泣きながら白鳥打てば雪がふる松下カロ【季語＝白鳥・雪（冬）】

ハイクノミカタ

泣きながら白鳥打てば雪がふる　松下カロ【季語＝白鳥・雪（冬）】

2022/11/2
ハイクノミカタ, マンスリーゲスト
1954年生まれ, 「猫街」, 「船団」, 「野火」, が, ながら, ば, ふる, ウクライナ, 冬の季語, 打つ, 松下カロ, 泣く, 白鳥, 近江文代, 雪

泣きながら白鳥打てば雪がふる)

松下カロ
（『白鳥句集』深夜叢書社　2016年7月）

泣きながら打っているのは「白鳥」そのものであって、そうではない。打たれている白鳥に、人間の力ではどうすることもできない運命、愛する者の死、もしくは、愛されない悲しみのようなものが投影されているように見える。

『白鳥句集』は198句全てが白鳥の句。中には「鳥帰る」、「渡り鳥」という季語も出てくるが、それもきっと「白鳥」のこと。

数多の白鳥から感じられるのは、愛、光、そして死。時々その世界に身を委ねたくなり、この句集をそっと開く。

いつの頃からか、身ほとりを白鳥が飛びまわるようになりました。

ふと目を覚ますと、白鳥が一羽、私の胸に頸をもたせかけて眠っていたことも、無数の白鳥が天井を飛びかっていたこともありました。街を歩く時、人を待つ時、白鳥は音もなく傍らに降り、何か囁きます。
（「あとがき」より）

カロさんと初めてお会いしたのは岡野泰輔さんの第一句集『なめらかな世界の肉』の出版記念句会。すぅっとカロさんの世界に引き込まれそうになったのを覚えている。今思い出しても胸が高鳴る。

もしや、カロさんはあの時も白鳥を従えていたのではないか。

ただ、本の頁に溶け入ってしまったように、いま、白鳥の姿はどこにもありません。それが淋しく……。
（同じく「あとがき」より）

あの頃はもう白鳥の姿が見えなくなっていたのか。

もしや、カロさんが白鳥そのものになっていたのではないか。

カロさんの白鳥の句は私をそんな妄想に駆り立てる。いや、実際そうなのかも知れない。

この句集は出版されたのは2016年だが、Ⅱ章「ウクライナ」に、まるで今を予見していたかのような作品が並ぶ。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

白鳥を憎む白鳥ウクライナ

青年が征き白鳥が哭く童話

微笑んで白鳥もまた自爆する

バスタブに沈む白鳥抱きしまま

白鳥の訃報みるみる拡散し

僧と兵佇つ白鳥の両脇に

紅さしてやる息絶えし白鳥へ

あなたの隣にも、白鳥が静かに寄り添っているかも知れない。

『白鳥句集』
http://shinyasosho.com/home/book1608-02/

松下カロさんのブログ　カロ冬扇へようこそ
http://mkk0076.blog88.fc2.com/

（近江文代）

*句集中では旧字体が使用されているそうです（管理人注）。