ハイクノミカタ

フラミンゴ同士暑がつてはをらず 後藤比奈夫【季語=暑し(夏)】


フラミンゴ同士暑がつてはをらず

後藤比奈夫)


命に関わる雨が降る梅雨がもう数年続いて、今はそういう時期なんだと体が覚えてきております。いつもよりも多めにペットボトルの水を買い、ベランダの掃除を念入りにして、晴れの日を大事に過ごす。たったそれだけのことだけれど。

ハイクノミカタの月曜担当が日下野由季から篠崎央子に代わった。私にとってはふたりとも(自分でその時期を決めていいとすれば、第何期かの)青春時代の友人。月曜担当の土筆のアイコンが由季ちゃんにはよく似合って、ハイクノミカタのスタートの時から羨ましかったのだけれど(別に私も土筆にしてほしかったわけではなくて、その似合い方が羨ましかった)、央子に至っては「深紅の薔薇」。こうやって人のイメージは作られていくんだなとか、そもそもなんであたしだけ動物なんだとか、あ、夜景さんも鴎だったとか、でもあれは海辺が主体なわけでとか、そういう意味では、ぽぽ(ぽぽなの名字ってなんだったっけ)と対になる在住地チームだなとか、ひとり「板」の人(太田うさぎだ)もいるからまあいいかとか、「板」は「本(橋本直)」と「雪(鈴木牛後)」の間くらいの平らさだなとか、まあ、何でもいいのですが、そういうレベルの羨望ややっかみを持ってよい相手が日下野由季や篠崎央子(と、その他にも何人か)なのだ。いえ、向こうが何と言おうが。

フラミンゴ同士暑がつてはをらず

それでふと思い出したのがこちらの句。二人と出会った頃から今も変わらず、句の作者が覚えられず、句も部分的にしか思い出せず、ひどいときはほとんど伏字でリズムだけ浮かんだりするのだけれど、今回は幸いにも句は丸々思い出せた。そこからが大変で、最後に見た時期から逆算して、と言っても去年十月からは結構いろんな句集を繰り返し開いたので逆算は困難を極め、京極杞陽からはじまって千原草之などのスタメンを通って、ようやく比奈夫翁に辿り着いた。先月、「父の日」で取り上げたばっかりだけれど、もう、探すのが大変だったから、また取り上げちゃいます。

「暑し」を否定形で使う「季題・逆位置句」(という言葉は今私が作ったものです。多分明日には忘れます)だけれど、不思議に涼しさも感じない。おかしなもので、彼らが暑がっていないだけで、それを見る人間にはある程度の暑くるしさが伝わるという、迷惑な景色を易しい言葉で描いた。この描いた通りではないけれど、伝えたかった通りに伝える奥義が、簡単なようでなかなか難しい。

なんでこの句を思い出したかと言われると、それもなかなか難しいのだけれど、ともにアンデスに生息するフラミンゴとアルパカのことでもあるし、暑そうだけれど暑がってないフラミンゴとアルパカの共通性もあるし、「暑がつてはをらず」の暑くるしさと、羨ましがりながら会ったり連絡があったり噂を聞いたりすると無性にうれしい彼女らに対する思いのややこしさも通じたのかもしれない。こんなことで、ふと句の構造がわかったりするから面白い。

篠崎央子執筆の第二回目である来週の月曜からは、もう宣言中なのか、解除中なのかよくわからない緊急事態宣言が東京に出るそうだ。土日は予報は雨、どうか穏やかな雨となりますように。

『白寿』(ふらんす堂、2016年)所収

阪西敦子


【阪西敦子のバックナンバー】
>>〔40〕夕焼や答へぬベルを押して立つ   久保ゐの吉
>>〔39〕夾竹桃くらくなるまで語りけり   赤星水竹居
>>〔38〕父の日の父に甘えに来たらしき   後藤比奈夫
>>〔37〕麺麭摂るや夏めく卓の花蔬菜     飯田蛇笏
>>〔36〕あとからの蝶美しや花葵       岩木躑躅
>>〔35〕麦打の埃の中の花葵        本田あふひ
>>〔34〕麦秋や光なき海平らけく       上村占魚
>>〔33〕酒よろしさやゑんどうの味も好し   上村占魚
>>〔32〕除草機を押して出会うてまた別れ   越野孤舟
>>〔31〕大いなる春を惜しみつ家に在り    星野立子
>>〔30〕燈台に銘あり読みて春惜しむ     伊藤柏翠
>>〔29〕世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ  今井千鶴子
>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間      藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中     後藤比奈夫
>>〔25〕見るうちに開き加はり初桜     深見けん二
>>〔24〕三月の又うつくしきカレンダー    下田実花
>>〔23〕雛納めせし日人形持ち歩く      千原草之
>>〔22〕九頭龍へ窓開け雛の塵払ふ      森田愛子
>>〔21〕梅の径用ありげなる人も行く    今井つる女


>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話   田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより  深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ  京極杞陽
>>〔17〕酒庫口のはき替え草履寒造      西山泊雲
>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方   福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他     中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの      高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら    野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな  山口誓子
>>〔10〕ストーブに判をもらひに来て待てる 粟津松彩子
>>〔9〕コーヒーに誘ふ人あり銀杏散る    岩垣子鹿
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>>〔7〕いつまでも狐の檻に襟を立て     小泉洋一
>>〔6〕澁柿を食べさせられし口許に     山内山彦
>>〔5〕手を敷いて我も腰掛く十三夜     中村若沙
>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す    柴原保佳
>>〔3〕行秋や音たてて雨見えて雨      成瀬正俊
>>〔2〕クッキーと林檎が好きでデザイナー  千原草之
>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月      松藤夏山


【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。



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