敵地秋雨ブルペンは墓で繭 赤羽根めぐみ【季語=秋雨】


敵地秋雨ブルペンは墓で繭

赤羽根めぐみ

 ひゃあああああ…と、息を飲んだ。二〇二六年の俳句年鑑の中で出会った一句。言い得て妙。「牛の囲い」という土臭い言葉が語源でもあるブルペンは、投手が試合のために肩をあたためる場所。そこにはマウンドに立つこともなく裏方に徹する人々がいる。いつでも投げられるようにと準備万端に調整した選手が戦略の都合でそのまま帰宅、なんてことも珍しくない。しかしスタンバイも仕事。ボールを受け続けるキャッチャー、コーチ、スタッフ達が観客の見えないところで戦っている。
「墓」「繭」「敵地」のキーワードが重い。蛹は羽化できるかできないか。「墓」は残酷な表現だが、緊張感を高める。
DeNAベイスターズを推す息子(12歳)にこの句を見せたら、こんな言葉が返ってきた。「ブルペンは影の立役者。墓じゃないよ。むしろ基地。」そうか、ファンはこういう風に見るのか。息子の言葉は救いになったが、じゃあ自分が選手本人だったら…。秋雨の音が窓から伝う。

(西山ゆりこ)


【執筆者プロフィール】
西山ゆりこ(にしやま・ゆりこ)
1977年神奈川県生まれ。「駒草」同人。俳人協会会員。
第10回星野立子新人賞受賞。句集『ゴールデンウィーク』『錨(アンカー)』。



第10回星野立子新人賞を受賞した若手俳人による注目の第二句集!
◆自選10句
十代の首筋をもて海芋咲く
遠くより視線を戻す暑さかな
八月や果実のやうに嬰量る
バックネット裏の母達風光る
うれしげにさらはれてゆく村芝居
とんでくる拳のやうな寒さかな
白障子手紙の中のしづかなり
手を高くエスカレーターより御慶
寺山忌煙草のけむり無き街に
うつむくといふは鳥にも春惜しむ


20歳から俳句をはじめ、現在40歳。夢、希望、孤独、挫折をうたい、やがて母となりゆく作者。 俳人阿部みどり女の「写生に始まり、写生に終わる」の精神を受け継ぎながらも、その俳句は写生の域を超えてリアルな言葉で読者の胸に迫ってくる。女として、母として、自分を取り巻く世界をかくも生き生きとうたい上げ、感性を光らせる280句を収録。伝統に新風を吹き込む精鋭作家、待望の第一句集!


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