蕎麦碾くや月山はうつすらと雪
佐藤郁良
(NHK俳句王国がゆく・山形県村山市)
今日は、自身の原点であり、転換点になった時の話をしたい。それは今から7年ほど前2016年11月の「俳句王国がゆく」の収録である。
掲句は、まさにその転換点となった収録で、私のもうひとりの師である佐藤郁良先生が詠んだ一句である。蕎麦粉の美しいさらさらとした質感、蕎麦粉の純白ではない色に注目した一句。11月半ば頃の収録で、遠く見える月山の頂上付近には雪が積もっていたことを覚えている。この収録は、NHK松山放送局で放送されていた「俳句王国がゆく」という番組であり、出演者のひとりとして山形県村山市を訪ねた。当時大学2年生だが、今までこのような俳句の番組に呼ばれることに全く縁がなかった。それもそのはず、俳句に一生懸命取り組んでいなかったからである。当時、バイトやサークル活動の方が楽しくて、句会に行こうとは思わなかったし、俳句を頑張ろうというモチベーションもなかった気がする。そもそも、群青の同世代のレベルが高くて、そんな気になれなかった。超えられないし、超えようとも思わない、そんなところだろうか。
そんな時、この収録のオファーが来て、「よし行ってみるか」となった際、共演者の欄に佐藤先生の名前があったのだ。初日は、外でのロケ。最上川急流下りを体験、そして板そばを作るところを見学し、美味しい板そば(あらきそば)を食べた。十四代と身欠き鰊も食べさせてもらった。翌日は、村山市のホールで収録、私は山形の名物「居合」をその場で見て、即吟をする役回りだった。その場で〈刃抜く瞬間疾し月冴ゆる 鈴木啓史〉という句を残した。当時はまだ本名で群青誌に投句をしていた頃だ。
ただ、肝心の転換点は、外ロケでもホール収録でもない。そう、ロケ終わりの夜の佐藤先生とのサシ飲みである。初めて先生とじっくり話すことが出来て、そこで俳句への向き合い方や今後目指す道などを語った(もちろんくだらない話もある)。そこから本気で俳句と向き合っていこうと思った。そして、この1か月後の句会で「総史」という俳号をいただくことになる。(※総史の由来は、この日の夜のサシ飲みで、新撰組の天才剣士・沖田総司のような切れ味で俳句界の色んなことを切りつけていたからだそう。)
この収録を機に、「群青」の句会への出席率が上がった。モチベーションもアップし、多い時には月4回ほど句会に参加していた。学生時代には大した成果は発揮できなかったが、そこで積み上げたものが、今日の道新俳句賞や星野立子新人賞に繋がっているのだろう。もちろん、句集の上梓にも。
今回の句集(氷湖いま)は、逆編年体になるようにしている。最新の句(北海道での社会人生活)から、最も古い句(東京での学生時代)に戻っていく流れだ。その最後に置いた一句は、<冬ざれの川いつぱいに舟唄が 鈴木総史>。そう、当時の村山での吟行、最上川を下った際に詠んだ句。これが私のアナザースカイ(笑)
句集、よしなによろしくお願い申し上げます。
(鈴木総史)
【執筆者プロフィール】
鈴木総史(すずき・そうし)
平成8年(1996)東京都生まれ、27歳。
北海道旭川市在住。3月より島根県松江市へ引越。
平成27年(2015)3月、「群青」入会。櫂未知子と佐藤郁良に師事。
令和3年(2021)10月、「雪華」入会。
令和4年(2022)、作品集「微熱」にて、第37回北海道新聞俳句賞を受賞。
令和5年(2023)1月より、「雪華」同人。
令和5年(2023)、連作「雨の予感」にて、第11回星野立子新人賞を受賞。
令和6年(2024)3月に、第一句集『氷湖いま』を上梓予定。
現在、「群青」「雪華」同人。俳人協会会員。
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
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