クリスマスイヴの始る厨房よ千原草之【季語＝クリスマス（冬）】

ハイクノミカタ

クリスマスイヴの始る厨房よ千原草之【季語＝クリスマス（冬）】

2022/12/24
ハイクノミカタ, 阪西敦子
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クリスマスイヴの始る厨房よ

千原草之(ちはら・そうし)

　わー、つかれたつかれたつかれたー、なんでこんなつかれるのと思ったら、そうでした、数年前まで今日（12月23日）は休み（天皇誕生日）、体が覚えているのねと、ものごころついてからずっと、今日が休みだった人として感じつつ、休みが変わったという印象がすごく鮮明なのに、それはもうかなり昔のことなのだと驚く。

　時間は不思議。

　クリスマスイヴの始る厨房よ

　この連載のはじまりに改めて読み直して虜になった千原草之。実は10年以上も前に鑑賞を書く機会があった。『ホトトギスの俳人101』という本の中でのこと。

　誰が割り振って私に書かせてくれたのかはわからない。なぜかわたしにその順が回ってきて、その扉が目の前に開き、書籍の刊行後だっただろうか、妻でやはり虚子の弟子であった千原叡子さんから手紙をいただいた。便箋の指定の場所をのり付けするとそのまま封書として送れる切手代金付きの、何と呼んだかそれで届いた。今もあるんだろうか、あの便箋封書。その叡子さんも、2年前に亡くなった。

　そんなこもごもを経て、いつか取り上げたいと思っていたこの句。

　クリスマスイブはクリスマスの前夜。厳密にいえば、24日の昼はクリスマスイブではない。日が暮れてからがイブ、ちょっと陰暦味がある。陰暦とは月の周期でカウントすることだけれど、あわせて昼ではなく夜でカウントすること。今の暦から考えると、ちょっと裏打ちのようでもある。

　なので、この厨房は夜の食事の支度を始めたところ。七面鳥を焼いたかどうかは知らないけれど、料理して、飲みものが冷やされ、日本であればケーキが最後に控えているのかもしれない、そのためのフォークなども。

　日本におけるクリスマスイブは実に多彩だ。信仰の、家族行事の、恋人たちの、友人との、あるいは残業中の。人によって、あるいはひとりの人でも年によって変わるその過ごし方だけれど、この句にある待つ気持ち、あるいは無関心に見せかけて少し気にしてしまう意識に、自分を見透かされたかのように賛同してしまう。

　一方で、本当に一年で一番好きな日のひとつ、毎年待ちわびてしまうのは冬至。一年で一番日が短いといえば暗い印象だけれど、これ以上短くはならなくて、あとは長くなるだけの日ともいえる昼の時間の伸び始めの日もこの頃にある。冬至を知っているすべての人がそれを待ちわびている派かはわからないけれど、いろんな文化のうちのいくつかで待ちわびる時期が重なるというのは、何か少しいい。

　と、千原草之の句の何となくいいところを言語化しようとすると尽きなくなってしまう。関係のあることから関係のあまりないことまで、ずるずると引き出してしまうこの話題性（なのか）が魅力の素なのだ。

　というわけで、季刊・千原草之も季節を約2周した。連載開始の2週目に「クッキーと林檎が好きでデザイナー」を紹介したのは2020年10月9日のこと。たった2年そこらだけれど、知らなかった作者を知ったことはもちろん、見落としていた句の味わいがわかったりするようになって、始まりはすごく昔のことのような気がするのだ。

　この充実した時間、句や視点との出会いはもちろん、週に一回、ひたすら俳句に浸る時間を与えてくれたハイクノミカタ・ハナキン枠（今週も金曜に間に合ってませんが）に感謝しつつ、私の担当は次回で交代します。

　それでは、この週末は、よいクリスマスイブ＆クリスマスを。

『垂水』（1949年）

（阪西敦子）

【執筆者プロフィール】
阪西敦子（さかにし・あつこ）
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。

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