ハイクノミカタ

鶏鳴の多さよ夏の旅一歩 中村草田男【季語=夏の旅(夏)】


鶏鳴の多さよ夏の旅一歩)

中村草田男

 掲句は第四句集『来し方行方』の「旅一歩」という章題がついた群作の第一句目であり、同時に、「萬緑」創刊号での草田男の第一句目でもある。前回の「ハイクノミカタ」で述べた旅へのこころの開かれが余すところなく表現されているであろう。

「鶏鳴」ははたして草田男傾倒派からの喝采か、あるいは花鳥諷詠・新興俳句派からの非難か…。ここではやはり、「鶏鳴」という清々しさと「旅一歩』という覚悟にも似た出立のこころを取りたい。創刊号の「創刊に際して」で草田男は、「『結社意識』と『結社精神』とは全然別個の物である。われわれは、世渡り術的な『結社意識』を脱却してかからなければならないが、中心の本核をなす『結社精神』は、一日も早く、正しく逞しく樹立しなければならないのである」と力強く語る。

『萬緑』創刊は丁度終戦後一周年(昭和21年/1946年10月)に当たるが、戦後という時代の混乱期にあってなお、主宰者として前途を見据える草田男のまなざしは、あくまでも未来に溢れているように思える。

「結社精神」としての一つの指針として草田男は、俳句以前に人生があって、生き方と相関する俳句を求めていた。草田男は同創刊号で、「一個の俳句は、飽くまでも『芸』としての要素と『文学』としての要素から成立して居り、又、成立させなければならない筈のものである。『芸』とは俳句の有機的特性に関する制約の一切を指し、『文学』とは、作者としての内面界に於ける、人生、社会、時代の生活者としての無制約の豊富な内容を指す。過去の時代に於いては、伝統俳句は、兎角『芸』になずんで『文学』をおろそかにし、新興俳句は、兎角、『文学』常識に興ずるものの『芸』としての特性を放棄し又は仮装するにとどまった」と語り、それこそがニーチェのいわゆる「許され」を獲得することが出来る唯一の方法だと、「芸」と「文学」との一致を目標に掲げる。

 後年には、金子兜太他前衛俳句との対立が浮き彫りになった、「俳句』誌上の金子兜太との往復書簡にて、この「文学」と「芸」の関係は、「心」と「体」の双方の関係の事を言っていたと語る。「心=俳句作品の内容」は、社会全般として普遍性をそなえたものでなければならず、しかし、それはあくまでも俳句独自の「体」を備えた有機的なものでなければならない。その「体」としての、有機的な「いきもの」としての奥行を体得するために、「季題」というものを通して一切を把握し、一切を表現しなければならないという旨を説く。

 「萬緑」ははたして、順風満帆に発展するかと思われた。しかし、創刊早々に『萬緑』編集部と発行所の三誠堂との間に問題が生じ、第5・6号は合併号となる。その後、その問題は解決されず、三誠堂との契約は打ち切り。新たな発行組織・発行形態を整えるのに三か月を要し、ようやく第7号が発行された。その号には「新しき発行組織による続刊に際して」という文章が記載され、草田男はその事情を読者に説明し、作品欄批評でもこのことに触れている。

「私という俳句作家の存在にあって、はじめてそれを中心に編集同人が集結し、読者また、私の存在を信用することによって、雑詠欄に句を投じていた筈である。(中略)ただ発行営業のことのみを三誠堂に委任した」はずであった。しかし三誠堂は、「萬緑」はまるで自分たちの支配下にあるような振る舞いで、草田男及び編集同人たちの編集活動や編集方針を制限。発行費用の支払いの際にも条件の不一致で大揉めし、ついには契約破綻になるのだが、それまで読者から投じられていた3か月分の句稿のうち、二か月分だけを草田男に返却、残りの1か月分の句稿を基に、「萬緑改題」と称して、別の選者の全く違う内容の新雑誌を「萬緑」の読者に押し付けるという暴挙に出る。早い話が乗っ取りであった。これには草田男も呆れ調子で、「方便、便宜のためとはいえ、文芸の道と作品の尊厳と、加うる各作者の意志とを、頭から無視して省みない其『心のなさ』を、私は何と形容し何に喩えてよいか解らない」と嘆く。

 その後も、「合併号」「夏季号」などの不定期刊行が度々あり、昭和24年10月には3周年記念号として第27号が刊行された。ひと月一冊で発行されていれば、第37号位になるはずであった。

 また、主宰誌の醍醐味でもある草田男の雑詠欄選評の不掲載もしばしば(選すら出来ず休刊になることもしばしば)で、昭和27年8月号から同年11月号まで選評欄不掲載、昭和28年9月号から昭和29年1月号まで選評欄不掲載、昭和29年は1月号と2月号のみ選評欄掲載でその他不掲載、「萬緑」10周年を迎えた昭和30年に入ると、1年ぶりに選評欄を再開し、1年間執筆を全うするが、昭和31年から昭和38年の1月号まで8年もの間、選評欄は不掲載となる。

 遅刊や休刊の大きな原因としては、戦後の困難な暮らしに加えて、草田男の勤務先の多忙も挙げられるが、やはり草田男の遅筆と実作優先の態度が最も大きな原因であろう。多忙な時間の合間に、通り一遍な評で済ますことが出来ない気質なため、どうしても遅筆になるのだが、その選評の密度ははるかに濃く、作者の意を越えた深く鮮やかな鑑賞が展開され、句のすみずみまで活気を得て脈打つ感があったという。少々長いかもしれないが、一つだけその選評を取り上げてみよう。

 空蟬の脚のつめたきこのさみしさ 成田千空

 一応至極単純な句のように見える。意味も解説を必要としない程に自明のように見える。それでいて、作品其物のきめはなかなかこまかく、作品として占める類別的性質も、決して、ひととおりに、かたづけてはかかれないところがある。

 夏以来、そこいらの木の枝や葉かげなどに沢山附着していて、眺めて珍しいとも思わなかった空蝉を、季節すすんで大気、個物すべてが、つめたくなったときに、ふと、今更ながら手にとりあげてみて、それが伴っている其脚のつめたさを、はかなしと感じているのである。(中略)空蟬の体の大部分は、薄い薄い膜のようなもので出来上がっている。ただ六脚の端の部分だけは、厚味があり、堅く、殆ど空洞でない程に角質が充実していて、その上、尖端が爪になって鋭い。だから、其、思い切ってこまかく鋭くなった六脚の端を同時に一とそろえにして手の甲の上に置けば、かすかながらに却ってハッキリとかすかならぬ刺戟として、つめたいのである。

『空蟬の脚のつめたきさみしさよ』などと、リズムが弛緩しないで『このさみしさ』となっているのは、わざわざ詰屈にして奇をてらったのではなくして、其瞬間の極度に微かな、極度にハッキリとしたつめたさの実感を如実ならしめるための手段である。皮膚の表面全体に大気から受けている『つめたさ』が、六脚の端によって、最も繊細に刺戟されて、最も繊細に自覚されたのだ。といってもいい。

 しかも、此句には、おそらく其成立上に一つの秘密がひそんでいる。『空蟬の身』という場合の枕言葉的用語を、其儘に実体後として利用してしまったとも考えられるからである。即ち、『空蟬の脚の』は『空蟬の身の脚の』の言語的役割をつとめているのであって、此句は、今まで説明してきたような意味以外に作者自身の所謂『なま身』『生き身』の、はかなき脚のつめたさ(冷え)を『さみし』と観じている気息をも同時に含んでいると解しても、鑑賞理解として、差支えないのである。

 対象となった素材の具備する世界と、相田入った作者の内蔵する世界とが、ダブル・エクスポオジュアといっては機械的説明にすぎる——彼我、不断に相通いつづけているのである。此種の詩界は、是非の論理を越えて、すでに芭蕉によって、立派に実行されている世界なのである。(此事についての、現代俳句に於ける意味などを、ここで論じ始めたら、際限がなくなるから、ほんの暗示としての一語を漏らしただけで、今回は打ち切りにする。)」

 実作優先の態度に関して草田男は、自分でも制御できない程の制作欲に駆られることが度々あり、滾々と湧きつぐ詩泉を掬み上げるための労力と時間を惜しまなかった。その間断なき詩作の契機に、草田男は自ら生母の死をあげている。母を失うという極度の悲惨時が草田男に「一本立ち」の自由と、詩人としてまだ途上にあるという自覚を目覚めさせ、それらが、「飽くことをしらない内部生命の燃焼と制作意欲の昂揚」を促したのであった。

 そうなった以上、作品の多少の不備は後回しで、「汾湧を汾湧たらしめること」が草田男の最大課題であった。思えば草田男26歳の際の俳句習作のはじまりも、自身の神経衰弱からの救済(許され)としての俳句であった。この極端なまでの制作意欲もやはり、精神の極限下において自分を保つための唯一の対処法でもあったのであろう。

 結果として「萬緑」の遅刊や休刊があるものの、その時代の当事者として草田男俳句の汾湧の限りを直接読むことのできた読者にとって、「萬緑」という雑誌は、刊行出来たら幸運というくらいのいわば天恵の如き雑誌であったかもしれない。

北杜駿


【執筆者プロフィール】
北杜駿(ほくと・しゅん)
1989年生まれ。千葉県出身。現在は山梨県在住。2019年「森の座」入会、横澤放川に師事。2022年星野立子新人賞受賞。2023年森の座新人賞受賞。「森の座」同人。
Email: shun.hokuto@outlook.com


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2023年6月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】

>>〔1〕田を植ゑるしづかな音へ出でにけり 中村草田男
>>〔2〕妻のみ恋し紅き蟹などを歎かめや  中村草田男
>>〔3〕虹の後さづけられたる旅へ発つ   中村草田男

【2023年6月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔6〕妹の手をとり水の香の方へ 小山玄紀
>>〔7〕金魚屋が路地を素通りしてゆきぬ 菖蒲あや
>>〔8〕白い部屋メロンのありてその匂ひ 上田信治

【2023年5月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔5〕皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人
>>〔6〕煮し蕗の透きとほりたり茎の虚  小澤實
>>〔7〕手の甲に子かまきりをり吹きて逃す 土屋幸代
>>〔8〕いつまでも死なぬ金魚と思ひしが 西村麒麟
>>〔9〕夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ  堀本裕樹

【2023年5月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔1〕遠き屋根に日のあたる春惜しみけり 久保田万太郎
>>〔2〕電車いままつしぐらなり桐の花 星野立子
>>〔3〕葉桜の頃の電車は突つ走る 波多野爽波
>>〔4〕薫風や今メンバー紹介のとこ 佐藤智子
>>〔5〕ハフハフと泳ぎだす蛭ぼく音痴 池禎章

【2023年4月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔1〕春風にこぼれて赤し歯磨粉  正岡子規
>>〔2〕菜の花や部屋一室のラジオ局 相子智恵
>>〔3〕生きのよき魚つめたし花蘇芳 津川絵理子
>>〔4〕遠足や眠る先生はじめて見る 斉藤志歩

【2023年4月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔6〕赤福の餡べつとりと山雪解 波多野爽波
>>〔7〕眼前にある花の句とその花と 田中裕明
>>〔8〕対岸の比良や比叡や麦青む 対中いずみ
>>〔9〕美しきものに火種と蝶の息 宇佐美魚目

【2023年3月の火曜日☆三倉十月のバックナンバー】

>>〔1〕窓眩し土を知らざるヒヤシンス 神野紗希
>>〔2〕家濡れて重たくなりぬ花辛夷  森賀まり
>>〔3〕菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ 金原まさ子
>>〔4〕不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ【←三倉十月さんの自選10句付】

【2023年3月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔1〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波
>>〔2〕砂浜の無数の笑窪鳥交る    鍵和田秞子
>>〔3〕大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波
>>〔4〕カードキー旅寝の春の灯をともす トオイダイスケ
>>〔5〕桜貝長き翼の海の星      波多野爽波

【2023年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔6〕立春の零下二十度の吐息   三品吏紀
>>〔7〕背広来る来るジンギスカンを食べに来る 橋本喜夫
>>〔8〕北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり 平川靖子
>>〔9〕地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島 櫂未知子

【2023年2月の水曜日☆楠本奇蹄のバックナンバー】

>>〔1〕うらみつらみつらつら椿柵の向う 山岸由佳
>>〔2〕忘れゆくはやさで淡雪が乾く   佐々木紺
>>〔3〕雪虫のそつとくらがりそつと口笛 中嶋憲武
>>〔4〕さくら餅たちまち人に戻りけり  渋川京子

【2023年1月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔1〕年迎ふ父に胆石できたまま   島崎寛永
>>〔2〕初燈明背にあかつきの雪の音 髙橋千草
>>〔3〕蝦夷に生まれ金木犀の香を知らず 青山酔鳴
>>〔4〕流氷が繋ぐ北方領土かな   大槻独舟
>>〔5〕湖をこつんとのこし山眠る 松王かをり

【2023年1月の水曜日☆岡田由季のバックナンバー】

>>〔1〕さしあたり坐つてゐるか鵆見て 飯島晴子
>>〔2〕潜り際毬と見えたり鳰     中田剛
>>〔3〕笹鳴きに覚めて朝とも日暮れとも 中村苑子
>>〔4〕血を分けし者の寝息と梟と   遠藤由樹子

【2022年11・12月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】

>>〔1〕氷上と氷中同じ木のたましひ 板倉ケンタ
>>〔2〕凍港や旧露の街はありとのみ 山口誓子
>>〔3〕境内のぬかるみ神の発ちしあと 八染藍子
>>〔4〕舌荒れてをり猟銃に油差す 小澤實
>>〔5〕義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳
>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
>>〔7〕胸の炎のボレロは雪をもて消さむ 文挾夫佐恵
>>〔8〕オルゴールめく牧舎にも聖夜の灯 鷹羽狩行
>>〔9〕去年今年詩累々とありにけり  竹下陶子

【2022年11・12月の水曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔1〕泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ
>>〔2〕牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等
>>〔3〕誕生日の切符も自動改札に飲まれる 岡田幸生
>>〔4〕雪が降る千人針をご存じか 堀之内千代
>>〔5〕トローチのすつと消えすつと冬の滝 中嶋憲武
>>〔6〕鱶のあらい皿を洗えば皿は海 谷さやん
>>〔7〕橇にゐる母のざらざらしてきたる 宮本佳世乃
>>〔8〕セーターを脱いだかたちがすでに負け 岡野泰輔
>>〔9〕動かない方も温められている   芳賀博子

【2022年10月の火曜日☆太田うさぎ(復活!)のバックナンバー】

>>〔92〕老僧の忘れかけたる茸の城 小林衹郊
>>〔93〕輝きてビラ秋空にまだ高し  西澤春雪
>>〔94〕懐石の芋の葉にのり衣被    平林春子
>>〔95〕ひよんの実や昨日と違ふ風を見て   高橋安芸

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔5〕運動会静かな廊下歩きをり  岡田由季
>>〔6〕後の月瑞穂の国の夜なりけり 村上鬼城
>>〔7〕秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
>>〔8〕逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ 池田澄子

【2022年9月の火曜日☆岡野泰輔のバックナンバー】

>>〔1〕帰るかな現金を白桃にして    原ゆき
>>〔2〕ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
>>〔3〕サフランもつて迅い太子についてゆく 飯島晴子
>>〔4〕琴墜ちてくる秋天をくらりくらり  金原まさ子

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔1〕九月来る鏡の中の無音の樹   津川絵理子
>>〔2〕雨月なり後部座席に人眠らせ    榮猿丸
>>〔3〕秋思かがやくストローを嚙みながら 小川楓子
>>〔4〕いちじくを食べた子供の匂ひとか  鴇田智哉

【2022年6月の火曜日☆杉原祐之のバックナンバー】

>>〔1〕仔馬にも少し荷を付け時鳥    橋本鶏二
>>〔2〕ほととぎす孝君零君ききたまへ  京極杞陽
>>〔3〕いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝
>>〔4〕雲の峰ぬつと東京駅の上     鈴木花蓑

【2022年6月の水曜日☆松野苑子のバックナンバー】

>>〔1〕でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子
>>〔2〕襖しめて空蟬を吹きくらすかな  飯島晴子
>>〔3〕螢とび疑ひぶかき親の箸     飯島晴子
>>〔4〕十薬の蕊高くわが荒野なり    飯島晴子
>>〔5〕丹田に力を入れて浮いて来い   飯島晴子

【2022年5月の火曜日☆沼尾將之のバックナンバー】

>>〔1〕田螺容れるほどに洗面器が古りし 加倉井秋を
>>〔2〕桐咲ける景色にいつも沼を感ず  加倉井秋を
>>〔3〕葉桜の夜へ手を出すための窓   加倉井秋を
>>〔4〕新綠を描くみどりをまぜてゐる  加倉井秋を
>>〔5〕美校生として征く額の花咲きぬ  加倉井秋を

【2022年5月の水曜日☆木田智美のバックナンバー】

>>〔1〕きりんの子かゞやく草を喰む五月  杉山久子
>>〔2〕甘き花呑みて緋鯉となりしかな   坊城俊樹
>>〔3〕ジェラートを売る青年の空腹よ   安里琉太
>>〔4〕いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希

【2022年4月の火曜日☆九堂夜想のバックナンバー】

>>〔1〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔2〕未生以前の石笛までも刎ねる    小野初江
>>〔3〕水鳥の和音に還る手毬唄      吉村毬子
>>〔4〕星老いる日の大蛤を生みぬ     三枝桂子

【2022年4月の水曜日☆大西朋のバックナンバー】

>>〔1〕大利根にほどけそめたる春の雲   安東次男
>>〔2〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔3〕田に人のゐるやすらぎに春の雲  宇佐美魚目
>>〔4〕鶯や米原の町濡れやすく     加藤喜代子

【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】

>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸   正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ  正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉      正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな     正岡子規
>>〔5〕おとつさんこんなに花がちつてるよ 正岡子規

【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】

>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる    野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
>>〔3〕春天の塔上翼なき人等      野見山朱鳥
>>〔4〕春星や言葉の棘はぬけがたし   野見山朱鳥
>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海    野見山朱鳥

【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】

>>〔1〕年玉受く何も握れぬ手でありしが  髙柳克弘
>>〔2〕復讐の馬乗りの僕嗤っていた    福田若之
>>〔3〕片蔭の死角から攻め落としけり   兒玉鈴音
>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな     畠山弘

【2022年2月の水曜日☆内村恭子のバックナンバー】

>>〔1〕琅玕や一月沼の横たはり      石田波郷
>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養    石田波郷
>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず  有馬朗人
>>〔4〕仕る手に笛もなし古雛      松本たかし

【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】

>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は   中原道夫
>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催      潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ      田口武

【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】

>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎     神野紗希

【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺    正岡子規
>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事   岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ
>>〔4〕共にゐてさみしき獣初しぐれ   中町とおと

【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】

>>〔1〕綿入が似合う淋しいけど似合う    大庭紫逢
>>〔2〕枯葉言ふ「最期とは軽いこの音さ」   林翔
>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より      藺草慶子
>>〔4〕みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何
>>〔5〕ともかくもくはへし煙草懐手    木下夕爾

【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】

>>〔1〕海くれて鴨のこゑほのかに白し      芭蕉
>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ    芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉      芭蕉
>>〔4〕埋火もきゆやなみだの烹る音      芭蕉
>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【前編】
>>〔5-2〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【後編】

【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】

>>〔1〕秋灯机の上の幾山河        吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
>>〔3〕後輩の女おでんに泣きじゃくる  加藤又三郎
>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す    寺田京子

【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】

>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊     杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ  後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す   仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒     山口青邨

【2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】

>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり   夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな   永田耕衣


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