噴水の蕭条として冬に入る 馬場移公子【季語=冬に入る(冬)】


噴水の蕭条として冬に入る

馬場移公子

 今年も群馬県立女子大学のキャリア講座で講義を行ってきた。
 そこで受ける質問に刺激されて毎年内容をグレードアップさせている。少なくとも本人は「アップ」したつもりでいる。講義のなかで読書を勧めている流れで毎年聞かれるのはおすすめの本なのだが、今年は本の選び方についての質問だった。色々と挙げてみた結果、その学生さんは「本屋に行きます」との結論にたどり着いていた。
 「積読チャンネル」を推薦しておけばよかったと家人の指摘によって後から気づいた。2人ともよく視聴しているYouTubeチャンネルなのだ。SNSでお気に入りのキュレーターを見つけたら良いとまで言ったのに!
「積読チャンネル」で動画として面白かったのは「政治学者がPTA会長になると何が起こるのか?#28」。『歌よみに与ふる書』を紹介した番組「短歌を酷評した本がおもしろすぎるww」もあるのでここでプッシュしておきます。
 同じ本なのに、入り口が違うだけで高揚感が加わるのはなぜだろう。好きな評論家を見つけるのは良い本の選び方としてやはり鉄板なのではないか。

噴水の蕭条として冬に入る

 楽しいはずの噴水がものさびしさを醸し出している。噴水は本来夏の季語だ。そして今日は立冬。体はまだ寒さに対応していない。そんな体で冬の噴水にはわざわざ近寄りたくないものだ。冬の噴水にはそれほど華やかな演出もない。ただ細々と水を流しているだけの存在となってしまっているのだ。勢いのない噴水池は心なしか水底のゴミがよく見えてしまったりもする。
「蕭条(しょうじょう)」とはものさびしいこと、ひっそりしていること。俳句に使うときは大げさにならないように使いたいものだが、この句では華やかだった夏の噴水をネガフィルムに落としこんだような効果をもたらしている。明るい頃があったからこそ作り出される寂しさの影そのものだ。
「冬に入る」は「冬立つ」「冬来る」に比べて自分の意思で冬に突入している感じを受ける。モノクロの世界に入ってしまったかのような噴水という消極的な存在に対して作者は意思をもって冬に足を踏み入れている。
 作者は「馬酔木」の有力俳人であった。同誌は今年12月号をもって終刊することが決まっている。
 噴水は透明なので心情を反映しやすい。それだけに解釈も自由だ。冬に入る。それは同時に次の芽吹きを養う期間でもあるのだ。

(吉田林檎)


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



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