ハイクノミカタ

みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何【季語=聖樹(冬)】


みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど)

堀田季何

今週土曜日はクリスマス。皆さまはクリスマスをどのように過ごされますか。

個人的には、俳句でクリスマスを詠むのはなかなか難しい。思い返してみても、おそらく自作で季語にクリスマスを詠み込んだものはない。いろいろと考えてみたが、この難しさの背景には、「クリスマス」という言葉のもつ刹那的な面、そして儀式的な面の二面性が関係しているように思う。前者の面では、商業的に作られた「恋人たちのクリスマス」的なイメージに縛られてなんだか自句を陳腐に感じてしまう。また逆に後者の面だと、宗教的な背景等、信仰のない私などには儀式としての大切さ、切実な感情が捉えづらいのである。

 みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何

さて、本日取り上げるのはこちらの句。
先述したどちらの情緒にも流されず、淡々とモノを描く。読者が吊られているものの正体に気づくのは下五。そこからイメージが句を遡行して、オーナメントの天使たちが一気に輝き出すのである。

本来翼は自由の象徴だ。しかし掲句の翼もつものは背中の紐によってその場を離れることができない。読者の人生を媒介して、ここに描かれる天使たちに現代を生きる人間のさまざまな様態を重ねることも可能だろう。

詩歌集の名は『人類の午後』。一冊の名と句の照応に筆者はしびれてしまうのである。

川原風人)


【執筆者プロフィール】
川原風人(かわはら・ふうと)
平成2年生まれ。鷹俳句会所属。平成30年、鷹新人賞受賞。俳人協会会員



【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】

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>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事   岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ

【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】

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【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】

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>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期     富沢赤黄男【前編】

【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】

>>〔1〕秋灯机の上の幾山河        吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
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>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す    寺田京子

【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】

>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊     杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ  後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す   仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒     山口青邨

2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】

>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり   夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな   永田耕衣


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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