止めて考えさせられる。

この句の切られた海鼠は調理過程ではあるが、まだ生き物の領分という感じがする。酢海鼠などは平気で食べていた昨日までの自分が、この句を知ってしまってからは何か少し海鼠を敬遠してしまうな、そういう意味で力のある句だと思う。読者が無意識的に仮構している「私」の領域を書き換えるということは詩にとって大変な成功なのではないだろうか。このような一句を得たいと思う。

安里琉太



【第1句集から平成22年刊の最新句集『不動』までの8句集、ほか既発表句を合わせた約3300句を季題別に分類!】

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【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



安里琉太のバックナンバー】

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>>〔61〕ほほゑみに肖てはるかなれ霜月の火事の中なるピアノ一臺 塚本邦雄
>>〔60〕あたゝかき十一月もすみにけり 中村草田男
>>〔59〕デパートの旗ひらひらと火事の雲 横山白虹
>>〔58〕個室のやうな明るさの冬来る  廣瀬直人
>>〔57〕ほこりつぽい叙情とか灯を積む彼方の街 金子兜太
>>〔56〕一瞬で耳かきを吸う掃除機を見てしまってからの長い夜 公木正
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>>〔53〕つきの光に花梨が青く垂れてゐる。ずるいなあ先に時が満ちてて 岡井隆
>>〔52〕ひるすぎの小屋を壊せばみなすすき 安井浩司
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>>〔50〕ときじくのいかづち鳴つて冷やかに 岸本尚毅
>>〔49〕季すぎし西瓜を音もなく食へり 能村登四郎
>>〔48〕みづうみに鰲を釣るゆめ秋昼寝   森澄雄
>>〔47〕八月は常なる月ぞ耐へしのべ   八田木枯
>>〔46〕まはし見る岐阜提灯の山と川   岸本尚毅
>>〔45〕八月の灼ける巌を見上ぐれば絶倫といふ明るき寂寥  前登志夫
>>〔44〕夏山に勅封の大扉あり     宇佐美魚目
>>〔43〕からたちの花のほそみち金魚売  後藤夜半
>>〔42〕雲の中瀧かゞやきて音もなし   山口青邨
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>>〔38〕ぐじやぐじやのおじやなんどを朝餉とし何で残生が美しからう 齋藤史
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>>〔34〕黒き魚ひそみをりとふこの井戸のつめたき水を夏は汲むかも 高野公彦
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>>〔3〕昼ごろより時の感じ既に無くなりて樹立のなかに歩みをとどむ 佐藤佐太郎
>>〔2〕魚卵たべ九月些か悔いありぬ  八田木枯
>>〔1〕松風や俎に置く落霜紅      森澄雄


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