ハイクノミカタ

紅梅や凍えたる手のおきどころ 竹久夢二【季語=紅梅(春)】


紅梅や凍えたる手のおきどころ

竹久夢二

画家で詩人でもあった竹久夢二の俳句。

 青鷺にかりそめならぬ別れかな

 跫音をまつ明暮や萩の花

 夕立や砂にまみれし庭草履

夢二の句にある余韻は美しいと思う。

俳句においても、夢二のもつ抒情的な魅力が失われていないところがいい。

「跫音をまつ」の句は、かの有名な『宵待草』の歌を思わせるところがなくはないが、萩の花が配されているところが、句の格をあげていると私は思う。

一段と身にこたえる、春になってぶり返す寒さ。そんな中、梅見のそぞろ歩きでもしていたのだろう。

指先に通う冷え。紅梅の紅がほつほつと、灯るように浮かんでいる。

この句、白梅では味気ない。紅梅の紅が点じられたことによって、得も言われぬ艶やかな奥行きが、句に生まれている。

それにしても、「凍えたる手のおきどころ」というのが、何とも夢二らしい。特に「おきどころ」というところ。

想い人の温もりをその手の先に求めていたのかもしれない。ふと、そんなことを想像してみたりもするのである。

日下野由季


【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり 平川靖子【季語=北寄貝(冬)】 
  2. 美校生として征く額の花咲きぬ 加倉井秋を【季語=額の花(夏)】
  3. べつたら市糀のつきし釣貰ふ 小林勇二【季語=べつたら市(秋)】
  4. 短日のかかるところにふとをりて 清崎敏郎【季語=短日(冬)】
  5. 赤福の餡べつとりと山雪解 波多野爽波【季語=雪解(春)】 
  6. 牛乳の膜すくふ節季の金返らず 小野田兼子【季語=節季(冬)】
  7. 卒業歌ぴたりと止みて後は風 岩田由美【季語=卒業歌(春)】
  8. 「ワイシャツのアイロンがけをしてほしい」夫に言われた妻の衝撃 片…

おすすめ記事

  1. 【秋の季語】秋灯下
  2. とれたてのアスパラガスのやうな彼 山田弘子【季語=アスパラガス(春)】
  3. 凩の会場へ行く燕尾服  中田美子【季語=凩(冬)】
  4. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第59回】 宇都宮と平畑静塔
  5. 雛まつり杉の迅さのくらやみ川 飯島晴子【季語=雛祭(春)】
  6. 【俳句公募のご案内】「十年目の今、東日本大震災句集 わたしの一句」【12月15日締切】
  7. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第24回】近江と森澄雄
  8. 【秋の季語】赤い羽根
  9. 【冬の季語】冬来たる(冬来る)
  10. 鶏鳴の多さよ夏の旅一歩 中村草田男【季語=夏の旅(夏)】

Pickup記事

  1. 毛糸玉秘密を芯に巻かれけり 小澤克己【季語=毛糸玉(冬)】
  2. 【第22回】新しい短歌をさがして/服部崇
  3. ひかり野へきみなら蝶に乗れるだろう 折笠美秋【季語=蝶(春)】
  4. 【新連載】歳時記のトリセツ(1)/村上鞆彦さん
  5. 二十世紀なり列国に御慶申す也 尾崎紅葉【季語=御慶(新年)】
  6. 裸木となりても鳥を匿へり 岡田由季【季語=裸木(冬)】
  7. 【冬の季語】冬の月
  8. スバルしずかに梢を渡りつつありと、はろばろと美し古典力学 永田和宏
  9. 行く春や鳥啼き魚の目は泪 芭蕉【季語=行く春(春)】
  10. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2022年9月分】
PAGE TOP