ハイクノミカタ

デパートの旗ひらひらと火事の雲 横山白虹【季語=火事(冬)】


デパートの旗ひらひらと火事の雲

横山白虹

新宿や銀座、日本橋などのデパートが建ち並ぶ街角が思われる。大通りを何台もの消防車が鐘を鳴らして走り抜け、喧騒が喧騒を呼んで騒々しさが肥大して行く。都会の大火事の光景である。巨大で荘厳な造りのデパートそのものとは対照的に、デパートの旗は鮮やかに垂れ、ときに吹かれる。火事の規模によっては気流の激しい変化があるかもしれない。

「デパートの旗ひらひらと/火事の雲」と切れるのだろうが、「ひらひらと」というオノマトペは「火事の雲」にもいくらか印象として引き継がれる。デパートの旗を見上げると、その向こうの火事の雲も目に入るのだろう。火事の明るさに照らされる雲の腹が妖しい。

安里琉太



【安里琉太さんの第一句集『式日』は絶賛発売中↓】


【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



安里琉太のバックナンバー】

>>〔58〕個室のやうな明るさの冬来る  廣瀬直人
>>〔57〕ほこりつぽい叙情とか灯を積む彼方の街 金子兜太
>>〔56〕一瞬で耳かきを吸う掃除機を見てしまってからの長い夜 公木正
>>〔55〕底紅や黙つてあがる母の家    千葉皓史
>>〔54〕仲秋の金蠅にしてパッと散る  波多野爽波
>>〔53〕つきの光に花梨が青く垂れてゐる。ずるいなあ先に時が満ちてて 岡井隆
>>〔52〕ひるすぎの小屋を壊せばみなすすき 安井浩司
>>〔51〕ある年の子規忌の雨に虚子が立つ  岸本尚毅
>>〔50〕ときじくのいかづち鳴つて冷やかに 岸本尚毅
>>〔49〕季すぎし西瓜を音もなく食へり 能村登四郎
>>〔48〕みづうみに鰲を釣るゆめ秋昼寝   森澄雄
>>〔47〕八月は常なる月ぞ耐へしのべ   八田木枯
>>〔46〕まはし見る岐阜提灯の山と川   岸本尚毅
>>〔45〕八月の灼ける巌を見上ぐれば絶倫といふ明るき寂寥  前登志夫
>>〔44〕夏山に勅封の大扉あり     宇佐美魚目
>>〔43〕からたちの花のほそみち金魚売  後藤夜半
>>〔42〕雲の中瀧かゞやきて音もなし   山口青邨
>>〔41〕又の名のゆうれい草と遊びけり  後藤夜半
>>〔40〕くらき瀧茅の輪の奥に落ちにけり 田中裕明
>>〔39〕水遊とはだんだんに濡れること 後藤比奈夫
>>〔38〕ぐじやぐじやのおじやなんどを朝餉とし何で残生が美しからう 齋藤史
>>〔37〕無方無時無距離砂漠の夜が明けて 津田清子
>>〔36〕麦よ死は黄一色と思いこむ    宇多喜代子
>>〔35〕馬の背中は喪失的にうつくしい作文だった。 石松佳
>>〔34〕黒き魚ひそみをりとふこの井戸のつめたき水を夏は汲むかも 高野公彦
>>〔33〕露地裏を夜汽車と思ふ金魚かな  攝津幸彦
>>〔32〕プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ 石田波郷
>>〔31〕いけにえにフリルがあって恥ずかしい 暮田真名
>>〔30〕切腹をしたことがない腹を撫で   土橋螢
>>〔29〕蟲鳥のくるしき春を不爲     高橋睦郎
>>〔28〕春山もこめて温泉の国造り    高濱虚子
>>〔27〕毛皮はぐ日中桜満開に      佐藤鬼房
>>〔26〕あえかなる薔薇撰りをれば春の雷 石田波郷
>>〔25〕鉛筆一本田川に流れ春休み     森澄雄
>>〔24〕ハナニアラシノタトヘモアルゾ  「サヨナラ」ダケガ人生ダ 井伏鱒
>>〔23〕厨房に貝があるくよ雛祭    秋元不死男
>>〔22〕橘や蒼きうるふの二月尽     三橋敏雄
>>〔21〕詩に瘦せて二月渚をゆくはわたし 三橋鷹女

>>〔20〕やがてわが真中を通る雪解川  正木ゆう子
>>〔19〕春を待つこころに鳥がゐて動く  八田木枯
>>〔18〕あっ、ビデオになってた、って君の声の短い動画だ、海の 千種創一
>>〔17〕しんしんと寒さがたのし歩みゆく 星野立子
>>〔16〕かなしきかな性病院の煙出   鈴木六林男
>>〔15〕こういうひとも長渕剛を聴くのかと勉強になるすごい音漏れ 斉藤斎藤
>>〔14〕初夢にドームがありぬあとは忘れ 加倉井秋を
>>〔13〕氷上の暮色ひしめく風の中    廣瀬直人
>>〔12〕旗のごとなびく冬日をふと見たり 高浜虚子
>>〔11〕休みの日晝まで霜を見てゐたり  永田耕衣

>>〔10〕目薬の看板の目はどちらの目 古今亭志ん生
>>〔9〕こぼれたるミルクをしんとぬぐふとき天上天下花野なるべし 水原紫苑
>>〔8〕短日のかかるところにふとをりて  清崎敏郎
>>〔7〕GAFA世界わがバ美肉のウマ逃げよ  関悦史
>>〔6〕生きるの大好き冬のはじめが春に似て 池田澄子
>>〔5〕青年鹿を愛せり嵐の斜面にて  金子兜太
>>〔4〕ここまでは来たよとモアイ置いていく 大川博幸
>>〔3〕昼ごろより時の感じ既に無くなりて樹立のなかに歩みをとどむ 佐藤佐太郎
>>〔2〕魚卵たべ九月些か悔いありぬ  八田木枯
>>〔1〕松風や俎に置く落霜紅      森澄雄


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 古池や芭蕉飛こむ水の音 仙厓【季語=芭蕉(秋)】
  2. 卒業歌ぴたりと止みて後は風 岩田由美【季語=卒業歌(春)】
  3. 胡桃割る胡桃の中に使はぬ部屋 鷹羽狩行【季語=胡桃(秋)】
  4. イエスほど痩せてはをらず薬喰 亀田虎童子【季語=薬喰(冬)】
  5. 水を飲む風鈴ふたつみつつ鳴る 今井肖子【季語=風鈴(夏)】
  6. 而して蕃茄の酸味口にあり 嶋田青峰【季語=トマト(夏)】
  7. ロボットの手を拭いてやる秋灯下 杉山久子【季語=秋灯下(秋)】
  8. 日本の元気なころの水着かな 安里琉太【季語=水着(夏)】

おすすめ記事

  1. 軽き咳して夏葱の刻を過ぐ 飯島晴子【季語=夏葱(夏)】
  2. 【連載】歳時記のトリセツ(5)/対中いずみさん
  3. 野崎海芋の「たべる歳時記」 七草粥
  4. 「パリ子育て俳句さんぽ」【8月20日配信分】
  5. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第17回】丹波市(旧氷上郡東芦田)と細見綾子
  6. 春の雪指の炎ゆるを誰に告げむ 河野多希女【季語=春の雪(春)】
  7. 生前の長湯の母を待つ暮春 三橋敏雄【季語=暮春(春)】
  8. 五つずつ配れば四つ余る梨 箱森裕美【季語=梨(秋)】
  9. 白鳥の花の身又の日はありや 成田千空【季語=白鳥(冬)】
  10. 紐の束を括るも紐や蚯蚓鳴く 澤好摩【季語=蚯蚓鳴く(秋)】

Pickup記事

  1. 【書評】小池康生 第2句集『奎星』(飯塚書店、2020年)
  2. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第18回】塩竈と佐藤鬼房
  3. 初花や竹の奥より朝日かげ    川端茅舎【季語=初花(春)】
  4. 倉田有希の「写真と俳句チャレンジ」【第4回】
  5. 大空へ解き放たれし燕かな 前北かおる【季語=燕(春)】
  6. 神保町に銀漢亭があったころ【第4回】菊田一平
  7. 【新連載】もしあの俳人が歌人だったら Session#1
  8. 【秋の季語】立秋
  9. 受賞者の一人マスクを外さざる 鶴岡加苗【季語=マスク(冬)】
  10. 水喧嘩恋のもつれも加はりて 相島虚吼【季語=水喧嘩(夏)】
PAGE TOP