底冷えを閉じ込めてある飴細工 仲田陽子【季語=底冷(冬)】

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底冷えを閉じ込めてある飴細工

仲田陽子


冬の体感をあらわす季語には、「寒し」と「冷たし」があるが、「寒し」は主に気温の低さに対して使われ、「冷たし」は主に、手を触れた場合などの局所的な感覚として使われるようだ。

〈底冷え〉は「冷たし」の傍題(ぼうだい)で、盆地で感じられる、地の底から肌を這い上がるような冷えをいい、京都の〈底冷え〉はよく知られているところである。

〈飴細工〉は江戸時代に江戸で始まったとされる。〈飴細工〉の作り手は飴細工師と呼ばれ、飴を食紅で着色し、柔らかいうちに和鋏や棒を使って、植物や動物など様々な形を作りあげる。その職人芸は大道芸として披露され今日まで人々を魅了している。発祥を平安時代の京都とする説もあり、江戸時代に江戸に飴職人が移り〈飴細工〉を世に広めたとしている。この他、安土桃山時代にポルトガルから伝来した南蛮菓子である、有平糖(あるへいとう)を用いるものは「有平細工」と呼ばれ、高級菓子として茶席などで供されるという。〈飴細工〉は、豊かな歴史をもち多彩な和菓子の芸術品だ。 

おそらく作者は底冷えの京都にて〈飴細工〉に出会ったのであろう。〈飴細工〉に〈底冷え〉が〈閉じ込めてある〉としたところに詩心の冴えがある。

まず、厳しい冷たさによって〈飴細工〉の色や繊細さや透明感が、より鋭く鮮やかに際立つ様子が見えてくる。

そして、食べてしまうのを惜しみながらも〈飴細工〉を頬張ると、〈閉じ込め〉られていた〈底冷え〉が、舌の上でゆっくり溶けて甘く広がってゆくのを想像できる。

さらに「〈閉じ込め〉る」という表現の働きだろうか、「今この瞬間にこの美しさを独り占めする(よろこ)び」といった気分が読後に香るのも魅力だ。

体感、視覚、味覚そして余韻として漂う気分との共鳴。京都の〈底冷え〉が独特の感性によって美しく〈飴細工〉に結晶している。

京都を愛する人は多いが、筆者もその一人。俳句のご縁のおかげで一時帰国の際には必ずといってよいほど足を運んでいる。長い歴史の中で育まれてきた豊かな伝統が今も新しく息づく京都は、何度訪れても魅力が尽きない。

〈底冷え〉の〈飴細工〉を愛でること。

掲句のおかげで、いつの日か、また京都を訪ねる楽しみが増えた。

「Y ユプシロン」 No.2(2019年)

月野ぽぽな


【執筆者プロフィール】
月野ぽぽな(つきの・ぽぽな)
1965年長野県生まれ。1992年より米国ニューヨーク市在住。2004年金子兜太主宰「海程」入会、2008年から終刊まで同人。2018年「海原」創刊同人。「豆の木」「青い地球」「ふらっと」同人。星の島句会代表。現代俳句協会会員。2010年第28回現代俳句新人賞、2017年第63回角川俳句賞受賞。
月野ぽぽなフェイスブック:http://www.facebook.com/PoponaTsukino



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