くゝ〳〵とつぐ古伊部の新酒かな 皿井旭川【季語=新酒(秋)】


くゝ〳〵とつぐ古伊部の新酒かな

皿井旭川(さらい・きょくせん)まさとし))


ずいぶん寒くなりました。お休みをいただきました。

緊急事態宣言が本格的に解除されて(リバウンド防止期間というようなものが、東京では敷かれておりまして、選挙まで1週間を切ったところで、解除されたわけなんですが)、コロナ中になんとか築いたルーティンをそれ以前に戻す衝撃からか、いろいろなことをすっ飛ばしている今日この頃。久々の祝日のおかげで十月前半に届いたサーキュレーターの箱を新聞と郵便物の山から救い出し、開梱することが出来ました。

さて、ボージョレ・ヌーヴォの月に入ったけれど、日本でもぼちぼち新酒が出てきているようだ。まずは、暑い中でも涼しい環境で安定して酒造りができる大酒蔵などからだけれど、昔はもう少しのびのびと、米が取れればさっさと新酒を醸していたのだろう。

  くゝ〳〵とつぐ古伊部の新酒かな

古伊部は備前焼のこと、長方体で丸筒型の口が着いた酒瓶なども多く作られている。旭川の「皿井」という名と、その出身地である岡山が、どうもこの句の焼物と近くて、強く印象付けられてしまうのだが、その備前焼独特のごつごつごした注ぎ口から注がれる新酒。「くゝ〳〵」は省略するあまりに複雑な書きかたになっているけれど、開いてみれば「くくくく」という音になる。とくとくなどのもっともオーソドックスな液体の擬音に比べると、やや粘度が高いというところだろうか。

その年にできた米で作られた最初の酒は、かならずしも一番おいしいものではないかもしれないけれど、もっとも期待に溢れたものであることだろう。くくくくという粘度は、その無骨な器から注がれる液体への注目の音でもあるかもしれない。

そろそろ出てくる新酒が近所の酒屋に届く頃かもしれない、よい晩秋、よい立冬の週末となりますように。

『ホトトギス同人句集』(1938年)

阪西敦子


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【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。



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