ハイクノミカタ

紅梅の気色たゞよふ石の中 飯島晴子【季語=紅梅(春)】


紅梅の気色たゞよふ石の中)

飯島晴子

「石の中」は、複数の岩に囲まれた空間を思うこともできるだろうが、やはり、一個の石の内側を想像したい。そうでなければ「紅梅」「気色」「たゞよふ」という言葉に対する裏切りがなくなるからである。石の硬い表面を通過し、石の内側へと侵入する紅梅の気色。あるいは、紅梅の気色が、紅梅なくして石の内側から発生したのかもしれない。高密度の石の内側に漂うという違和感が面白いのである。

小山玄紀


【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員


小山玄紀さんの句集『ぼうぶら』(2022年)はこちら↓】


【小山玄紀のバックナンバー】
>>〔46〕辛酸のほどは椿の絵をかけて 飯島晴子
>>〔45〕白梅や粥の面てを裏切らむ 飯島晴子
>>〔44〕雪兎なんぼつくれば声通る 飯島晴子
>>〔43〕髪で捲く鏡や冬の谷底に 飯島晴子
>>〔42〕ひきつゞき身のそばにおく雪兎 飯島晴子
>>〔41〕人の日の枯枝にのるひかりかな 飯島晴子
>>〔40〕年逝くや兎は頰を震はせて 飯島晴子
>>〔39〕白菜かかへみやこのなかは曇なり 飯島晴子
>>〔38〕新道をきつねの風がすすんでゐる 飯島晴子
>>〔37〕狐火にせめてををしき文字書かん 飯島晴子
>>〔36〕気が変りやすくて蕪畠にゐる 飯島晴子
>>〔35〕蓮根や泪を横にこぼしあひ 飯島晴子
>>〔34〕みどり児のゐて冬瀧の見える家 飯島晴子
>>〔33〕冬麗の谷人形を打ち合はせ 飯島晴子
>>〔32〕小鳥来る薄き机をひからせて 飯島晴子
>>〔31〕鹿の映れるまひるまのわが自転車旅行 飯島晴子
>>〔30〕鹿や鶏の切紙下げる思案かな 飯島晴子
>>〔29〕秋山に箸光らして人を追ふ 飯島晴子
>>〔28〕ここは敢て追はざる野菊皓かりき 飯島晴子
>>〔27〕なにはともあれの末枯眺めをり 飯島晴子
>>〔26〕肉声をこしらへてゐる秋の隕石 飯島晴子
>>〔25〕けふあすは誰も死なない真葛原 飯島晴子
>>〔24〕婿は見えたり見えなかつたり桔梗畑 飯島晴子
>>〔23〕白萩を押してゆく身のぬくさかな 飯島晴子
>>〔22〕露草を持つて銀行に入つてゆく 飯島晴子
>>〔21〕怒濤聞くかたはら秋の蠅叩   飯島晴子
>>〔20〕葛の花こぼれやすくて親匿され 飯島晴子
>>〔19〕瀧見人子を先だてて来りけり  飯島晴子
>>〔18〕未草ひらく跫音淡々と     飯島晴子
>>〔17〕本州の最北端の氷旗      飯島晴子
>>〔16〕細長き泉に着きぬ父と子と   飯島晴子
>>〔15〕この人のうしろおびただしき螢 飯島晴子
>>〔14〕軽き咳して夏葱の刻を過ぐ   飯島晴子
>>〔13〕螢とび疑ひぶかき親の箸    飯島晴子
>>〔12〕黒揚羽に当てられてゐる軀かな 飯島晴子
>>〔11〕叩頭すあやめあざやかなる方へ 飯島晴子


>>〔10〕家毀し瀧曼荼羅を下げておく 飯島晴子
>>〔9〕卯月野にうすき枕を並べけり  飯島晴子
>>〔8〕筍にくらき畳の敷かれあり   飯島晴子
>>〔7〕口中のくらきおもひの更衣   飯島晴子
>>〔6〕日光に底力つく桐の花     飯島晴子
>>〔5〕気を強く春の円座に坐つてゐる 飯島晴子
>>〔4〕遅れて着く花粉まみれの人喰沼 飯島晴子
>>〔3〕人とゆく野にうぐひすの貌強き 飯島晴子
>>〔2〕やつと大きい茶籠といつしよに眠らされ 飯島晴子
>>〔1〕幼子の手の腥き春の空   飯島晴子


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 暮るるほど湖みえてくる白露かな 根岸善雄【季語=白露(秋)】
  2. つぶやきの身に還りくる夜寒かな 須賀一惠【季語=夜寒(秋)】
  3. 菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ 金原まさ子【季語=菜の花(春…
  4. 葱白く洗ひたてたるさむさ哉 芭蕉【季語=葱(冬)】
  5. 替へてゐる畳の上の冬木影 浅野白山【季語=冬木(冬)】
  6. 夏潮のコバルト裂きて快速艇 牛田修嗣【季語=夏潮(夏)】
  7. 若葉してうるさいッ玄米パン屋さん 三橋鷹女【季語=若葉(夏)】
  8. 針供養といふことをしてそと遊ぶ 後藤夜半【季語=針供養(春)】

おすすめ記事

  1. 木枯やたけにかくれてしづまりぬ 芭蕉【季語=木枯(冬)】
  2. 【冬の季語】十二月
  3. 秋櫻子の足あと【最終回】谷岡健彦
  4. 「パリ子育て俳句さんぽ」【9月25日配信分】
  5. 【春の季語】猫柳
  6. 大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波【季語=大根の花(春)】 
  7. 人妻ぞいそぎんちやくに指入れて 小澤實【季語=磯巾着(春)】
  8. 【春の季語】薄氷
  9. 漕いで漕いで郵便配達夫は蝶に 関根誠子【季語=蝶(春)】
  10. 【連載】もしあの俳人が歌人だったら Session#7

Pickup記事

  1. 冷やっこ試行錯誤のなかにあり 安西水丸【季語=冷やっこ(夏)】
  2. 恋ともちがふ紅葉の岸をともにして 飯島晴子【季語=紅葉(秋)】
  3. 皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人【季語=バナナ(夏)】
  4. 茅舎忌の猛暑ひきずり草田男忌 竹中宏【季語=草田男忌(夏)】
  5. 帰農記にうかと木の芽の黄を忘ず 細谷源二【季語=木の芽(春)】
  6. 【夏の季語】南天の花
  7. みかんいろのみかんらしくうずもれている 岡田幸生【季語=蜜柑(冬)】
  8. 「野崎海芋のたべる歳時記」カスレ
  9. 「パリ子育て俳句さんぽ」【5月7日配信分】
  10. 【新年の季語】松飾
PAGE TOP