ハイクノミカタ

水遊とはだんだんに濡れること 後藤比奈夫【季語=水遊(夏)】

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水遊とはだんだんに濡れること

後藤比奈夫


閃きをさっと書き留めたような、一句が素早くものされたような、そういう洒脱な印象を受ける。それはこの句の、割に”散文的”な書かれ方の印象に、言い換えれば”韻文性”をわざわざ志向して推敲や再構成を重ねた感じがしないという印象に起因するのかもしれない。

「散文的」という評は、俳句においては否定的に述べられる場合が多いが、この句の場合、「とは」という定義や命題を示すような助詞も含めた”散文的”な述べ方が、ウィットをうまく働かせているように思う。

比奈夫の他の作、たとえば「花蓆にも玄関といへるもの」や「蟻の道にも道幅といへるもの」、「水中花にも花了りたきこころ」などのウィットの句にも、「水遊」の句に近いような一句のものし方が思われる。季語を上五に置いて、それに対する印象(これらの場合、季語に対する意外な発見や規定)を、その後述べるというものし方だ。ただ、これを「あえての散文的な文体の開拓」という前衛的な試みとまとめてしまうとやや乱暴で、むしろ季題に対して述べるという題詠の意識が色濃く出た結果とも言え、要するに過分に伝統的な書きぶりとも言える。

家族とは濡れし水着の一緒くた 小池康生

諧謔を書き続けてきた中原道夫が比奈夫の影響を受けていることは、『銀化』二十周年記念号(2018.10)で自白されていることだし、その具体的な話は『後藤比奈夫×中原道夫 比奈夫百句を読む。』(ふらんす堂・2011)に詳しい。

この小池の句がどのような流れを受けているのかは分からない。ただ、この句には、比奈夫のウィットを上手く働かせる述べ方が用いられ、また中原道夫の、衆目の集まりやすい諧謔の他方にある濃密な”情”とでも言おうか、そういう側面も感じられる。私は小池のこの句を読むたびに、結社や句座というものの可能性に思いを巡らせるのである。

安里琉太


【『比奈夫百句を読む。』はこちら↓】


【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



安里琉太のバックナンバー】

>>〔38〕ぐじやぐじやのおじやなんどを朝餉とし何で残生が美しからう 齋藤史
>>〔37〕無方無時無距離砂漠の夜が明けて 津田清子
>>〔36〕麦よ死は黄一色と思いこむ    宇多喜代子
>>〔35〕馬の背中は喪失的にうつくしい作文だった。 石松佳
>>〔34〕黒き魚ひそみをりとふこの井戸のつめたき水を夏は汲むかも 高野公彦
>>〔33〕露地裏を夜汽車と思ふ金魚かな  攝津幸彦
>>〔32〕プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ 石田波郷
>>〔31〕いけにえにフリルがあって恥ずかしい 暮田真名
>>〔30〕切腹をしたことがない腹を撫で   土橋螢
>>〔29〕蟲鳥のくるしき春を不爲     高橋睦郎
>>〔28〕春山もこめて温泉の国造り    高濱虚子
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>>〔24〕ハナニアラシノタトヘモアルゾ  「サヨナラ」ダケガ人生ダ 井伏鱒
>>〔23〕厨房に貝があるくよ雛祭    秋元不死男
>>〔22〕橘や蒼きうるふの二月尽     三橋敏雄
>>〔21〕詩に瘦せて二月渚をゆくはわたし 三橋鷹女

>>〔20〕やがてわが真中を通る雪解川  正木ゆう子
>>〔19〕春を待つこころに鳥がゐて動く  八田木枯
>>〔18〕あっ、ビデオになってた、って君の声の短い動画だ、海の 千種創一
>>〔17〕しんしんと寒さがたのし歩みゆく 星野立子
>>〔16〕かなしきかな性病院の煙出   鈴木六林男
>>〔15〕こういうひとも長渕剛を聴くのかと勉強になるすごい音漏れ 斉藤斎藤
>>〔14〕初夢にドームがありぬあとは忘れ 加倉井秋を
>>〔13〕氷上の暮色ひしめく風の中    廣瀬直人
>>〔12〕旗のごとなびく冬日をふと見たり 高浜虚子
>>〔11〕休みの日晝まで霜を見てゐたり  永田耕衣

>>〔10〕目薬の看板の目はどちらの目 古今亭志ん生
>>〔9〕こぼれたるミルクをしんとぬぐふとき天上天下花野なるべし 水原紫苑
>>〔8〕短日のかかるところにふとをりて  清崎敏郎
>>〔7〕GAFA世界わがバ美肉のウマ逃げよ  関悦史
>>〔6〕生きるの大好き冬のはじめが春に似て 池田澄子
>>〔5〕青年鹿を愛せり嵐の斜面にて  金子兜太
>>〔4〕ここまでは来たよとモアイ置いていく 大川博幸
>>〔3〕昼ごろより時の感じ既に無くなりて樹立のなかに歩みをとどむ 佐藤佐太郎
>>〔2〕魚卵たべ九月些か悔いありぬ  八田木枯
>>〔1〕松風や俎に置く落霜紅      森澄雄


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