ハイクノミカタ

休みの日晝まで霜を見てゐたり 永田耕衣【季語=霜(冬)】


休みの日晝まで霜を見てゐたり

永田耕衣


畳にごろんと寝転んで、庭の霜でも見ているのだろうか。昼までの間、霜の様子は少しずつ変わってゆく。それを見ている。間延びした最高の休みである。

「見る」は写生という点から考えれば、無駄にならないように、あるいは「見る」を使わない方が良い句になるのではないかなど、あれこれ考えてしまう動詞だ。しかし、「見てゐたり」という下五は、存外句会でよく見る措辞である。「見る」行為をメタ的な位置から読ませる感じが句に出やすいからか、句の調子に流した風合いが出るからか、意外とそれなりの味になりやすい。なので、私はそれなりの水準を超えて来ないと大して驚かない。

この句を読む時、「面白う雪に暮れたる一日かな 高橋睦郎」も思い出す。霜と雪が季語としてそう遠くないこと、時間の切り取り方がそう遠くないことも然ることながら、「見てゐたり」と「面白う」という俳句において攻めている言葉を用いているのも、両句に共通している点だと思う。

(安里琉太)


【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞



安里琉太のバックナンバー】
>>〔10〕目薬の看板の目はどちらの目 古今亭志ん生
>>〔9〕こぼれたるミルクをしんとぬぐふとき天上天下花野なるべし 水原紫苑
>>〔8〕短日のかかるところにふとをりて  清崎敏郎
>>〔7〕GAFA世界わがバ美肉のウマ逃げよ  関悦史
>>〔6〕生きるの大好き冬のはじめが春に似て 池田澄子
>>〔5〕青年鹿を愛せり嵐の斜面にて  金子兜太
>>〔4〕ここまでは来たよとモアイ置いていく 大川博幸
>>〔3〕昼ごろより時の感じ既に無くなりて樹立のなかに歩みをとどむ 佐藤佐太郎
>>〔2〕魚卵たべ九月些か悔いありぬ  八田木枯
>>〔1〕松風や俎に置く落霜紅      森澄雄


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. コンビニの枇杷って輪郭だけ 原ゆき
  2. 渚にて金澤のこと菊のこと 田中裕明
  3. 麻服の鎖骨つめたし摩天楼 岩永佐保【季語=麻服(夏)】
  4. いつせいに振り向かれたり曼珠沙華 柏柳明子【季語=曼珠沙華(秋)…
  5. 手袋に切符一人に戻りたる 浅川芳直【季語=手袋(冬)】
  6. 寝化粧の鏡にポインセチア燃ゆ 小路智壽子【季語=ポインセチア(冬…
  7. 皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人【季語=バナナ(夏)】
  8. 紅梅や凍えたる手のおきどころ 竹久夢二【季語=紅梅(春)】

おすすめ記事

  1. 【春の季語】涅槃図
  2. 山頂に流星触れたのだろうか 清家由香里【季語=流星(秋)】
  3. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2021年10月分】
  4. 蟷螂の怒りまろびて掃かれけり 田中王城【季語=蟷螂(秋)】
  5. 神保町に銀漢亭があったころ【第62回】山田真砂年
  6. 向いてゐる方へは飛べぬばつたかな 抜井諒一【季語=飛蝗(秋)】
  7. 死なさじと肩つかまるゝ氷の下 寺田京子【季語=氷(冬)】
  8. 【秋の季語】鴨渡る
  9. 山茶花の弁流れ来る坂路かな 横光利一【季語=山茶花(冬)】
  10. 時計屋の時計春の夜どれがほんと 久保田万太郎【季語=春の夜(春)】

Pickup記事

  1. 【新年の季語】二日
  2. 神保町に銀漢亭があったころ【第59回】鈴木節子
  3. 寒いねと彼は煙草に火を点ける 正木ゆう子【季語=寒い(冬)】
  4. 「パリ子育て俳句さんぽ」【9月11日スタート】
  5. あたゝかに六日年越よき月夜 大場白水郎【季語=六日年越(新年)】
  6. 【夏の季語】夏の月
  7. 【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2021年11月分】
  8. 結構違ふよ団栗の背くらべ 小林貴子【季語=団栗(秋)】
  9. ラグビーのゴールは青き空にあり 長谷川櫂【季語=ラグビー(冬)】
  10. 聞えない耳なら石榴ぶらさげよ 金原まさ子【季語=石榴(秋)】
PAGE TOP