紅葉の色きはまりて風を絶つ 中川宋淵【季語=紅葉(秋)】


紅葉の色きはまりて風を絶つ 

中川宋淵


この句、何かの文献中で初めて読んだのだったと思うのだが、そもそも句の出典がわからない。死後に編まれた「十句」、「命篇」ともに掲載がなく、生前の句集は詩文句集「詩龕」のみであるようだから、雑誌等に載っただけのものでなければ出典はこれなのだろうが、残念ながらまだ現物に当たれていない。自選十句とその自解などで編まれた「十句」に掲載がないということは、作者は自分の代表作とは思っていない句なのかもしれないが、その辺りの情報もさっぱりわからない。

初読、「紅葉の色」というまどろっこしい上五から中七の二字にひっかかったが、あらためて中七下五「色きはまりて風を絶つ」を読むと、紅葉が風を絶つというのがなにやら刀剣を振るうごとき明快な措辞であり、この穏やかならざる詠みぶりが強く印象に残った。そして、この作者はいったい何者だろうかとも思った。これはまた、「風きはまりて色を絶つ」でもあったのではないか。いったい作者は何者だろうと思って検索してみると、東大在学中に突如出家得度して仏門に入った人物であるとでてきた。そういえば駒場キャンパスには禅道場があって哲学者の野矢茂樹が座禅組んでいるのを何かのインタビューで見たな、と思い検索して見ると、やはりつながりがあって、東大の座禅部はこの宋淵が始めたもののようである。改めて見てみれば、「十句」「命編」の編者は「東京大学陵禅会後援会」としっかり書いてあった。どうやら禅僧としてさまざまな活躍をした高名な人物であったようだが、不勉強ながらこの句に出会うまで宋淵のことをまったく知らなかった。俳人としては蛇笏門。「十句」と「命編」を読んだ限りにおいて、俳句単独というより詩句文が連関した作品世界を構築しているように思われる。それを禅的といえばそうなのかもしれない。世の中には「〇禅一如」という、わかったようなわからないような禅とそれ以外の丸め方があって、この作家もそのような語られ方をすることがあるようだ。禅を知らぬ私にはよくわからぬことだが、もしかすると掲句も、禅者が世界の一瞬をどう眼差しているのかを垣間見せてくれているのかもしれない。

橋本直


【執筆者プロフィール】
橋本直(はしもと・すなお)
1967年愛媛県生。「豈」同人。現代俳句協会会員。現在、「楓」(邑久光明園)俳句欄選者。神奈川大学高校生俳句大賞予選選者。合同句集『水の星』(2011年)、『鬼』(2016年)いずれも私家版。第一句集『符籙』(左右社、2020年)。共著『諸注評釈 新芭蕉俳句大成』(明治書院、2014年)、『新興俳句アンソロジー 何が新しかったのか』(ふらんす堂、2018年)他。


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