やはらかきところは濡れてかたつむり 齋藤朝比古【季語=蝸牛(夏)】

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やはらかきところは濡れてかたつむり()

齋藤朝比古


でんでん むしむし かたつむり
お前のあたまは どこにある
つの出せ やり出せ あたま出せ

(童謡「かたつむり」)

んー、歌うのは久しぶり。

こんなふうに童謡にあるほど日本ではおなじみで、夏、特に梅雨時ならば、戸外の草木のどこにでもカタツムリはいたように思う。一方、アメリカではあまり見た覚えがないのは気のせいか。やはり梅雨時には日本に帰省していたため、アメリカのカタツムリ期を逃していたということだろうか。

日本以外では二カ国でカタツムリを見たことがある。食用で有名なフランスのエスカルゴ、ではなく、一つは、ギリシャ。古代遺跡の石と石の間にびっしりと並んでいた。二つ目はアイルランド。古い教会の近くの原っぱの草陰に一匹コロンと潜んでいた。やはりともに湿ったところ。

それもそのはず、陸に棲む巻貝の通称であるこのカタツムリ(蝸牛)は、軟体部と呼ばれる体が湿った状態でなければ生きていけないのだ。体が乾燥すると、体を殻の中に入れ、殻口に薄膜を貼って乾燥を防ぐ。自然は智慧。自然は神秘。

さて、掲句は、そのカタツムリの生態をピタリと言いえている。

  やはらかきところは濡れてかたつむり

柔らかいところは体。硬いところは殻。体は常に濡れている。いわれてみればその通りなのだが、それをそう思わせることができるのが無技巧の技巧であろう。

それも見事だがそれだけに終わらない。一読、カタツムリのことを伝えていると見える掲句も、繰り返し読むうちに〈やはらかきところは濡れて〉の後にある切れにより、〈やはらかきところは濡れて〉と、感知している、動作の(ぬし)の立ち位置に読者が呼び込まれ、読者は人間である自分にもある〈やはらかきところは濡れて〉に気づく。

このムズムズ感は生き物感。この小さな生き物と読者は、生命ある悦びを共にするのだ。

  やはらかきところは濡れてかたつむり

調べてみると、確かにアメリカにもカタツムリ(snail/スネイル)はいるはず。さあ、カタツムリレーダーをフルにして、散歩に出かけよう。もちろん歌を歌いながら。

「累日」(角川書店、2013年)

月野ぽぽな


【執筆者プロフィール】
月野ぽぽな(つきの・ぽぽな)
1965年長野県生まれ。1992年より米国ニューヨーク市在住。2004年金子兜太主宰「海程」入会、2008年から終刊まで同人。2018年「海原」創刊同人。「豆の木」「青い地球」「ふらっと」同人。星の島句会代表。現代俳句協会会員。2010年第28回現代俳句新人賞、2017年第63回角川俳句賞受賞。
月野ぽぽなフェイスブック:http://www.facebook.com/PoponaTsukino


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