真っ白な番の蝶よ秋草に 木村丹乙【季語=秋草(秋)】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

真っ白なつがいの蝶よ秋草に

木村丹乙


〈蝶〉は春の季語であるが、この句の季節は、〈秋草〉により秋とわかる。実際に〈真っ白なつがいの蝶〉と〈秋草〉が作者の心を捉え、作者はそれを書き留めたのだろう。

ふたつの蝶の白い戯れが〈秋草〉に映え、〈秋草に〉の後には、秋の空気感と共に、優しい余韻が漂う。

ニューヨークと日本はともに北半球に位置し、その緯度もほぼ同じなので、同じ頃に同じ季節を迎える。一年を通して、日本よりも湿度は低く、梅雨が無いため明るく心地よい初夏と並んで、初秋から仲秋にかけての陽気もまた格別だ。

殊に、日々透き通ってゆく空のもと、秋の草花が美しい。

(マンハッタンの91ストリート•ガーデンにて2020年10月に撮影)

作者、木村丹乙たんいつ氏の本名は、木村令二。1926年に東京に生まれ、1957年に渡米して以来、画家として活躍する傍ら、1968年1月にニューヨーク俳句同人誌「方舟」を創刊した。その編集を務めていたのは、同じく東京生まれで、1959年に木村氏と結婚した10歳年下の津貴子さん。

筆者は「方舟」に、2009年から2014年まで参加させていただいた。発行所となっていた、マンハッタン、ソーホー地区の同人のお宅での、月に一度の句会が懐かしい。

筆者の記憶の中の木村氏は、豊かな白髪と口髭を湛え、よく笑い朗らかなお人柄。絵画はもちろん音楽他にも造詣が深く、芸術に話題が及ぶと熱く語る。そして、いつもその横には、静かに優しく微笑む白髪の津貴子さん。

2015年6月、木村氏が病床に伏されたため「方舟」は休刊となる。翌年の8月、津貴子さんは急逝された。

同年9月には、ニューヨークの日系人コミュニティーセンターにて「偲ぶ会」が行われ、故人を慕う多くの人々が集まった。この会にて筆者は木村氏と久しぶりにお会いし、お悔やみを申し上げた。今はご家族のもとでご静養をされているという。

生前、津貴子さんが編集中であった、2015年9月号が、有志の同人により翌年の10月に発行された。木村代表の同人誌「方舟」の最終号である。掲句は同誌から引いた。

津貴子さんは、つき子、の俳号で、同人と共に句会を楽しまれていたが、「編集に徹しているんですよ」と、誌上には作品を発表されなかった。

最終号に組まれた特集「津貴子さんを偲ぶ」には、つき子さんの俳句が載っている。

金色に子ら包まれて秋落暉  つき子

筆者には、〈真っ白なつがいの蝶〉が、長きにわたって、ニューヨークに俳句の園を育んでこられた、木村ご夫妻のように見えてならない。

俳句同人誌「方舟」/Hakobune, the New York Haiku-kai 2015年9月号/2016年10月発行 所載。

*文中の、木村氏の生年と渡米年は
https://www.moma.org/artists/62167
に、その他の「方舟」ならびに木村夫妻に関する西暦は、所載誌による。

(月野ぽぽな)


追記(2/17/21)
木村丹乙氏が、去る1月21日に94歳にてご永眠されました。心よりご冥福をお祈りいたします。


【執筆者プロフィール】
月野ぽぽな(つきの・ぽぽな)
1965年長野県生まれ。1992年より米国ニューヨーク市在住。2004年金子兜太主宰「海程」入会、2008年から終刊まで同人。2018年「海原」創刊同人。「豆の木」「青い地球」「ふらっと」同人。星の島句会代表。現代俳句協会会員。2010年第28回現代俳句新人賞、2017年第63回角川俳句賞受賞。
月野ぽぽなフェイスブック:http://www.facebook.com/PoponaTsukino

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

サイト内検索はこちら↓

アーカイブ

サイト内検索はこちら↓

ページ上部へ戻る