ハイクノミカタ

田を植ゑるしづかな音へ出でにけり 中村草田男【季語=田植(夏)】


田を植ゑるしづかな音へ出でにけり)

中村草田男

 今年は草田男没後40周年という事で、私が所属している俳誌『森の座』でも草田男師没後40年記念大会が企画される。また、今年の3月には同門の故渡辺香根夫氏が『草田男深耕』で第37回俳人協会評論賞を受賞され、草田男周辺で俄に盛り上がりを見せている。

この盛り上がりに追随するべく、こちらの『ハイクノミカタ』をお借りして、草田男俳句について少し探ってみたいと思う。草田男については過去何十年に渡って研究されてきているので、私からは何か新しい草田男の発見という趣旨ではなく、若い読者に向けて草田男俳句は何たるやを改めておさらい出来ればと思っている、

 掲句は草田男の第一句集『長子』に掲載されているが、『長子』を解するうえではまず、『長子』以前の草田男を知ることが必要となろう。

 草田男は明治34年(1901年)7月24日、父が領事をしていた清国福建省厦門(アモイ)の日本領事館で長男として生まれた。その後、3歳頃に母と帰国し、伊予の松山市郊外松前(まさき)町、松山市内、東京は麴町区(現・千代田区)と住居を転々とする。父母ともに不在がちで、おもに祖母が面倒をみてくれており、松山松前町の海辺で赤い蟹が遊ぶのを見たというのが最初の記憶で、忘れがたいと語っている。明治45年・大正元年(1912)11歳には一家で再び松山市に転居し、その後大正3年(1914)13歳、草田男は松山中学校に入学する。中学時代には「楽天」という回覧雑誌の芸術青年グループと交わり、誌上に俳句をしばしば掲載していた。この当時の「ホトトギス」は鬼城、蛇笏らの全盛期が経過して、作句方法として「写生」の必要が強調された時代であった。草田男青年は松山市の図書館に通っては、当時の「ホトトギス」を注意深く読み、大正6年(1917)16歳の折に一度だけ「ホトトギス」を投句するが全て没をくらう。

 大正七年(1918)17歳には、激しい神経衰弱に悩まされ、中学を休学。翌々年に復学するも、大正10年(1921)20歳の際に旧制松山高校の受験に失敗。この頃、受験勉強の憂さ晴らしに山や海辺を散策し、「自然」というものの滋味を生まれて初めて体験する。心身ともに喜びに溢れることがしばしばあり、この時期の体験が草田男の自然観に大きく影響している。翌年、松山高等学校文科甲類に入学するが、さらに翌年大正12年(1923)22歳、一番面倒を見てくれていた祖母が逝去し、草田男は肉親の初めての死にとまどい、大きな衝撃を受ける。大正14年(1925)24歳で東京帝国大学文学部独逸文学科に入学するも、2年後の昭和2年(1927)には、精神上の問題解決と勉学に行き詰まり、再び神経衰弱に悩まされる。この時期に斎藤茂吉の『朝の螢』を偶然読み、深い感銘を受ける。その衝撃を草田男はこう残している。「読者に分らせようとする説明なしに、作者の息吹きをそのまま直接にぶっつけるような歌だが、その創作動機が一つ一つ自分のもののごとく分った。当時ストリンドベルグの懐疑の文学に親しんでいたので、『死にたまふ母』の単純な嘆きに、文芸家がこんなお人好しでいいものかしらと戸まどいを感じた。しかし次の瞬間に、私自身がいつの間にか、人として日本人としての本来性から、借り物の眼で中途半端に引き離され、いびつにされていることに気がついた。抒情とは永久にこういうものであり、素朴、真情とはこういうものだとはっきり分った。『生きること』と、『眺めること』との間の矛盾が一挙に撤去されたような気がした。そして、けっきょく幼稚でもいい、持ちあわせた自分を現在のありのままの時点において精一杯に生かせばいいということを教えられた。これは私にとっては、一種の『救い』だったといってもいい」。草田男の詩歌開眼である。

 この開眼がきっかけで、昭和3年(1928)27歳で大学を休学しつつも、俳句の習作が始まる。心身ともに疲れ切った草田男にとって、自然の中に佇ち、まなざしを向け、一切を忘れて純粋に客観写生することが、云わば救済(許され)でもあった。そして昭和4年(1929)28歳、初めて高浜虚子を丸ビルに訪ねて、正式に入門。東大俳句会で毎回水原秋櫻子の指導を受けつつ、「ホトトギス」の虚子選雑詠欄に投句を開始する。幸運なことに、秋櫻子と同じ帝大法医学研究室に高野素十が在籍していたことにより、その素十に連れ出されては、客観写生の技を磨いていくことになる。『長子』は草田男がその後、「ホトトギス」同人になった翌年の昭和10年(1935)34歳までの作品が収められている。

 このように『長子』以前の草田男を見ていくと、『長子』に収められている句群は、己の救済としての客観写生が、茂吉流写生(実相観入)を消化しつつ、草田男俳句を表現していく一つの過程だという事が分かってくる。客観写生は草田男にとって、ある意味では現実からの逃避であったとも言えるが、それよりも、自然という大存在と自分という生との交感、その息吹に触れる体験こそが草田男にとって必要であり、その大存在との交感こそが草田男の初心の実質であった。

  六つほどの子が泳ぐゆゑ水輪かな   草田男 (『長子』より)

  あかるさや蝸牛かたくかたくねむる

  そら豆の花の黒き目数知れず

  乙鳥はまぶしき鳥となりにけり

  父の墓に母額づきぬ音もなし

  鴨渡る鍵も小さき旅カバン

  月光の壁に汽車来る光かな

  歳晩や火の粉豊かの汽車煙

 どれも素直に初心が生かされ、驚きの純度が高い。草田男の初心はこういったするどい感覚や瑞々しい情感をごく自然に獲得しており、恣意的な俳句より一層共感できる。草田男の天性である童心と初心の産物なのだ。

 さて、掲句に戻ろう。草田男は最晩年まで、自然界と人間界とが相交錯した町はずれ、または近郊へさまよって句作することがほとんどであったが、掲句も郊外を歩いていた時に出来た句であろう。昭和5年の作で、現代のトラクターでの田植えではなく、手作業による田植えの光景だ。時折泥から足を抜く時の音や畦を吹き通る風の音以外は、しんとしている。町の賑やかな喧騒とは対照的に、忍ぶように黙々と働いている人たち。そこに、作者のこころへとわずかに響いて来たしづかな音。目まぐるしく移り変わる時代のうねりの中、このようなしずかな仕事も存在するという驚きや、この世ではじめて出会ったような音への安らぎが感じられる。

「しづか」という言葉で想起される句が、草田男の第二句集「火の島」に収められている「優曇華やしづかなる代は復と来まじ」という句だ。二つとも、寛やかな日への回顧的な歴史観という意味では、同じ土壌であろう。そしてその寛やかな日への回顧とはまさに、草田男の原風景であり草田男の風土ともいうべき、明治の風景への回顧であり、「長子」の巻頭を飾った帰郷二十八句の舞台でもある松山での日々、幼少期を母や祖母と暮らしていたあの寛やかな日々への回顧でもある。度々の神経衰弱に悩まされた草田男の許されとして交感が、ここにしづかに表現されている。

北杜駿


【執筆者プロフィール】
北杜駿(ほくと・しゅん)
1989年生まれ。千葉県出身。現在は山梨県在住。2019年「森の座」入会、横澤放川に師事。2022年星野立子新人賞受賞。2023年森の座新人賞受賞。「森の座」同人。
Email: shun.hokuto@outlook.com


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2023年5月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔5〕皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人
>>〔6〕煮し蕗の透きとほりたり茎の虚  小澤實
>>〔7〕手の甲に子かまきりをり吹きて逃す 土屋幸代
>>〔8〕いつまでも死なぬ金魚と思ひしが 西村麒麟
>>〔9〕夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ  堀本裕樹

【2023年5月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔1〕遠き屋根に日のあたる春惜しみけり 久保田万太郎
>>〔2〕電車いままつしぐらなり桐の花 星野立子
>>〔3〕葉桜の頃の電車は突つ走る 波多野爽波
>>〔4〕薫風や今メンバー紹介のとこ 佐藤智子
>>〔5〕ハフハフと泳ぎだす蛭ぼく音痴 池禎章

【2023年4月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔1〕春風にこぼれて赤し歯磨粉  正岡子規
>>〔2〕菜の花や部屋一室のラジオ局 相子智恵
>>〔3〕生きのよき魚つめたし花蘇芳 津川絵理子
>>〔4〕遠足や眠る先生はじめて見る 斉藤志歩

【2023年4月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔6〕赤福の餡べつとりと山雪解 波多野爽波
>>〔7〕眼前にある花の句とその花と 田中裕明
>>〔8〕対岸の比良や比叡や麦青む 対中いずみ
>>〔9〕美しきものに火種と蝶の息 宇佐美魚目

【2023年3月の火曜日☆三倉十月のバックナンバー】

>>〔1〕窓眩し土を知らざるヒヤシンス 神野紗希
>>〔2〕家濡れて重たくなりぬ花辛夷  森賀まり
>>〔3〕菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ 金原まさ子
>>〔4〕不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ【←三倉十月さんの自選10句付】

【2023年3月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔1〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波
>>〔2〕砂浜の無数の笑窪鳥交る    鍵和田秞子
>>〔3〕大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波
>>〔4〕カードキー旅寝の春の灯をともす トオイダイスケ
>>〔5〕桜貝長き翼の海の星      波多野爽波

【2023年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔6〕立春の零下二十度の吐息   三品吏紀
>>〔7〕背広来る来るジンギスカンを食べに来る 橋本喜夫
>>〔8〕北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり 平川靖子
>>〔9〕地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島 櫂未知子

【2023年2月の水曜日☆楠本奇蹄のバックナンバー】

>>〔1〕うらみつらみつらつら椿柵の向う 山岸由佳
>>〔2〕忘れゆくはやさで淡雪が乾く   佐々木紺
>>〔3〕雪虫のそつとくらがりそつと口笛 中嶋憲武
>>〔4〕さくら餅たちまち人に戻りけり  渋川京子

【2023年1月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔1〕年迎ふ父に胆石できたまま   島崎寛永
>>〔2〕初燈明背にあかつきの雪の音 髙橋千草
>>〔3〕蝦夷に生まれ金木犀の香を知らず 青山酔鳴
>>〔4〕流氷が繋ぐ北方領土かな   大槻独舟
>>〔5〕湖をこつんとのこし山眠る 松王かをり

【2023年1月の水曜日☆岡田由季のバックナンバー】

>>〔1〕さしあたり坐つてゐるか鵆見て 飯島晴子
>>〔2〕潜り際毬と見えたり鳰     中田剛
>>〔3〕笹鳴きに覚めて朝とも日暮れとも 中村苑子
>>〔4〕血を分けし者の寝息と梟と   遠藤由樹子

【2022年11・12月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】

>>〔1〕氷上と氷中同じ木のたましひ 板倉ケンタ
>>〔2〕凍港や旧露の街はありとのみ 山口誓子
>>〔3〕境内のぬかるみ神の発ちしあと 八染藍子
>>〔4〕舌荒れてをり猟銃に油差す 小澤實
>>〔5〕義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳
>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
>>〔7〕胸の炎のボレロは雪をもて消さむ 文挾夫佐恵
>>〔8〕オルゴールめく牧舎にも聖夜の灯 鷹羽狩行
>>〔9〕去年今年詩累々とありにけり  竹下陶子

【2022年11・12月の水曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔1〕泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ
>>〔2〕牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等
>>〔3〕誕生日の切符も自動改札に飲まれる 岡田幸生
>>〔4〕雪が降る千人針をご存じか 堀之内千代
>>〔5〕トローチのすつと消えすつと冬の滝 中嶋憲武
>>〔6〕鱶のあらい皿を洗えば皿は海 谷さやん
>>〔7〕橇にゐる母のざらざらしてきたる 宮本佳世乃
>>〔8〕セーターを脱いだかたちがすでに負け 岡野泰輔
>>〔9〕動かない方も温められている   芳賀博子

【2022年10月の火曜日☆太田うさぎ(復活!)のバックナンバー】

>>〔92〕老僧の忘れかけたる茸の城 小林衹郊
>>〔93〕輝きてビラ秋空にまだ高し  西澤春雪
>>〔94〕懐石の芋の葉にのり衣被    平林春子
>>〔95〕ひよんの実や昨日と違ふ風を見て   高橋安芸

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔5〕運動会静かな廊下歩きをり  岡田由季
>>〔6〕後の月瑞穂の国の夜なりけり 村上鬼城
>>〔7〕秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
>>〔8〕逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ 池田澄子

【2022年9月の火曜日☆岡野泰輔のバックナンバー】

>>〔1〕帰るかな現金を白桃にして    原ゆき
>>〔2〕ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
>>〔3〕サフランもつて迅い太子についてゆく 飯島晴子
>>〔4〕琴墜ちてくる秋天をくらりくらり  金原まさ子

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔1〕九月来る鏡の中の無音の樹   津川絵理子
>>〔2〕雨月なり後部座席に人眠らせ    榮猿丸
>>〔3〕秋思かがやくストローを嚙みながら 小川楓子
>>〔4〕いちじくを食べた子供の匂ひとか  鴇田智哉

【2022年6月の火曜日☆杉原祐之のバックナンバー】

>>〔1〕仔馬にも少し荷を付け時鳥    橋本鶏二
>>〔2〕ほととぎす孝君零君ききたまへ  京極杞陽
>>〔3〕いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝
>>〔4〕雲の峰ぬつと東京駅の上     鈴木花蓑

【2022年6月の水曜日☆松野苑子のバックナンバー】

>>〔1〕でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子
>>〔2〕襖しめて空蟬を吹きくらすかな  飯島晴子
>>〔3〕螢とび疑ひぶかき親の箸     飯島晴子
>>〔4〕十薬の蕊高くわが荒野なり    飯島晴子
>>〔5〕丹田に力を入れて浮いて来い   飯島晴子

【2022年5月の火曜日☆沼尾將之のバックナンバー】

>>〔1〕田螺容れるほどに洗面器が古りし 加倉井秋を
>>〔2〕桐咲ける景色にいつも沼を感ず  加倉井秋を
>>〔3〕葉桜の夜へ手を出すための窓   加倉井秋を
>>〔4〕新綠を描くみどりをまぜてゐる  加倉井秋を
>>〔5〕美校生として征く額の花咲きぬ  加倉井秋を

【2022年5月の水曜日☆木田智美のバックナンバー】

>>〔1〕きりんの子かゞやく草を喰む五月  杉山久子
>>〔2〕甘き花呑みて緋鯉となりしかな   坊城俊樹
>>〔3〕ジェラートを売る青年の空腹よ   安里琉太
>>〔4〕いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希

【2022年4月の火曜日☆九堂夜想のバックナンバー】

>>〔1〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔2〕未生以前の石笛までも刎ねる    小野初江
>>〔3〕水鳥の和音に還る手毬唄      吉村毬子
>>〔4〕星老いる日の大蛤を生みぬ     三枝桂子

【2022年4月の水曜日☆大西朋のバックナンバー】

>>〔1〕大利根にほどけそめたる春の雲   安東次男
>>〔2〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔3〕田に人のゐるやすらぎに春の雲  宇佐美魚目
>>〔4〕鶯や米原の町濡れやすく     加藤喜代子

【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】

>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸   正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ  正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉      正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな     正岡子規
>>〔5〕おとつさんこんなに花がちつてるよ 正岡子規

【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】

>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる    野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
>>〔3〕春天の塔上翼なき人等      野見山朱鳥
>>〔4〕春星や言葉の棘はぬけがたし   野見山朱鳥
>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海    野見山朱鳥

【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】

>>〔1〕年玉受く何も握れぬ手でありしが  髙柳克弘
>>〔2〕復讐の馬乗りの僕嗤っていた    福田若之
>>〔3〕片蔭の死角から攻め落としけり   兒玉鈴音
>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな     畠山弘

【2022年2月の水曜日☆内村恭子のバックナンバー】

>>〔1〕琅玕や一月沼の横たはり      石田波郷
>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養    石田波郷
>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず  有馬朗人
>>〔4〕仕る手に笛もなし古雛      松本たかし

【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】

>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は   中原道夫
>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催      潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ      田口武

【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】

>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎     神野紗希

【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺    正岡子規
>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事   岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ
>>〔4〕共にゐてさみしき獣初しぐれ   中町とおと

【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】

>>〔1〕綿入が似合う淋しいけど似合う    大庭紫逢
>>〔2〕枯葉言ふ「最期とは軽いこの音さ」   林翔
>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より      藺草慶子
>>〔4〕みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何
>>〔5〕ともかくもくはへし煙草懐手    木下夕爾

【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】

>>〔1〕海くれて鴨のこゑほのかに白し      芭蕉
>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ    芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉      芭蕉
>>〔4〕埋火もきゆやなみだの烹る音      芭蕉
>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【前編】
>>〔5-2〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【後編】

【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】

>>〔1〕秋灯机の上の幾山河        吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
>>〔3〕後輩の女おでんに泣きじゃくる  加藤又三郎
>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す    寺田京子

【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】

>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊     杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ  後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す   仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒     山口青邨

【2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】

>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり   夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな   永田耕衣


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