ハイクノミカタ

たが魂ぞほたるともならで秋の風 横井也有【季語=秋の風(秋)】


たが魂ぞほたるともならで秋の風

横井也有


「読む」という行為の、今日的使用に関する違和感として、「つながる」という言い回しが幸福詐欺の様相を呈するほど安売りされているといった状況がある。曰く「作者と読者とがつながる」、「作品と読者とがつながる」、「作品を通じて〇〇とつながる」、うんぬん。こうした言い回しにはいったいどんな効用があるのだろう?

そもそも「つながる」ことはそんなに手軽なのだろうか。読み手と書き手の共通基盤を「つながる」という発想以外のやり方で築く者はいないのだろうか。これはいちゃもんではない。私自身がものを読んでいて何かとつながったと思うことがないため、純粋に不思議なのだ。

「読む」ときにまずもってわたしが実感すること、それは果てしなさである。追いかけても追いかけても作者に、あるいは作品に手が届かない、といった無常の感覚である。私にとって作者ならびに作品とは、決して抱き合うことのない、いつもこちらに背中を向けている存在のことだ。

なにかの一節が頭をよぎるたび、「ああ。これを書いた人はもういないんだ!」と驚愕する日々。「過去の作者や作品も、さらに昔を生きた作者や作品を追いかけていたんじゃないかしら?」と想像する日々。いまは、それらの背中をわたしが追いかける番らしい。過去へ向かってわたしは駆け出す。するとわたしはまた一歩未来へ近づく。わたしたちがいつか巡り会うだろう場所、その共通基盤は死だ。

たが魂ぞほたるともならで秋の風  横井也有

ときおり、わたしの追いかけているものが遥か彼方ではなく、肌を撫でるほどそばに感じられる瞬間がある。掲句は、蛍として完結することも聖化することもなく、死んでなお秋風となってさまよう魂が、わたしには「作者」や「作品」の化身のように思われた。もっとも肌を撫でるほど近くにあっても、風は人と「つながる」ことはなく、目の前を一瞬で吹き抜けてしまうのだけれど。

引用は横井也有『鶉衣』より。

(小津夜景)


【執筆者プロフィール】
小津夜景(おづ・やけい)
1973年生まれ。俳人。著書に句集『フラワーズ・カンフー』(ふらんす堂、2016年)、翻訳と随筆『カモメの日の読書 漢詩と暮らす』(東京四季出版、2018年)、近刊に『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』(素粒社、2020年)。ブログ「小津夜景日記」https://yakeiozu.blogspot.com

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 萩にふり芒にそそぐ雨とこそ 久保田万太郎【季語=萩・芒(秋)】
  2. 利根川のふるきみなとの蓮かな 水原秋櫻子【季語=蓮(夏)】
  3. ひそひそと四万六千日の猫 菊田一平【季語=四万六千日(夏)】
  4. 桜貝長き翼の海の星 波多野爽波【季語=桜貝(春)】 
  5. 葛の花むかしの恋は山河越え 鷹羽狩行【季語=葛の花(秋)】
  6. 一匹の芋虫にぎやかにすすむ 月野ぽぽな【季語=芋虫(秋)】
  7. クッキーと林檎が好きでデザイナー 千原草之【季語=林檎(秋)】
  8. 海松かゝるつなみのあとの木立かな  正岡子規【季語=海松(春)】…

おすすめ記事

  1. 神保町に銀漢亭があったころ【第38回】柚口満
  2. 聴診に一生の秋を聴きにけり 橋本喜夫【季語=秋(秋)】
  3. 【連載】加島正浩「震災俳句を読み直す」第7回
  4. 死なさじと肩つかまるゝ氷の下 寺田京子【季語=氷(冬)】
  5. 季すぎし西瓜を音もなく食へり 能村登四郎【季語=西瓜(秋)】
  6. 【短期連載】茶道と俳句 井上泰至【第8回】
  7. スタールビー海溝を曳く琴騒の 八木三日女
  8. 利根川のふるきみなとの蓮かな 水原秋櫻子【季語=蓮(夏)】
  9. 非常口に緑の男いつも逃げ 田川飛旅子【季語=緑(夏)?】
  10. クリスマス近づく部屋や日の溢れ 深見けん二【季語=クリスマス(冬)】

Pickup記事

  1. 止まり木に鳥の一日ヒヤシンス  津川絵理子【季語=ヒヤシンス(春)】
  2. 【冬の季語】冬麗
  3. あまり寒く笑へば妻もわらふなり 石川桂郎【季語=寒し(冬)】
  4. 後輩のデートに出会ふ四月馬鹿 杉原祐之【季語=四月馬鹿(春)】
  5. 春ショール靡きやすくて恋ごこち 檜紀代【季語=春ショール(春)】
  6. 【春の季語】海苔
  7. 【#41】真夏の個人的な過ごし方
  8. 刈草高く積み軍艦が見えなくなる 鴻巣又四郎【季語=草刈(夏)】
  9. 神保町に銀漢亭があったころ【第17回】太田うさぎ
  10. 「パリ子育て俳句さんぽ」【12月25日配信分】
PAGE TOP