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冬の水突つつく指を映しけり 千葉皓史【季語=冬の水(冬)】


冬の水突つつく指を映しけり

千葉皓史

 先に待ち合わせ場所に来ている友人の背後から「わっ!」と言ってびっくりさせようとそっと近づく。しかしその姿はガラス戸にすべて映っていてバレていた。今回とりあげた句からそんな状況が思い浮かんだ。いたずらしている姿がしっかり映し出されているという状況。なかなか面白いが偶然にはあまり巡り合えない。なぜこんな状況を思い浮かべたのか、最後まで読めばわかっていただけると願っている。

 それにしても、昨今待たせている人をびっくりさせて登場、などということは行われているのだろうか?巷で見かけることもなければ自分がやることもやられることもない。

 サプライズが喜んでもらえるかどうかは難しい。しかし「わっ!」と言ってびっくりさせて楽しいのは驚かせた方だけということはないか?それも好きという人がいるのかもしれないが、そこは見極めが肝心だ。

   冬の水突つつく指を映しけり

 映しているのは指が冬の水に触れるまでの短い間のことである。突っつこうとしている指が水面に触れる直前までのこと。触れてしまったら水面が乱れて何かが映っていてもそれを判別することは難しい。波立ってもそれなりの美しさはあるが、冬の水らしさが際立つのはやはり水鏡になっている時だ。

 季語と「けり」の韻文的な措辞に挟まれた「突つつく」が口語的で痛快だ。「触れてみん」というよりは「突っついてみよう!」といったところか。いたずら心すら感じる。

 「映しけり」なので自ら映像をつかまえに行くような、冬の水のちょっとした意思を感じる。「映りけり」ではその緊張感が表現できない。

 「写す」は写真、「映す」は映像で、それらは静止画と動画の違いだとずっと思いこんでいたが、改めて調べてみると正確な区別ではないようだ。前者はコピーして忠実に写し取ること。後者は光の反射等でどこかに映し出すこと。ノートは(書き)写すが映さない。世相は映すが写すことは不可能なのである。

 冬の水はくっきりと映るのでもはや写っているのではないかと思いたくなるが、水そのものはやはり映すことしかできない。俳句なら写すことができる。

 触れたら壊れてしまうものが近づいてくるのに、それまでは良い仕事をする冬の水。その水を突っつこうとするその行為も俳人的だが、突っつくまでのわずかな時間に注目したその視点はまさに俳人の視点だ。

 水と自分との関わりにおいて新しい発見があるとは。身の回りには見過ごしている素敵ポイントがまだまだあふれているようだ。

『家族』(2023年刊)所収。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



【吉田林檎のバックナンバー】
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