【木曜日】は2か月交代で〈大学俳句会〉のみなさんにご執筆いただいています。「愛媛大学俳句研究会」からのバトンが渡ったのは「北大俳句会えぞりす」。2回は西宮景さんです。

曼珠沙華この世の淵に咲きにけり
黛まどか
『私の同行二人 人生の四国遍路』
西宮景(北大俳句会「えぞりす」)
外には見せなくても、誰もが悲しみの海を泳いでいる。溺れまいと必死にもがきながら、日々を泳ぎ続ける。いつか果てがあるのでは、と微かな希望を抱いて。陽光は等しく人生の海に注がれるが、光明は苦海にしか差さない。苦海を生きる者には仏が隣る。歩みを止めなければ、必ず仏は光を放つ。だから共に歩こう。同行二人、お大師様はいつも一緒だ。
曼珠沙華この世の淵に咲きにけり
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2025年の3月のことだった。
私は多くのことを思い悩んでいて、かつ、心に深いダメージを受けていた。
息が苦しく、一時も気が休まらないでいた。
限界だった。
だから、四国遍路の旅に出た。
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人生で初めて「退学届」を出した後のことだった。
なんとかかんとか次の行先を決め、祖父を看取り、新生活への準備を始めるという、目まぐるしい日々の中でのことだ(いろいろあった日々だった。本当に、いろいろあった日々だった)。
知人から四国遍路を薦められ、「もう、どうとでもなれ!」と思っていた私は、見切り発車で旅に出た。
四国遍路とは、徳島・高知・愛媛・香川の四県に点在する弘法大師(空海)ゆかりの霊場88か所を巡礼する、全行程約1400㎞の道のりのことである。険しい山道も含めて1日に30㎞以上歩かないといけないことも多々あるような、過酷な修行の旅である。
この旅に5日間行き、目標としていた17番目のお寺、「井戸寺」まで踏破することができた。ここでは多くのことを語らないが、自分の人生の中で、これ以上にないぐらい濃密な5日間であったことだけお伝えしておく(遍路での一連の顛末について知りたい方は、ぜひ「えぞりす」有志機関誌、「旗手」の創刊号をご一読ください(笑))。
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四国での濃密な日々を終えた後、遍路に関する本を何冊か読んだ。
その中でも特に感銘を受けたのが、黛まどかの著作、『私の同行二人 人生の四国遍路』だ。
黛は1962年神奈川県生まれ。1994年に「B面の夏」で第40回角川俳句賞奨励賞を受賞し、話題となる。1999年にはスペイン・サンティアゴの巡礼道を、2001~2002年には釜山からソウルまで、2017年と2023年には四国遍路を、それぞれ踏破。「身体性」を追求する俳人として知られている。
『私の同行二人 人生の四国遍路』では、88か所のお寺を巡り考えたことをエッセイにつづるとともに、修行の日々での発見を俳句に詠んでいる(明朗な文章で四国遍路の静謐さ、ダイナミックさを伝えてくれる本なので、ぜひご一読を)。非常にいい句が多数掲載されているのだが、その中でも最も印象的だったのが、
曼珠沙華この世の淵に咲きにけり
である。
「曼珠沙華」という、天界に咲く赤い花(ヒガンバナ)は、この世の淵にも咲いていて、人々を慈しみ、見守ってくれている。この世に生まれ、死んでいった者たちも同様に、私たちを見守ってくれている。
そんなことをしみじみ感じさせてくれる名句であるように思う。
黛は言う。
外には見せなくても、誰もが悲しみの海を泳いでいる。溺れまいと必死にもがきながら、日々を泳ぎ続ける。いつか果てがあるのでは、と微かな希望を抱いて。陽光は等しく人生の海に注がれるが、光明は苦海にしか差さない。苦海を生きる者には仏が隣る。歩みを止めなければ、必ず仏は光を放つ。だから共に歩こう。同行二人、お大師様はいつも一緒だ。
「同行二人(どうぎょうににん)」とは、「たとえ一人で歩いていても、常にお大師様(空海)と共にある」という意味である。
私たち人間は、誰もがそれぞれの悲しみを抱えながら、もがいて生きている。一人であることは心細いけれど、歩みを止めなければ隣りにいてくれる存在がいる、というのは大きな救いであるように感じる。
生きている限り大なり小なり悲しみや苦しみはあるが、歩みを止めることなく進もう。自分を見守ってくれる人や自然に意識を向けよう。そんなことを考えた一冊だった。
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最後に個人的な話となってしまい恐縮だが、私は、四国遍路を最後まで歩き通すつもりでいる。まだ17番目のお寺までしか歩いていないが、時間がかかっても、何度四国まで足を運ぶことになろうとも、88番まで歩き通す。
目に映る神羅万象に思いを馳せながら、少しずつ、少しずつ歩みを進めていきたい。
(9月には愛媛大学俳句研究会の野上翠葉さんと一緒に、俳句を作りながらお遍路をする予定だ。3日間ずっと歩き通しだ。どんな俳句ができるだろうか。曼珠沙華は咲いているだろうか。楽しみだ)
【参考文献】
小林祐一『新装改訂版 四国八十八か所札所めぐり 歩き遍路徹底ガイド』メイツ出版、2024年
黛まどか『B面の夏』角川文庫、1996年
黛まどか『奇跡の四国遍路』中公新書ラクレ、2018年
黛まどか『私の同行二人 人生の四国遍路』新潮新書、2025年
(西宮景)
【サークルプロフィール】
北大俳句会「えぞりす」
2021年設立。北海道にゆかりのある大学生・短大生・専門学生によって構成されている。年2回刊の有志機関誌『旗手』を発行(オンライン販売はhttps://hokudaihaiku.booth.pm/)。文学フリマ東京43(2026年11月8日)に出店予定。
Eメール:haiku.ezorisu@gmail.com
X:https://x.com/hokudaihaiku
Instagram:https://www.instagram.com/hokudai_haiku/
【執筆者プロフィール】
西宮景(にしみや・けい)
1999年鳥取県生まれ。北大俳句会「えぞりす」、「楽園」所属。
第四回楽園賞佳作。俳句、小説、詩の創作を嗜む。2026年、詩集を出版予定。