水羊羹交はすことのは美しく 伊藤敬子【季語=水羊羹(夏)】


水羊羹交はすことのは美しく
伊藤敬子

 料理が好きな友人が大学いもだけは手がかかるので作らないと言っていた。さつまいもを水にさらすことに始まり、油で揚げて、フライパンで蜜を作り、その蜜に揚げたさつまいもをからめて黒ごまを散らす。それだけの手間をかけたからなのか、さつまいものポテンシャルなのか、大学いもは美味しい。
 さつまいもはそのままかじっても決して美味しく味わうことはできない。焼くだけでも良いからひと手間をかければ美味しくいただける。その「焼くだけ」も楽ではないのだけど。
 言葉もそんなものだと思う。思ったことをそのまま口にするよりも、ひと手間かけた方が美しく伝わる。俳句はひと手間もふた手間もかけることができるのだから、手間を惜しまず言葉を磨き続けていきたい。

水羊羹交はすことのは美しく

 「ことのは」と「美しく」。いずれも俳句で使いたいのにためらってしまう言葉である。
 まず、「ことのは」は何やら気取っている。同じものをさす「言葉」には濁音があるが「言の葉」にはない。個人的に音も意味も美しくて大好きな言葉だけど、それゆえに「ことのは」にもたれかかった句になってしまいそうだ。
 「美しく」は俳句とは相性が良くない。いかに美しいと言わずに美しいと感じさせるかに腐心するのが俳句作りの楽しみのひとつでもある。
 この難易度の高い二つの言葉が「水羊羹」という季語を通じて調和した一句。それは水羊羹を食べるシチュエーションを思い浮かべるとわかる。水羊羹を食べるのはお中元で送られてきたものをいただく時か、改まった訪問で供された時が代表的な例であろう。
後者として鑑賞すると全体がカチッとはまる。恩師を訪問する教え子だろうか。卒業してから20年ほどたっている。先生は和服に違いない。到着した時にはほどよい湿り気の冷たうおしぼりも出たであろう。絶妙に淹れられたお茶もある。硝子の器には青楓と黒文字の添えられた水羊羹。
 恩師と教え子の久々の再会となると最初は距離があるだろう。失礼のないよう丁寧に言葉を選んで会話を交わしている。その言葉選びがことごとく成功しているのだ。言葉…いやことのはそのものも美しいのだが、装いも小ぎれいでことのはの美しさを引き立てている。満足な時間となったに違いない。
 この句の描く世界は全体としてなんとなく気取ってはいるのだが、そこに嫌味が感じられない。しかもここまでドラマを思い描くことができるのは水羊羹ゆえ。水羊羹がこんなに楽しい季語だとは思わなかった。

『千艸』(2020年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


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