湖をこつんとのこし山眠る松王かをり【季語＝山眠る（冬）】

湖をこつんとのこし山眠る)

松王かをり
（「北海道俳句年鑑2022」より）

　前回、流氷が大好きと書いたが、一番好きなものは、湖である。東京にいた頃から、吟行や旅行などで湖を訪れることが多かった。「湖には何もないだろ」と思う方が多くいるだろうが、私はなかなか興味深いものが豊富にあるのではないかと思っている。例えば、そこに吹く風や湖畔の鄙びた土産屋、繋がれているボート、湖畔のよくわからない神社、密かに咲く花々など。皆さん、どうだろうか。湖も流氷と同じく、俳人好みの良いところだと思う。

　ここ、北海道は、湖の宝庫であり、様々な特徴をもった湖が、全道各地に点在している。まだ、全て訪れているわけではないが、北海道に来てからの3年半で多くの湖を訪ねた。

　いくつか訪れた湖を紹介したい。

　まず、然別湖（上士幌町）。北海道の中で最も標高が高いところにある湖（標高810ⅿ）で透明度も高い。湖畔の道が狭く、車1台分の道をひやひやしながら、進んだことを覚えている。次は、阿寒湖（釧路市）。道民割で泊まった鶴雅リゾートが素敵だった。皆さんもご存知かと思うが、マリモやヒメマスが有名なところである。最後は支笏湖（千歳市）。これは最近はじめて訪ねた。恵庭岳、風不死岳に囲まれた、カルデラ湖である。ちなみに、ここが日本最北の不凍湖である。つまり、前述の2つの湖は、冬季は凍ってしまう。また、水深が日本で2番目に深いようで、秋には群青色の湖と紅葉が大変美しい。ここでも鶴雅リゾートに泊まった。湖といえば鶴雅リゾートというイメージだ。冬にわかさぎ釣りをするべく、網走湖（網走市）に行った際も、鶴雅リゾートに泊まった。振り返ってみるとどうやら、湖へ出向くときは、毎度奮発しているようだ。私が、湖へ行くときは常に本気なのである。ここで紹介した以外にも、北海道には多くの有名な湖がある。摩周湖、洞爺湖、屈斜路湖など。ぜひ、北海道に来る際は、寄ってみて欲しい。

　掲句の作者は、「銀化」同人・「雪華」会員の松王かをりさん。30句連作「海原へ」で、第23回現代俳句協会年度作品賞を受賞している。私が北海道に来てより、個人的に大変お世話になっており、先日は、鮭の遡上を見る吟行ツアーを、石川美智子さん（石狩の俳人）とともに、ご一緒させていただいた。私と同様に、本州から北海道にやってきて、そこで暮らし、俳句を詠み続けている方だ。掲句は、中七の「こつんとのこし」がなんとも北海道らしい。北海道の湖は、大きな山に囲まれていることが多い。また、その山々は、雪をかぶって、まったくの音を持たずに静まり返っている。「山眠る」どころか「山爆睡」といったところか。取り残された湖はまさに、「こつんと」である。山々も、湖も、湖の魚も、山の動物も、みな北海道の厳しい冬に屈しているように思える。もちろん、私も。

（鈴木総史）

【執筆者プロフィール】
鈴木総史（すずき・そうし）
平成8年（1996）東京都狛江市生まれ、26歳。
北海道旭川市在住。現在、製薬会社の営業（MR）として勤務。
平成26年（2014）、第17回俳句甲子園をきっかけに俳句をはじめる。
平成27年（2015）3月、「群青」入会。櫂未知子と佐藤郁良に師事。本格的に作句を開始。
令和元年（2019）、転勤に伴い、北海道旭川市へ移住。
令和3年（2021）10月、「雪華」入会。橋本喜夫に師事。
令和4年（2022）、作品集「微熱」にて、第37回北海道新聞俳句賞を最年少受賞。
令和5年（2023）1月より、「雪華」同人。
現在、「群青」「雪華」同人。俳人協会会員。