
空港を走り八十八夜かな
松本てふこ
(句集『汗の果実』)
「な・つ・も・ち〜かづくは〜ちじゅうは・ち・や」と、思わず口ずさんでしまう。
「八十八夜」は晩春の季語。立春から数えて八十八日め、立夏の直前である。
空港を走り八十八夜かな
ゴールデンウィークの最中、旅行中の一幕だろうか。飛行機の搭乗時刻が迫り、空港内を走っている。その切迫感と、「八十八夜かな」というゆったりとした後半との対比が、印象に残る。
ここまでは、比較的順当な読みであろう。
しかし、私の中に立ちあがった景色は、それとはだいぶ違っていた。
「八十八夜」ということばから浮かんだのは、なぜか〈月夜〉だった。それも1980年代の少女漫画――萩岩睦美が描くような〈満月の夜〉である。
そして、萩岩睦美タッチで描かれた松本てふこさんが、満月を背にして、夜空を駆け抜けている姿が見えた。その光景は、映画『E.T.』のワンシーンのようでもあった。
松本てふこさんとは、これまでに数回、吟行句会をご一緒した。夜空を軽やかに駆けるひとの姿が、不思議と、私の知るてふこさんに重なったのである。
空港は? 季語の本意は? と言われれば、返す言葉もない。なぜそう読んだのか、私にも説明はできない。ただ、その景色が〈見えた〉のだ。
思いもよらないイメージが立ちあがる。そんな句は楽しい。
ことばが私にふれたとき、私のどこかが反応する。それが楽しい。
掲句は、ふとした折に思い出す一句になっている。
(いなば也)
【執筆者プロフィール】
いなば也(いなば・なり)
短詩、俳句
楽園俳句会会員
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