ハイクノミカタ

祭笛吹くとき男佳かりける 橋本多佳子【季語=祭笛(夏)】


祭笛吹くとき男佳かりける

橋本多佳子

 向井太一の歌が聴きたくてちょうどその時やっていたライブに行ったらさかいゆうとの2マンライブだった。目的は向井太一だったがさかいゆうのキーボード(字数が多いので以後ピアノ)を弾く姿にぐっと心を掴まれた。その話を女友達にしたら「私はギター派」という話に。

 その時は好みの違いで話が終ったのだが、自分なりにピアノを弾く姿を好む理由を分析してみたら、自由がきかない点に惹かれていることに行き着いた。ギターは歩き回ったり飛び跳ねたり出来るがピアノはその場を離れることができない。どんなに盛り上がっても立ち上がるくらい。それだけに溢れる感情を演奏に託すしかないのだ。そもそも俳句を好むような人間だからか、規制の多いなかでやりくりする姿に感動するのである。

 俳人でギターを好む方もいると思うので是非ともその理由を分析してお聞かせいただきたい。好きに理由はないと言ってしまえばそれまでだが、そこを探し出して議論することはきっと楽しい。

  祭笛吹くとき男佳かりける

 祇園祭は7月1日から31日まで1ヶ月に渡って開催されるが、有名なのは7月17日と24日の山鉾巡行である。掲句は昭和24年に多佳子が祇園祭を見た時のもの。山鉾の上で笛を吹く男の姿を「佳かりける」と形容詞ひとつで述べているだけだが、そこはかとない色気を感じるのは季語の祭笛ゆえ。別の季語、例えば神輿をかつぐ姿が「佳かりける」では焦点がぼやける。吹く姿がくっきりと浮かぶからこそ形容詞が効果を発揮するのである。また語尾を「けり」ではなく「ける」と連体形にしたことで内省的なニュアンスになり、はしゃいでいるのではなく心の奥底から詠嘆していることを語っている。

 祇園祭を知らない時は汗にまみれて眉間に皺を寄せ、一心不乱かつ情熱的に吹く姿を想像したが、実際には稚児の舞など巡行の推移を見守りながら冷静に祭笛を吹いている。個人の思いを込めて吹くわけではなく祭として守るべきことがたくさんあるからであろう。

 しかし、その冷静さとは裏腹に唇はしっかりと祭笛をとらえている。その素っ気なさとのギャップがかえって色気を醸し出している。

 祭の中でも花形である山鉾でもっと派手な役回りの人はいるのに祭笛の吹き手に心をとめるのが多佳子の個性。

 ギター派もピアノ派も祭笛に関しては魅力的ということで大いに合意することだろう。ほかにもこの楽器を演奏する姿こそ色気満載というお勧めがあればご教示くださいませ。大いに議論しましょう。

 『紅絲』(1951年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



【吉田林檎のバックナンバー】

>>〔55〕昼顔もパンタグラフも閉ぢにけり 伊藤麻美
>>〔54〕水中に風を起せる泉かな    小林貴子
>>〔53〕雷をおそれぬ者はおろかなり    良寛
>>〔52〕子燕のこぼれむばかりこぼれざる 小澤實
>>〔51〕紫陽花剪るなほ美しきものあらば剪る 津田清子
>>〔50〕青葉冷え出土の壺が山雨呼ぶ   河野南畦
>>〔49〕しばらくは箒目に蟻したがへり  本宮哲郎
>>〔48〕逢はぬ間に逢へなくなりぬ桐の花 中西夕紀
>>〔47〕春の言葉おぼえて体おもくなる  小田島渚
>>〔46〕つばめつばめ泥が好きなる燕かな 細見綾子
>>〔45〕鳴きし亀誰も聞いてはをらざりし 後藤比奈夫
>>〔44〕まだ固き教科書めくる桜かな  黒澤麻生子
>>〔43〕後輩のデートに出会ふ四月馬鹿  杉原祐之
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>>〔38〕薔薇の芽や温めておくティーカップ 大西朋
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>>〔32〕虚仮の世に虚仮のかほ寄せ初句会  飴山實
>>〔31〕初島へ大つごもりの水脈を引く   星野椿
>>〔30〕禁断の木の実もつるす聖樹かな モーレンカンプふゆこ
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>>〔28〕冬ざれや石それぞれの面構へ   若井新一
>>〔27〕影ひとつくださいといふ雪女  恩田侑布子
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>>〔25〕冬と云ふ口笛を吹くやうにフユ  川崎展宏
>>〔24〕伊太利の毛布と聞けば寝つかれず 星野高士
>>〔23〕菊人形たましひのなき匂かな   渡辺水巴
>>〔22〕つぶやきの身に還りくる夜寒かな 須賀一惠
>>〔21〕ヨコハマへリバプールから渡り鳥 上野犀行
>>〔20〕遅れ着く小さな駅や天の川    髙田正子
>>〔19〕秋淋し人の声音のサキソホン    杉本零
>>〔18〕颱風の去つて玄界灘の月   中村吉右衛門
>>〔17〕秋灯の街忘るまじ忘るらむ    髙柳克弘
>>〔16〕寝そべつてゐる分高し秋の空   若杉朋哉
>>〔15〕一燈を消し名月に対しけり      林翔
>>〔14〕向いてゐる方へは飛べぬばつたかな 抜井諒一
>>〔13〕膝枕ちと汗ばみし残暑かな     桂米朝
>>〔12〕山頂に流星触れたのだろうか  清家由香里
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>>〔6〕香水の一滴づつにかくも減る  山口波津女
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>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎     神野紗希
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>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人


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