ハイクノミカタ

クリスマス近づく部屋や日の溢れ 深見けん二【季語=クリスマス(冬)】


クリスマス近づく部屋や日の溢れ

深見けん二(ふかみ・けんじ)まさとし))


本当に今年最後の一週間と、本当になったとは…。まだ、信じられない思いですが、みなさまはいかがですか。

信じがたい理由には、やはり家をあまり出ないことがあるだろう。今年の始めめに出た緊急事態宣言以降、在宅がすっかり定着し、一年の四分の三が過ぎて解除されたのちも、せいぜい出社は一日程度。年のうつろいは、景色や行事ではなく、カレンダーや予定などの認識に頼ることが多くなった。

一方で、寒暖や日差に前よりも注意を払うようになった気がするのは、私だけだろうか。

クリスマス近づく部屋や日の溢れ

今年を振り返って、今でも強く残るのは、やはり九月に亡くなった深見けん二さんのこと。最後に言葉を交わしたのは、だいぶ前のことだし、人づてに聞くという「つて」の人にも、なかなかお目にかからないここ数年であった。それでも、何かの支えとして、何か悩むときの「脳内問い合わせ先」として、いつもその言葉と存在があった。それは、今後も変わることはないけれど、その深化・進化が止まってしまったことは、何か寄る辺のない気にさせる。

ケアホーム「もみの木」に入居され、穏やかな暮らしを送られていたけん二さんの、去年のクリスマスの句。事情は違えども、外出は少なくなっていたことだろう。それでも、窓から入る日差に時のうつろいを知り、冬至へ向かい、越えてゆく部屋の日々を慈しむ。

いつこのような年末が迎えられるようになるのか、元々私には無理なことなのかわからないけれど、とにかくやれるうちはこの慌ただしい年末を越えてゆくしかない。

それでも、今年のクリスマス、みなさまに、私に、こんな瞬間が一瞬でも、訪れますように。

『もみの木』(2021年)

阪西敦子


【阪西敦子のバックナンバー】

>>〔64〕突として西洋にゆく暖炉かな     片岡奈王
>>〔63〕茎石に煤をもれ来る霰かな      山本村家
>>〔62〕山茶花の日々の落花を霜に掃く    瀧本水鳴
>>〔61〕替へてゐる畳の上の冬木影      浅野白山
>>〔60〕木の葉髪あはれゲーリークーパーも  京極杞陽
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>>〔58〕くゝ〳〵とつぐ古伊部の新酒かな   皿井旭川
>>〔57〕おやすみ
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>>〔55〕車椅子はもとより淋し十三夜     成瀬正俊
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>>〔50〕横ざまに高き空より菊の虻      歌原蒼苔
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>>〔40〕夕焼や答へぬベルを押して立つ   久保ゐの吉
>>〔39〕夾竹桃くらくなるまで語りけり   赤星水竹居
>>〔38〕父の日の父に甘えに来たらしき   後藤比奈夫
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>>〔36〕あとからの蝶美しや花葵       岩木躑躅
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>>〔34〕麦秋や光なき海平らけく       上村占魚
>>〔33〕酒よろしさやゑんどうの味も好し   上村占魚
>>〔32〕除草機を押して出会うてまた別れ   越野孤舟
>>〔31〕大いなる春を惜しみつ家に在り    星野立子
>>〔30〕燈台に銘あり読みて春惜しむ     伊藤柏翠
>>〔29〕世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
>>〔28〕ネックレスかすかに金や花を仰ぐ  今井千鶴子
>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間      藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中     後藤比奈夫
>>〔25〕見るうちに開き加はり初桜     深見けん二
>>〔24〕三月の又うつくしきカレンダー    下田実花
>>〔23〕雛納めせし日人形持ち歩く      千原草之
>>〔22〕九頭龍へ窓開け雛の塵払ふ      森田愛子
>>〔21〕梅の径用ありげなる人も行く    今井つる女


>>〔20〕来よ来よと梅の月ヶ瀬より電話   田畑美穂女
>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより  深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ  京極杞陽
>>〔17〕酒庫口のはき替え草履寒造      西山泊雲
>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方   福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他     中井余花朗
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【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。



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