盥にあり夜振のえもの尾をまげて柏崎夢香【季語＝夜振（夏）】

ハイクノミカタ

盥にあり夜振のえもの尾をまげて柏崎夢香【季語＝夜振（夏）】

2022/7/22
ハイクノミカタ, 阪西敦子
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盥にあり夜振のえもの尾をまげて

柏崎夢香(かしわざき・むこう))

雨の七曜が過ぎて、三連休は意外に晴れた週明け、また、暑い日が戻ってきた東京。

平日が四日って結構忙しいというのは、なんだかよくわからない話だなと思いながら、やっぱり実感としてそう言ってしまう。

平日が少ないと忙しいのは、日中の仕事もそうだけど、プライベートの時間も日数が足りないのは同じ。なんだか掃除も洗濯も冷蔵庫のものを食べ進むのも、お酒を飲みながら読書やドラマを見ることも、俳句を作るのも選ぶのも、平日の夜やっていたことがはかどらずに溜まって、あっという間に週末がやってくる。

盥にあり夜振のえもの尾をまげて

そんな日々とは時間の流れを異にするこの句。「盥にあり」の六音のはじまりによって、せかせかした日常から切り離される。

季題は「夜振」。カンテラや松明などを灯して行う漁のこと。効率がいいのか悪いのかはわからないけれど、なんとなくのんきな響きがある。

柏崎夢香は本名・豪、明治十九年栃木県の生まれ。教員を経て、大蔵省専売局に勤め、公務の余暇に俳句を学ぶとプロフィールもまたのんびりしたもの。

だいたい夜振の句といっても、描かれているのは釣り上げたものの姿。すでに盥に入れられている。尾は盥の縁に沿って曲げられていて、盥に対しての大きさが知れる。傍らには漁のための灯があって、盥も、そこに張られている水も、水から挙げられて浅い盥に浮く獲物の背も、それぞれに光を返す。

暗がりの中の光の質感の違いを味わうためだけの時間、そんな時間が少し戻る週末になりますように。

『ホトトギス同人句集』（1938年）

（阪西敦子）

【執筆者プロフィール】
阪西敦子（さかにし・あつこ）
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。

【阪西敦子のバックナンバー】

＞＞〔94〕行く涼し谷の向うの人も行く                  原石鼎
＞＞〔93〕山羊群れて夕立あとの水ほとり          江川三昧
＞＞〔92〕思ひ沈む父や端居のいつまでも             石島雉子郎
＞＞〔91〕麦藁を束ねる足をあてにけり                    奈良鹿郎
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＞＞〔89〕船室の梅雨の鏡にうつし見る　　　　　日原方舟
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＞＞〔87〕おやすみ
＞＞〔86〕まどごしに與へ去りたる螢かな　　　久保より江
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