春風にこぼれて赤し歯磨粉正岡子規【季語＝春風（春）】

ハイクノミカタ

春風にこぼれて赤し歯磨粉　正岡子規【季語＝春風（春）】

2023/4/4
ハイクノミカタ, マンスリーゲスト
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春風にこぼれて赤し歯磨粉)

正岡子規

春風が吹いて赤い歯磨粉がこぼれたという句。現代の感覚から見ると、歯磨粉がこぼれるというのは不思議かもしれない。この句は明治２９年、子規２９歳のときの作品。昔は、歯磨粉は文字通り「粉」で、色が赤いものもあったようだ。（ちなみに現在のようなチューブ入りの練り歯磨き粉が発売されたのは明治４４年。）春風と歯磨粉との取り合わせがフレッシュで、意表を突かれる句だ。日常のちょっとした失敗を「綺麗だな」と眺めている作中主体のおだやかな心を感じるのは、季語が「春風」だからだ。

月並み俳句を否定し、新しい俳句の題材を求めていた子規らしい一句。自分の日常生活を見つめて、映像が見えるように句にするだけで、読者を惹きつける力を持ちうる。初学の頃からずっと好きな句だ。

わたしは先日、別のふたつの句会に同じ句を投句してしまった。「してしまった」と書いたが、参加者の重複がなければ、ときどきやる。句会で点が欲しいからだ。でもそれを知られることは恥ずかしいので、参加者の重複がないことを念入りに確認する。それなのにうっかりしてやってしまった。自分の醜いところを見られた気がして、本当に落ち込んだ。

先日お会いした俳人の方が、「句会にはいつも締め切りの日に考えた、新作の句を投句する」とおっしゃっていた。カッコイイと思った。

調べたわけじゃないが、正岡子規も句会には毎回新作の句を出していたと思う。新しい俳句を作りたい、句会というものを一期一会の場として楽しみたい、と考えていただろうから。（わたしも頑張りたいです……！）

『子規句集　高浜虚子選』（岩波文庫）より

（千野千佳）

【執筆者プロフィール】
千野千佳（ちの・ちか）
１９８４年新潟県生まれ。２０１６年より作句開始。２０１８年蒼海俳句会に入会。第２回蒼海賞受賞。第１１回星野立子新人賞受賞。薬剤師。
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2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜＝日下野由季→篠崎央子（2021年7月〜）、火曜＝鈴木牛後、水曜＝月野ぽぽな、木曜＝橋本直、金曜＝阪西敦子、土曜＝太田うさぎ、日曜＝小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓