ハイクノミカタ

貝殻の内側光る秋思かな 山西雅子【季語=秋思(秋)】


貝殻の内側光る秋思かな

山西雅子

 先週講義に行ってきたことを書いたが、そこで話した内容を少し紹介したい。

 外国語を専攻していた学生時代、様々な角度から言葉に触れてみて思ったのは、日本語が大事だということだった。もっと言うと母国語が大事なのだ。よく「日本語って難しい」というが、難しいのは日本語という言語体系ではない。そもそも考えがまとまっていないから言語化もしようがないのだ。言いたいことが定まっているのに言い回しだけが見つからないのだとしたらそれは日本語が難しいのではなく語彙力不足。今は色々と便利なツールもあるし(何なのかを書くのは怖いのでやめておきます)、文章のうまい先輩に聞くという手もあるし、いくらでもフォローの手段はある。単語を覚えるのも大事だが、まずは何を伝えたいのかを持っていないことにはどの言語を学んでも同じことなのだ。

 とはいえ私にとって日本語はやはり難しい。行間や背後にある文脈には毎回正解があるようでないからだ。そんな中にも面白さは探しつづけたい。個人的に一番隙なのは「ばか」の背後にある「好き」。昭和的だと笑いたい方は笑ってください。

貝殻の内側光る秋思かな

 内側が光る貝といったら鮑か。蜆の内側も引き込まれるような不思議な色合いだが光るとまではいえない。濡れていれば何でも光るがやはりここでは虹色の輝きを持つ貝殻であってほしい。

 貝殻の内側の美しさにふと驚いた。ごつごつした外側に対して豊かな光彩を放ち滑らかな内側。自身もかくありたい。内面の美しさほど心惹かれるものはない。それに対してこれまでの生き方はどうだったか。充実しているともいえる。でもこの寂しさはどこから来るのだろう…などと秋の思いは飛躍する。

 陽の中の陰ではなく陰の中の陽に焦点を当てている点がなんとも深い。こんなに華やかなものにも暗い部分を見つけてしまった、秋思。というのでは奥行きがなさすぎる。暗い色彩の内側にある輝きを見つけた。ふと明るい気持ちになったがいつしか寂しい方向に考えが及んでしまう。そんな秋思が頭の中を巡っているのだ。

 秋思は作り手にとっては悩ましい季語だ。具体を持たない季語ゆえに、映像鮮やかなものに託さないと読み手は焦点を絞ることができない。そういう句は作り手の中でも整理できていない場合が多い。理屈をこねくり回して思考がまとまっていない状態を17音で表現したところでそれは伝わらない。自分が感動したことを形や音で表現してくれているような何かとの出会いに詩は宿るのだと思う。

『雨滴』(2023年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



【吉田林檎のバックナンバー】
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>>〔71〕天高し鞄に辞書のかたくある 越智友亮
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>>〔13〕膝枕ちと汗ばみし残暑かな     桂米朝
>>〔12〕山頂に流星触れたのだろうか  清家由香里
>>〔11〕秋草のはかなかるべき名を知らず 相生垣瓜人

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>>〔7〕してみむとてするなり我も日傘さす 種谷良二
>>〔6〕香水の一滴づつにかくも減る  山口波津女
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>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人


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