ハイクノミカタ

襖しめて空蟬を吹きくらすかな 飯島晴子【季語=空蟬(夏)】

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襖しめて空蟬を吹きくらすかな)

飯島晴子
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 昭和四九年の作。晴子は五三歳。第二句集の『朱田』に収められている。

 この句の季語は、「空蝉」で、夏。しかし、この句にはもう一つ季語が入っている。「襖」である。「襖」は冬の季語。

何故この句の季語が「空蟬」かというと、襖は、一年中あるものなので、夏に限定される「空蟬」が優先されるからだ。

 さて、この句は、イメージの句である。作者の願望の句でもあるのだろう。空蟬を吹きくらすのは女性に違いない。

 急に、絵に描いてみたくなった。

 竹下夢二の「黒船屋」の憂いをおびた女性で、伏し目がち。いや、空蟬を吹きくらすのには、何かあったに違いない、上村松園の「焔」の女性がいい。黒髪を咥えた口の先の細く白い指に空蝉。目には妖気。足元には、無数の空蟬を散らしたい。襖は少し歪めて斜めに・・・。

 などと、絵の中で、恍惚となってしまいそうなので、このへんで筆を擱くことにする。

 この句にも、自句自解がある。晴子はこういう人なのかと、合点したところがあって、ちょっと長いが全文を転載する。

 晴子の句の絵は、真っ白い長い長い髪の毛が渦巻いている上に、空蟬を載せて終わっている。

    ***

心を閉ざした時空で、あまり人には見せたくない部分であるが、句集に残してしまったのだから今更引っ込めるわけにもいかない。

❘髪の長い平安朝のお姫さまが、蔀を下ろして几帳の影で来る日も来る日も、何年も何年も、空蟬を吹いて暮らしている。男を待つというような意味の世界からは全く隔絶して、空蝉を吹くこと自体が目的の永遠の時間。やがて、触ればこなごなになる衣装と、真っ白い長い長い髪の毛が渦巻いて遺る。その上に、空蝉だけは毀れずに載っていなければならない。お話が一つ書けそうである。

私はお姫さまには遠いが、放っておくと、襖をしめて、何日でも何年でも空蟬を吹き暮らして一向にかまわないところがあるので、用心しなければと思っている。それでも、襖しめて空蟬を吹きくらす滅亡の世界は、たえず甘く囁きかけてくるのである。

(自解100句選 飯島晴子集・牧羊社)

松野苑子


【執筆者プロフィール】
松野苑子(まつの・そのこ)
1947年生まれ。1974年長男誕生の年より作句。「好日」「坂」「鷹」を経て、現在「」同人会長、俳人協会会員。第8回俳句朝日賞準賞受賞。第62回角川俳句賞受賞。句集に『誕生花』『真水(さみづ)』『遠き帆』


【松野苑子さんの最新句集『遠き船』はこちら↓】


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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