ハイクノミカタ

節分や海の町には海の鬼 矢島渚男【季語=節分(冬)】


節分や海の町には海の鬼

矢島渚男

今日は節分。年に一度、夕飯メニューを考えなくて良いのも嬉しい恵方巻はもともと関西圏の行事である。

関西出身の友人が残業を切り上げてなんとしても節分の24:00までに恵方巻を食べようとしているのを不思議に思ったのは25年ほど前のことだ。その年の恵方を向いて笑いながら食べ切るというのも特殊な慣習としか思えなかったが今では何の疑問も持たず自ら実行。店頭には恵方巻がずらりと並び、すっかり全国的な行事として定着した。

節分ということで鬼トピックス。「『鬼滅の刃』絆の奇跡、そして柱稽古へ」のワールドツアー上映が始まり、スクリーンの多くがこの作品に当てられている。

これほどの人気の理由はどこにあるのだろうと総集編を観たことがあるが、負の感情が自分の中の(?)鬼を呼び起こすという筋立てが身につまされ、自分も鬼の予備軍なのかもしれないという恐怖を覚えてしまった。この作品の楽しみ方としてはそれを倒してくれる爽快感に目を向けるべきなのかもしれない。どなたかお導きを。

私は鬼滅より鬼平犯科帳。最近制作された幸四郎版のドラマはまさに新たな鬼平で、本所の銕の強さを音で表現しているのが印象的だった。銕、強い!!

節分や海の町には海の鬼

海の町は海辺の町、とりわけ漁師町として鑑賞したい。オーシャンビューリゾートで節分イベントをやってもこのような感慨は生まれないであろう。漁師は職業柄縁起物や験担ぎを大事にすると聞いた。自らの命、養う命、いただく命。いずれも切実な祈りを必要とする。

海の鬼とは何を指すのか。漁の結果を左右する天候や潮流が思われる。姿としては海坊主が連想されるが、それも含めて海の鬼といえそうである。海に向かって「鬼は外!」と豆をまくのかもしれない。

広辞苑によると鬼は“①天つ神に対して、地上などの悪神。邪神。②伝説上の山男、巨人や異種族の者。(③以下略)”であり、海よりは山に近い存在である。その前提だからこそ「海の鬼」に発見があるのだ。

 節分には地域ごとの特性がある。掲句、海の町「には」となっており、山の町には山の鬼、都市部の町には都市部の鬼と地域ごとにそれぞれの鬼がいることが表されている。

 海の町にも地域ごとに独自の行事がありそうだが、ネット検索では恵方巻にちなんだイベントが主流だった。季語としての節分行事については足を使って収集するほかなさそうである。

 さりげない詠みぶりだが、節分や鬼の本質が現れている一句。

吉田林檎


【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)


【鬼は外!鬼平犯科帳(幸四郎版)】

【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】



【吉田林檎のバックナンバー】
>>〔86〕手袋に切符一人に戻りたる 浅川芳直
>>〔85〕マフラーを巻いてやる少し絞めてやる 柴田佐知子
>>〔84〕降る雪や玉のごとくにランプ拭く 飯田蛇笏
>>〔83〕ラヂオさへ黙せり寒の曇り日を 日野草城
>>〔82〕数へ日の残り日二日のみとなる 右城暮石
>>〔81〕風邪を引くいのちありしと思ふかな 後藤夜半
>>〔80〕破門状書いて破れば時雨かな 詠み人知らず
>>〔79〕日記買ふよく働いて肥満して 西川火尖
>>〔78〕しかと押し朱肉あかあか冬日和 中村ひろ子(かりん)
>>〔77〕命より一日大事冬日和 正木ゆう子
>>〔76〕冬の水突つつく指を映しけり 千葉皓史
>>〔75〕花八つ手鍵かけしより夜の家 友岡子郷
>>〔74〕蓑虫の蓑脱いでゐる日曜日 涼野海音
>>〔73〕貝殻の内側光る秋思かな 山西雅子
>>〔72〕啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々 水原秋櫻子
>>〔71〕天高し鞄に辞書のかたくある 越智友亮
>>〔70〕また次の薪を火が抱き星月夜 吉田哲二
>>〔69〕「十六夜ネ」といった女と別れけり 永六輔
>>〔68〕手繰るてふ言葉も旨し走り蕎麦 益岡茱萸
>>〔67〕敬老の日のどの席に座らうか 吉田松籟
>>〔66〕秋鯖や上司罵るために酔ふ 草間時彦
>>〔65〕さわやかにおのが濁りをぬけし鯉 皆吉爽雨
>>〔64〕いちじくはジャムにあなたは元カレに 塩見恵介
>>〔63〕はるかよりはるかへ蜩のひびく 夏井いつき
>>〔62〕寝室にねむりの匂ひ稲の花  鈴木光影
>>〔61〕おほぞらを剝ぎ落したる夕立かな 櫛部天思
>>〔60〕水面に閉ぢ込められてゐる金魚 茅根知子
>>〔59〕腕まくりして女房のかき氷 柳家小三治
>>〔58〕観音か聖母か岬の南風に立ち 橋本榮治
>>〔57〕ふところに四万六千日の風  深見けん二
>>〔56〕祭笛吹くとき男佳かりける   橋本多佳子
>>〔55〕昼顔もパンタグラフも閉ぢにけり 伊藤麻美
>>〔54〕水中に風を起せる泉かな    小林貴子
>>〔53〕雷をおそれぬ者はおろかなり    良寛
>>〔52〕子燕のこぼれむばかりこぼれざる 小澤實
>>〔51〕紫陽花剪るなほ美しきものあらば剪る 津田清子
>>〔50〕青葉冷え出土の壺が山雨呼ぶ   河野南畦
>>〔49〕しばらくは箒目に蟻したがへり  本宮哲郎
>>〔48〕逢はぬ間に逢へなくなりぬ桐の花 中西夕紀
>>〔47〕春の言葉おぼえて体おもくなる  小田島渚
>>〔46〕つばめつばめ泥が好きなる燕かな 細見綾子
>>〔45〕鳴きし亀誰も聞いてはをらざりし 後藤比奈夫
>>〔44〕まだ固き教科書めくる桜かな  黒澤麻生子
>>〔43〕後輩のデートに出会ふ四月馬鹿  杉原祐之
>>〔42〕春の夜のエプロンをとるしぐさ哉 小沢昭一
>>〔41〕赤い椿白い椿と落ちにけり   河東碧梧桐
>>〔40〕結婚は夢の続きやひな祭り    夏目雅子
>>〔39〕ライターを囲ふ手のひら水温む  斉藤志歩
>>〔38〕薔薇の芽や温めておくティーカップ 大西朋
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>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎     神野紗希
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人


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