ハイクノミカタ

ときじくのいかづち鳴つて冷やかに 岸本尚毅【季語=冷やか(秋)】


ときじくのいかづち鳴つて冷やかに

岸本尚毅


「ときじく」は、「時期に関係ないさま。いつでも」の意。「冷やか」が仲秋で季感としては主となろう。前回の「季すぎ」に続いて季をずらした句を取り上げたい。

季語を本来の季の分類から敢えてずらすことによって、物の性質が立ってくるということがある。この句も晩秋の空気感の中で、殊更「いかづち」の性質が立ってくる。

季重なりの場合にも似たように、物が立ってくることがあり、たとえば、岸本尚毅の『健啖』や『感謝』村上鞆彦の『遅日の岸』などに、その方法の面白さを見ることができる。もう少し試したい方法である。

安里琉太



【岸本尚毅さんの『雲は友』は絶賛発売中↓】


【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



安里琉太のバックナンバー】

>>〔49〕季すぎし西瓜を音もなく食へり 能村登四郎
>>〔48〕みづうみに鰲を釣るゆめ秋昼寝   森澄雄
>>〔47〕八月は常なる月ぞ耐へしのべ   八田木枯
>>〔46〕まはし見る岐阜提灯の山と川   岸本尚毅
>>〔45〕八月の灼ける巌を見上ぐれば絶倫といふ明るき寂寥  前登志夫
>>〔44〕夏山に勅封の大扉あり     宇佐美魚目
>>〔43〕からたちの花のほそみち金魚売  後藤夜半
>>〔42〕雲の中瀧かゞやきて音もなし   山口青邨
>>〔41〕又の名のゆうれい草と遊びけり  後藤夜半
>>〔40〕くらき瀧茅の輪の奥に落ちにけり 田中裕明
>>〔39〕水遊とはだんだんに濡れること 後藤比奈夫
>>〔38〕ぐじやぐじやのおじやなんどを朝餉とし何で残生が美しからう 齋藤史
>>〔37〕無方無時無距離砂漠の夜が明けて 津田清子
>>〔36〕麦よ死は黄一色と思いこむ    宇多喜代子
>>〔35〕馬の背中は喪失的にうつくしい作文だった。 石松佳
>>〔34〕黒き魚ひそみをりとふこの井戸のつめたき水を夏は汲むかも 高野公彦
>>〔33〕露地裏を夜汽車と思ふ金魚かな  攝津幸彦
>>〔32〕プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ 石田波郷
>>〔31〕いけにえにフリルがあって恥ずかしい 暮田真名
>>〔30〕切腹をしたことがない腹を撫で   土橋螢
>>〔29〕蟲鳥のくるしき春を不爲     高橋睦郎
>>〔28〕春山もこめて温泉の国造り    高濱虚子
>>〔27〕毛皮はぐ日中桜満開に      佐藤鬼房
>>〔26〕あえかなる薔薇撰りをれば春の雷 石田波郷
>>〔25〕鉛筆一本田川に流れ春休み     森澄雄
>>〔24〕ハナニアラシノタトヘモアルゾ  「サヨナラ」ダケガ人生ダ 井伏鱒
>>〔23〕厨房に貝があるくよ雛祭    秋元不死男
>>〔22〕橘や蒼きうるふの二月尽     三橋敏雄
>>〔21〕詩に瘦せて二月渚をゆくはわたし 三橋鷹女

>>〔20〕やがてわが真中を通る雪解川  正木ゆう子
>>〔19〕春を待つこころに鳥がゐて動く  八田木枯
>>〔18〕あっ、ビデオになってた、って君の声の短い動画だ、海の 千種創一
>>〔17〕しんしんと寒さがたのし歩みゆく 星野立子
>>〔16〕かなしきかな性病院の煙出   鈴木六林男
>>〔15〕こういうひとも長渕剛を聴くのかと勉強になるすごい音漏れ 斉藤斎藤
>>〔14〕初夢にドームがありぬあとは忘れ 加倉井秋を
>>〔13〕氷上の暮色ひしめく風の中    廣瀬直人
>>〔12〕旗のごとなびく冬日をふと見たり 高浜虚子
>>〔11〕休みの日晝まで霜を見てゐたり  永田耕衣

>>〔10〕目薬の看板の目はどちらの目 古今亭志ん生
>>〔9〕こぼれたるミルクをしんとぬぐふとき天上天下花野なるべし 水原紫苑
>>〔8〕短日のかかるところにふとをりて  清崎敏郎
>>〔7〕GAFA世界わがバ美肉のウマ逃げよ  関悦史
>>〔6〕生きるの大好き冬のはじめが春に似て 池田澄子
>>〔5〕青年鹿を愛せり嵐の斜面にて  金子兜太
>>〔4〕ここまでは来たよとモアイ置いていく 大川博幸
>>〔3〕昼ごろより時の感じ既に無くなりて樹立のなかに歩みをとどむ 佐藤佐太郎
>>〔2〕魚卵たべ九月些か悔いありぬ  八田木枯
>>〔1〕松風や俎に置く落霜紅      森澄雄


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. ロボットの手を拭いてやる秋灯下 杉山久子【季語=秋灯下(秋)】
  2. ワイシャツに付けり蝗の分泌液 茨木和生【季語=蝗(秋)】
  3. さくら貝黙うつくしく恋しあふ 仙田洋子【季語=さくら貝(春)】
  4. 卒業の歌コピー機を掠めたる 宮本佳世乃【季語=卒業(春)】
  5. 郭公や何処までゆかば人に逢はむ 臼田亜浪【季語=郭公(夏)】
  6. 三角形の 黒の物体の 裏側の雨 富沢赤黄男
  7. 死なさじと肩つかまるゝ氷の下 寺田京子【季語=氷(冬)】
  8. 利根川のふるきみなとの蓮かな 水原秋櫻子【季語=蓮(夏)】

おすすめ記事

  1. 筍の光放つてむかれけり 渡辺水巴【季語=筍(夏)】
  2. 扇子低く使ひぬ夫に女秘書 藤田直子【季語=扇子(夏)】
  3. でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子【季語=でで虫(夏)】
  4. 【#19】子猫たちのいる場所
  5. 【新年の季語】田遊
  6. 虹の後さづけられたる旅へ発つ 中村草田男【季語=虹(夏)】
  7. 春の夢魚からもらふ首飾り 井上たま子【季語=春の夢(春)】
  8. 初夢のあとアボカドの種まんまる 神野紗希【季語=初夢(新年)】
  9. 目薬に涼しく秋を知る日かな 内藤鳴雪【季語=秋(秋)】
  10. 【夏の季語】蚊/藪蚊 縞蚊 蚊柱

Pickup記事

  1. 【冬の季語】寒夕焼
  2. 迷宮へ靴取りにゆくえれめのぴー 中嶋憲武
  3. 足跡が足跡を踏む雪野かな 鈴木牛後【季語=雪野(冬)】 
  4. 底冷えを閉じ込めてある飴細工 仲田陽子【季語=底冷(冬)】
  5. 【特別寄稿】これまで、これから ーいわき復興支援の10年ー山崎祐子
  6. 【冬の季語】鬼やらう
  7. 乾草は愚かに揺るる恋か狐か 中村苑子【季語=乾草(夏)】
  8. 不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ【季語=あたたか(春)】 
  9. ほほゑみに肖てはるかなれ霜月の火事の中なるピアノ一臺 塚本邦雄
  10. 晴れ曇りおほよそ曇りつつじ燃ゆ 篠田悌二郎【季語=躑躅(春)】
PAGE TOP