ハイクノミカタ

季すぎし西瓜を音もなく食へり 能村登四郎【季語=西瓜(秋)】

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(とき)すぎし西瓜を音もなく食へり

能村登四郎


夏と言えば西瓜や花火というのが、世間一般のイメージであろうが、いずれも歳時記上では秋の季語に分類される。「西瓜」が秋とされ、しかしそれが実際の季感からかけ離れているという感覚は、存外古くからの感覚のようである。

この句の「季すぎし西瓜」は、盆も終わってしばらく経った、九月十月の西瓜のように思う。変に採れてしまった人から譲り受けたのか、あるいはなんだか不意に食べたくなって旬を過ぎていると知りつつも買ったのか、ともかくそういう、身も赤というよりは朱色がかって汁気の引いた美味しくなさそうな、そんな西瓜を口にしている。

「音もなく」というのは、俳句に使われやすく少し便利な措辞で警戒してしまうが、この句の「季すぎし西瓜」に対しては的確な把握だと思う。水分が失せて味も半端な、それで食感も弱い、そういう「季すぎし西瓜」の特徴がよく出ている形容と思う。「季すぎ」と言いつつも季感がよく現れている。

「音もなく」をどう読むかというのは少し迷う。音を立てて齧り付くような勢いの良い旬の西瓜の食べ方と比して秋わびしく食べている、とか、それほど食べたくないものを食べている気乗りしない心持ちが出ている、とか、そういうふうに読む向きもあろうが、ひとまずは西瓜の食感の素直な形容ととった方が「季すぎし西瓜」の効きも良いし、丈が高い句になるのではないか。そういう物の手触りのあとに、どのみちそういう心持ちの想像はついてくるように思う。

安里琉太



【どーん!『能村登四郎全句集』(2010年)↓】


【執筆者プロフィール】
安里琉太(あさと・りゅうた)
1994年沖縄県生まれ。「銀化」「群青」「」同人。句集に『式日』(左右社・2020年)。 同書により、第44回俳人協会新人賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



安里琉太のバックナンバー】

>>〔48〕みづうみに鰲を釣るゆめ秋昼寝   森澄雄
>>〔47〕八月は常なる月ぞ耐へしのべ   八田木枯
>>〔46〕まはし見る岐阜提灯の山と川   岸本尚毅
>>〔45〕八月の灼ける巌を見上ぐれば絶倫といふ明るき寂寥  前登志夫
>>〔44〕夏山に勅封の大扉あり     宇佐美魚目
>>〔43〕からたちの花のほそみち金魚売  後藤夜半
>>〔42〕雲の中瀧かゞやきて音もなし   山口青邨
>>〔41〕又の名のゆうれい草と遊びけり  後藤夜半
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>>〔39〕水遊とはだんだんに濡れること 後藤比奈夫
>>〔38〕ぐじやぐじやのおじやなんどを朝餉とし何で残生が美しからう 齋藤史
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>>〔36〕麦よ死は黄一色と思いこむ    宇多喜代子
>>〔35〕馬の背中は喪失的にうつくしい作文だった。 石松佳
>>〔34〕黒き魚ひそみをりとふこの井戸のつめたき水を夏は汲むかも 高野公彦
>>〔33〕露地裏を夜汽車と思ふ金魚かな  攝津幸彦
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>>〔31〕いけにえにフリルがあって恥ずかしい 暮田真名
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>>〔29〕蟲鳥のくるしき春を不爲     高橋睦郎
>>〔28〕春山もこめて温泉の国造り    高濱虚子
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>>〔25〕鉛筆一本田川に流れ春休み     森澄雄
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>>〔18〕あっ、ビデオになってた、って君の声の短い動画だ、海の 千種創一
>>〔17〕しんしんと寒さがたのし歩みゆく 星野立子
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>>〔14〕初夢にドームがありぬあとは忘れ 加倉井秋を
>>〔13〕氷上の暮色ひしめく風の中    廣瀬直人
>>〔12〕旗のごとなびく冬日をふと見たり 高浜虚子
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>>〔10〕目薬の看板の目はどちらの目 古今亭志ん生
>>〔9〕こぼれたるミルクをしんとぬぐふとき天上天下花野なるべし 水原紫苑
>>〔8〕短日のかかるところにふとをりて  清崎敏郎
>>〔7〕GAFA世界わがバ美肉のウマ逃げよ  関悦史
>>〔6〕生きるの大好き冬のはじめが春に似て 池田澄子
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>>〔4〕ここまでは来たよとモアイ置いていく 大川博幸
>>〔3〕昼ごろより時の感じ既に無くなりて樹立のなかに歩みをとどむ 佐藤佐太郎
>>〔2〕魚卵たべ九月些か悔いありぬ  八田木枯
>>〔1〕松風や俎に置く落霜紅      森澄雄


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