この人のうしろおびただしき螢
飯島晴子
こう言いながらも、蛍は一匹だに見えていないのだと思われる。夥しい数の蛍が「この人」のうしろに完全に密封されているような緊張感が、掲句にはある。
掲句の二句前には〈親友や螢の池をあひへだて〉があり、私は「親友」と掲句の「この人」を同一人物と見ている。すると、友に対する親しみというよりかは、池を隔てて眺め、そしてうしろに無数の蛍を隠している友に対する畏れのようなものが前面に出てくる。掲句の収められている『春の蔵』には〈貝殻草で窓を叩いてゆく戦友〉〈栗園の小雨歩いてくる畏友〉など、やはり行動力のある、畏れを抱くべき対象としての「友」が登場する。〈青芒かついで友のうしろへまはる〉でもやはり、友は、追従すべき存在として示されている。
以前にも紹介した、晴子の案外受身な姿勢、そして親しみよりは畏れを重視する精神が表れている一句であろう。なお、〈青芒〉の句こそ色々な意味で晴子らしい句なのであるが、これはまた別に扱いたいと思う。
(小山玄紀)
【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員
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