すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる
阿部完市
あっという間に立秋を迎え、もう木曜日。
秋に入りたてのこの時期にいつも思うのは、風が違うこと。肌に受けるようすが軽い。
そして虫が鳴き始めること。
みんみんもかなかなもつくつくぼーしも聞いたな、と思ったら、近所でアオマツムシが鳴き始めました。(本当はマツムシが聞きたいけれど)
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すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる 阿部完市
『にもつは絵馬』より。昭和44年の作品。
この句を思うとき、いつも心が軽くなります。何となく水のある風景を思います。広い青田の畦道とか、螢がいそうな清らかな川とか。私は川が好きなので、川にかかる細い橋や川沿いを歩くときの風を、この句から感じています。
この句の軽さは、何といっても音の連なり。「とおる」という長音に挟まれた「そこは太鼓をたたいて」のリズムは、何やら16分音符が連なっているようにも聞こえる。太鼓は小さく軽く、まわりにいる生きもの聞こえるくらいの音。
そして、そこを通っているひとは、ひとりです。ひとりで通っていることそのものが、安寧だったりするのかなー。
さいきん、時計をなくしました。ひと月ほど探しましたが、見つからないのでスマートウオッチを買ってみました。心拍数とか酸素飽和度とか、ストレスなんかも計測してくれる。何日か計測して、記録をつけて気づいたんですが、平日と休日のストレスの値がずいぶん違う。休日は平日の半分以下。なんなら1/3。
できればふだんから安らかにいきたいけれど、心を軽くするって、けっこう難しい。俳句ですこやかな軽やかさを表現することも。そんなふうに思います。
ちなみに、ですが。
俳句に迷ったときに、私はあべかんの俳句論を読みます。『絶対本質の俳句論』という本。「時間論」「音韻論」「定型論」の3つの論が書かれているのですが、私にとっては、すごく難しい。でも直観的に、この本に書いてあることが皮膚に入り込んでくる。あべかんの俳句が好きだから、文章も好きなのかもしれないけれど。そして、彼が精神科医だから心惹かれるのかもしれないけれど。
ではでは、また来週です。
よい週末を。
(宮本佳世乃)
【阿部完市『絶対本質の俳句論』も!】
【執筆者プロフィール】
宮本佳世乃(みやもと・かよの)
「炎環」同人、同人誌「オルガン」編集担当、「豆の木」に参加。
合同句集『きざし』(2010、ふらんす堂)、第一句集『鳥飛ぶ仕組み』(2012、現代俳句協会)、第二句集『三〇一号室』(2019、港の人)。
第11回炎環新人賞、第19回炎環賞、第35回現代俳句新人賞。
【お知らせ】
2015年に亡くなられた俳人・澤田和弥さんの句文集の出版するクラウドファンディングのプロジェクトが立ち上がっています。詳細は以下のバナーから!(Motion Galleryのプロジェクトページに遷移します)
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
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【2023年3月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】
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【2023年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】
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【2023年1月の水曜日☆岡田由季のバックナンバー】
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【2022年11・12月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】
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>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
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>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海 野見山朱鳥
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>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな 畠山弘
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【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】
>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は 中原道夫
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>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな 蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる 岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
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【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】
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>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期 富沢赤黄男【前編】
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