
傘寿とて緑陰力の身につきし
宮坂静生
一時期「◯◯力」というタイトルが次々とベストセラーを記録していた。そのきっかけは赤瀬川原平の『老人力』。1998年の流行語大賞最後の10候補にも入った。「〇〇力」本のなかで私のお気に入りは『鈍感力』。こちらも2007年流行語大賞のトップ10入りを果たした。デキる力よりも流せる力の方が流行にはなりやすいのだろう。
少々違う話だが力というと
虹を呼ぶ念力くらい身につけし 正木ゆう子
が印象的だ。強烈なポジティブ。すらっとこんな素敵なことが言える力を身につけたい。
傘寿とて緑陰力の身につきし
傘寿とは80歳のお祝い。かつては数えで祝っていたが今は満年齢で祝うのが主流だ。数えで祝ったら「早いよ!」と怒られてしまうかもしれない。年齢を重ねたらそれなりの力を身につけていきたいものだが、「緑陰力」なるものを獲得するには80年かかるようだ。
緑陰力。一応辞書をあたってみたが案の定見つからなかった。その定義は読者に託されているわけだが、緑陰に没入する力と考えて差し支えないだろう。誰にでも身についていそうな気はするが、作者は傘寿を超えて初めて力を身につけたと言えるようになったことを実感したのだ。
句集には特別な位置付けとして緑陰が登場する句がほかにもある。
樹木葬とは緑陰のひと眠り
樹木葬が抱く死のイメージを取り払い、緑陰でひと眠りするのも悪くないという気さえしてくる。(変な気は起こしていませんのでご心配なく。)傘寿の句にするか迷った一句。
緑陰ではないが木への思い入れとしてこんな句も目にとまる。
木のこころ根が抱きかかへ春隣
秋の幹百年後の日射しかな
これまでの80年もこれからの100年も木の魂に寄り添う心が読み取れる。100年の視座があるからこそ作者は地貌季語を収集する必要を切に感じたのかもしれない。
『鑑真』(2024年刊)所収。
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】

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