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順番に死ぬわけでなし春二番 山崎聰【季語=春二番(春)】


順番に死ぬわけでなし春二番

山崎聰

巷では映画『PERFECT DAYS』を観た観ないで盛り上がっている。そんな矢先に私は午後半休をとり、映画館を通り過ぎて池袋のサンシャインシティに向かった。目指したのは「連載30周年記念 名探偵コナン展」。アニメ版を追いかけていて、特に映画(劇場用オリジナル長編)は全部観てきた。平日の昼なので会場はさほどの混みようではない。名言集、名場面の展示を同行した笠原小百合さん(「田」)と黙々と見入る。引っかかるポイントがかなりかぶっていた。斧や青酸カリなど凶器の実物大モデルの展示には私と小百合さんしか貼り付いておらず、「俳人てこういうの好きだよね」と笑った。

名言集の展示に平次と和葉の一場面があった。和葉が崖下に落ちそうになり、平次は手を掴んで助けようとする。だが平次を救うため手を離そうとする和葉。そんな状況で放った平次の台詞である。

「う、動くな和葉… 動いたら… 殺すぞ…」

このセリフの成り立ちについて作者の青山剛昌先生は「逆なことを言うのがかっこいい」と語る。なんと、ドラマ『男女7人夏物語』で大竹しのぶが明石家さんま(役名忘れました)に「あんたなんか大っ嫌いよ!」と言ったのが実は「大好き」という意味だったことに感じるところがあったことが発端だという。「殺すぞ」を「絶対助ける」という意味で使うことに美学があるのだ。確かに助けるのだという強い意志が感じられる。

   順番に死ぬわけでなし春二番

人間は年齢順に死ぬとは限らない、という道理に納得していたらこのような句を作ろうとは思わないであろう。「まさかこの人が」という死があり、その時期が予想よりも早かったことに心がついてゆかず、整理してこのような考えに至るまでに時間がかなり必要だったはずである。

「春二番」は歳時記には載っているが、気象庁では春二番が吹いたという発表はしていない。広辞苑にも見当たらないが、春一番の後に吹いた強く暖かい南風のことをさしているのは明白である。

順番というキーワードを提示しておいて、春一番ではなく二番。逆縁の故人に「次は自分が行く」と宣言しているようでもある。

上五中七は突き放したような言いぶりだ。しかし、俳句の姿になると諦観に溢れた措辞がかえって諦めきれない心を浮き彫りにする。

ストレートな表現ではないがそれがかえって大好きな気持ちを「大嫌い」と、助ける意志を「殺すぞ」というのに匹敵する逆説的表現に思えてならない。

『忘形』(2003年刊)所収。

会場は写真撮影OKでした。写真は灰原哀ちゃん。
特に後半の3行、こんな心持ちで俳句を作りたい。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【鬼は外!鬼平犯科帳(幸四郎版)】

【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



【吉田林檎のバックナンバー】
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>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人


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