舌荒れてをり猟銃に油差す小澤實【季語＝猟銃（冬）】

ハイクノミカタ

舌荒れてをり猟銃に油差す　小澤實【季語＝猟銃（冬）】

2022/11/22
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舌荒れてをり猟銃に油差す)

小澤實

　　故郷を離れ
　　エレファント・ガンを手に
　　奴らを一頭ずつ仕留め
　　横たえるんだ
　　まだ見つからない
　　この近くにはいない

　　狩の季節よ　来たれ
　　季節が巡ってきた

アメリカのバンド、ベイルートのエレファント・ガンという曲である。

筆者の妻には趣味が無い。元から無かったわけではない。出会った頃はお互いバンドマンであったし、ライブや音源を自主制作するなど活発に活動していた。しかし高校を卒業してからはバンド活動をする余裕が無くなったのだ。ましてや子どもが産まれ、子育てと仕事を両立するヘビーな日々なのだから、趣味の時間も持てないのであろう。夫が趣味に没頭し過ぎているのだから尚更である。

そんな妻が最近妙にハマっている動画があるらしい。以前にテレビ放送されていた「どうぶつ奇想天外!」である。なるほど、番組名は聞き馴染みがあるし見たことはある。しかしそこまでハマるような内容だっただろうか。

妻が言うには、ライオンがシマウマのお尻に飛びかかるシーンなどに生命力を感じるのだそうだ。私たち人間は普段、加工済みの肉をスーパーで購入し調理後に口にする。しかしそれは動物本来の姿ではなく、件の動画にこそ動物本来の姿を見た思いがすると言うのだ。毎日仕事や子育てなど生活していくだけで大変だが、動画を見ることで日々を生きる活力を得ているのだそうだ。生き抜く力を忘れないようにしたいとも語っていた。妻の言わんとすることはなんとなく理解できるが、そこまでの興奮を覚えるのはなぜだろうか。

筆者の住む福山市は、新幹線も停まる地方都市である。家から買い物に出るにも便利であるし特別困ることも無い。しかし車で20分程にある妻の実家は、市内ではあるが全くの田舎だ。近くに買い物ができる店も見当たらない。民家の数に比べて田んぼや畑が町の大半を広々と占めている。

そんな妻の実家に子ども達と泊まりに行った夜である。妻の実家の電話が鳴った。義母が電話に出るとどうやら間違い電話のようだ。それだけならば特に記憶には残らなかったであろう。しかしその間違い電話の内容は、狩の依頼であった。自宅の畑を荒らす害獣を駆除してほしい、という電話を間違えて掛けてきていたのだ。義母や妻は特に気にしていないようであったが、筆者にとっては驚きであった。胸騒ぎの収まらぬ一夜となった。

その翌日、妻の実家から遠くない廃村に向かった。妻の両親が以前に住んでいたそうだ。山奥の廃村であるから他に人は来ないはずの場所である。しかし到着するとそこには既に一台の軽トラックが停まっていた。筆者と子どもに若干の緊張感が走る。おそるおそる軽トラックを覗きに行ってみたが、誰も乗っていないようである。近くに誰かいるのだろうか、それとも隠れているのか。何のために？などと妄想しつつフロントガラスからダッシュボードを覗いてみた。そこには狩猟の認可プレートのようなものが置いてあった。これにも衝撃を受けた。狩がこんなにも身近で行われているなんて、今まで考えたことがなかったからである。距離にしてそれ程遠く離れていなくても、全く育った環境が違うのだと思い知らされた。

妻の「どうぶつ奇想天外! 」に対する興奮は、そんな生まれ育った環境に関わりがあるかどうかはわからない。日本人は農耕民族になる以前は狩猟が主体だったと聞く。もしかすると妻は狩猟時代の本能を思い出したのかもしれない。

近頃は夜がめっきり寒くなった。子どもにはお腹だけでなく、お尻も隠すようにきつく言い聞かせようと思う。

（赤松佑紀）

【執筆者プロフィール】
赤松佑紀（あかまつ・ゆうき）
昭和59年福井県生まれ、広島県在住。音響専門学校在学中にCDデビュー。現在はＷＥＢデザイン会社専務取締役。「香雨」同人。俳人協会会員。
平成25年「狩」入会。平成31年「香雨」入会。令和2年同人。第一回「香雨」評論賞エッセイ部門受賞。令和3年第三回「香雨」新雨賞受賞。令和4年第十回俳句四季新人賞受賞。第三回「香雨」評論賞評論部門受賞。

2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜＝日下野由季→篠崎央子（2021年7月〜）、火曜＝鈴木牛後、水曜＝月野ぽぽな、木曜＝橋本直、金曜＝阪西敦子、土曜＝太田うさぎ、日曜＝小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓