寒卵良い学校へゆくために岩田奎【季語＝寒卵（冬）】

ハイクノミカタ

寒卵良い学校へゆくために　岩田奎【季語＝寒卵（冬）】

2024/2/1
ハイクノミカタ, マンスリーゲスト
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寒卵良い学校へゆくために

岩田奎
『膚』

掲句の「学校」とは、果たして何学校を思うだろうか、考えてみてほしい。

自分の鑑賞としては、「あなたは良い学校へゆくんだからね」という狂気じみた教育ママを思いたい。だから、中学受験のシーンを思った。エグい読みなら私立小学校へのお受験でも構わない。この辺りのカテゴリーなら努力量よりも本人の資質や親の熱量・資金力がものを言いそうだ。「寒卵」は子どもを中から（それこそ脳みそから）変えてしまいそうで、こう俳句にするとこの寒卵を子どもに与える母親はまるで悪い魔女のようだ。「受験」をテーマにして中学受験やお受験などを明確に詠んだ点で、掲句は結構画期的なんじゃないだろうか。

と思っていたが、この「学校」はどの学校だと読まれるのだろうか、一応ツイッターでアンケートをとってみた。すると仰天。「小学校」が突出して低く、「高校」や「大学」は「中学校」と同様に30%程度の支持を得たのである。これは目から鱗であった。

なるほど、冷静になってみると色々な読みができる。「高校受験」と読むとこれはこれでだいぶんエグい句になる。いや、もちろん我が子の成長・成功を祈る親の優しさと読めなくもないが、いわゆる「自称進学校」へ行ってもらうための高校受験ならではのエグみをすくい取ることができよう。「高校受験」や「大学受験」になってくると、主語も変わってきうる。つまり、親、というものが登場せず、自分で冷蔵庫を開けて「寒卵っていうしな、食っとくか」というなんともとぼけた味のある受験生像を思えるかもしれない。

個人的には「大学」は日常会話で「学校」と言わず「大学」ということが多いので読みの選択肢にはなかったが、しかし世論は偉大であるのでいずれの読み方も存在するのであろう。この記事の執筆がきっかけで思わぬ発見があったのだった。

さて、2月1日は都内の中学受験本番の日。2月1日は開成を受験した思い出の日である。一方、自分の本命にしていたのは自転車で通える距離にあり国立中学なので学費も安かった「筑波大学附属駒場」。ここは倍率が約8倍で、簡単にいえば開成に受かる400人のうちの上位100人がこの中学も受かるのでこちらに通う、という中学だ。当時の自分は受かる気まんまんであったが、結果は惨敗。不合格した瞬間は泣いて悔しがったが、「開成も同率で第一志望だったし」という謎の切り替えですぐに立ち直った。ここで運動会や旅行といった行事を経験できたのはとても良かったし、何より俳句部に出会ったのも元はと言えば中学受験で本命に落ちたからだ。

そういえば自分が受験したときは2月1日から3日まで朝食が卵納豆だった。自分も知らず知らずのうちに寒卵パワーを注入されていたのかもしれない。

（板倉ケンタ）