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禁断の木の実もつるす聖樹かな モーレンカンプふゆこ【季語=聖樹(冬)】

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禁断の木の実もつるす聖樹かな)

モーレンカンプふゆこ

 「山吹色のお菓子」と聞いてピンと来た方はテレビ時代劇を観る習慣がある(あった)はずである。賄賂の隠語として主にテレビ時代劇で使われている用語で、お菓子が入った箱の底を開けると小判がびっしり。「お代官様の大好きな山吹色のお菓子でございます」と越後屋が悪代官に渡すのである。

 実生活でそういった言葉を知ったのはファミレスでアルバイトをした時。洗面所に行くときは「1分行ってきます」と大声で告げるのが規則で、そんなことに気を使うのか!でも確かに必要だ…と驚いたものである。母からは独身時代に住み込みで働いていた頃醤油のことを「むらさき」と呼んでいた話を何度も聞いた。小学生だった筆者はそんな言葉を知っていることを密かに誇りに思っていた。

 こうした隠語は秘密が漏れないようにしたり仲間意識を高めたりするために使われる。「山吹色のお菓子」はいずれの条件も満たす良い例だ。

 そんなことは何も知らない高校生の頃も、仲間同士で特殊な言葉を使うことを楽しんでいた。好きな人の話をする時に、名前を言うと周囲にバレてしまうので全く関係ないあだ名をつけて呼んでいた。筆者の場合は話の内容よりも「関係ないあだ名をつけて会話をしているシチュエーション」そのものを楽しんでいた。

禁断の木の実もつるす聖樹かな   モーレンカンプふゆこ

 「禁断の木の実」は林檎のこと。「禁断の果実」という言い回しの方がよく使われるが、「果実」と言ってしまうと「木の実」に比べてあまりにもストレートに感じられる。アダムとイブが食べてしまった禁断の木の実は無花果、バナナ、ぶどうなどとする解釈もあるようだが、ここは林檎と確定させておきたい。

 同じものをさすのに「林檎」というのと「禁断の果実」「禁断の木の実」というのでは随分印象が違う。食べて良いものと食べてはだめなものだから、ある意味正反対といってもいいのかもしれない。事実としてはクリスマスツリーに林檎を象ったオーナメントを飾っているだけのことなのだが、そうは言わずエデンの園の背景を持ち出したことでその行為がただごとではなくなる。それも、「飾る」のではなく「つるす」のだ。前者はわくわくする心持ちだが後者はさらし者にするような、あるいは処刑するような不穏な感じがある。林檎の赤が血の色に見えてくるのは考えすぎか。

 言葉選びひとつで見えてくる情景の違いを味わうのは俳句の楽しみそのもの。吉田林檎ではなく「吉田禁断の木の実」という俳号も楽しいかもしれない。そう言ってみるまでが楽しいので実際にはそうしないのだけれど。

『定本 風鈴白夜』(2019年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】

モーレンカンプふゆこ句集『定本 風鈴白夜』



【吉田林檎のバックナンバー】

>>〔29〕時雨るるや新幹線の長きかほ  津川絵理子
>>〔28〕冬ざれや石それぞれの面構へ   若井新一
>>〔27〕影ひとつくださいといふ雪女  恩田侑布子
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>>〔22〕つぶやきの身に還りくる夜寒かな 須賀一惠
>>〔21〕ヨコハマへリバプールから渡り鳥 上野犀行
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>>〔18〕颱風の去つて玄界灘の月   中村吉右衛門
>>〔17〕秋灯の街忘るまじ忘るらむ    髙柳克弘
>>〔16〕寝そべつてゐる分高し秋の空   若杉朋哉
>>〔15〕一燈を消し名月に対しけり      林翔
>>〔14〕向いてゐる方へは飛べぬばつたかな 抜井諒一
>>〔13〕膝枕ちと汗ばみし残暑かな     桂米朝
>>〔12〕山頂に流星触れたのだろうか  清家由香里
>>〔11〕秋草のはかなかるべき名を知らず 相生垣瓜人

>>〔10〕卓に組む十指もの言ふ夜の秋   岡本眸
>>〔9〕なく声の大いなるかな汗疹の児  高濱虚子
>>〔8〕瑠璃蜥蜴紫電一閃盧舎那仏    堀本裕樹
>>〔7〕してみむとてするなり我も日傘さす 種谷良二
>>〔6〕香水の一滴づつにかくも減る  山口波津女
>>〔5〕もち古りし夫婦の箸や冷奴  久保田万太郎
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎     神野紗希
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人


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