ハイクノミカタ

夕づつにまつ毛澄みゆく冬よ来よ 千代田葛彦【季語=冬隣(秋)】


夕づつにまつ毛澄みゆく冬よ来よ

千代田葛彦


「夕づつ」は漢字で書くと「夕星」。

夕方になると西の空にいち早く点る大きな星で、宵の明星とも言い、金星のことを指す。

金星の最大光度は一等星の数十倍もあるのだそうだ。地球のすぐ近くにある惑星とはいえ、それだけの明るさを持つがゆえに、あれほど大きく輝いて見えるのだろう。

季節は今、秋から冬へ移り変わろうとしている。

夕星を見上げる眼差しは、すでに冬の気配をとらえて覚醒してゆくかのようだ。

「冬よ来よ」――。

冬を待つ心とは、やはり強き心であろう。

夕星、まつ毛、冬。

句に描かれた清澄な空気が、どことなくメルヘンの世界をも感じさせてくれる。

ふと、藤代清治の生み出す影絵の少女が目に浮かんだ。

(日下野由季)


【執筆者プロフィール】
日下野由季(ひがの・ゆき)
1977年東京生まれ。「海」編集長。第17回山本健吉評論賞、第42回俳人協会新人賞(第二句集『馥郁』)受賞。著書に句集『祈りの天』『4週間でつくるはじめてのやさしい俳句練習帖』(監修)、『春夏秋冬を楽しむ俳句歳時記』(監修)。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 短日のかかるところにふとをりて 清崎敏郎【季語=短日(冬)】
  2. 遅れ着く小さな駅や天の川 髙田正子【季語=天の川(秋)】
  3. 波冴ゆる流木立たん立たんとす 山口草堂【季語=冴ゆ(冬)】
  4. 世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし【季語=朝寝(春)】…
  5. 夕空や日のあたりたる凧一つ 高野素十【季語=凧(春)】
  6. てつぺんにまたすくひ足す落葉焚 藺草慶子【季語=落葉焚(冬)】
  7. クリームパンにクリームぎつしり雲の峰 江渡華子【季語=雲の峰(夏…
  8. 秋天に雲一つなき仮病の日 澤田和弥【季語=秋天(秋)】

おすすめ記事

  1. 日本の元気なころの水着かな 安里琉太【季語=水着(夏)】
  2. 潮の香や野分のあとの浜畠 齋藤俳小星【季語=野分(秋)】
  3. 【冬の季語】白息
  4. 「野崎海芋のたべる歳時記」卵のココット
  5. 神保町に銀漢亭があったころ【第84回】飯田冬眞
  6. 餅花のさきの折鶴ふと廻る 篠原梵【季語=餅花(新年)】
  7. 木枯やたけにかくれてしづまりぬ 芭蕉【季語=木枯(冬)】
  8. 許したい許したい真っ青な毛糸 神野紗希【季語=毛糸(冬)】
  9. 【秋の季語】秋刀魚
  10. 【冬の季語】冬眠

Pickup記事

  1. 【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2022年12月分】
  2. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第23回】木曾と宇佐美魚目
  3. やゝ寒し閏遅れの今日の月 松藤夏山【季語=今日の月 (秋)】
  4. 【冬の季語】冬木立
  5. 「野崎海芋のたべる歳時記」蒸し鶏の胡麻酢和え
  6. 【秋の季語】野菊
  7. 山頂に流星触れたのだろうか 清家由香里【季語=流星(秋)】
  8. どちらかと言へば麦茶の有難く  稲畑汀子【季語=麦茶(夏)】
  9. 【連載】もしあの俳人が歌人だったら Session#10
  10. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2023年8月分】
PAGE TOP