ハイクノミカタ

「我が毒」ひとが薄めて名薬梅雨永し 中村草田男【季語=梅雨(夏)】


「我が毒」ひとが薄めて名薬梅雨永し)

中村草田男

 「萬緑」創刊から6年後、第5句集『銀河依然』刊行の前年の昭和27年(1952/草田男51歳)に、母ミネが逝去した。その年の5月には四女の依子氏が生まれたばかりであった。生と死の昏明の中、母が重病にて倒れ入院、医者からは「殆どフェータルなるものなる旨」を告げられたところからその看取りの最期までを、草田男は51句に及ぶ群作として克明に誌している。

移ろふ母が()大石橋を梅雨の女笠(めがさ)  草田男(『銀河依然』より)

女性(をみな)一生(ひとよ)よ店の灯あはき夏蜜柑

病室無風七夕一と穂(つつ)み来て

黄濁病母(まなじり)薔薇()て口笑みぬ

梅雨(つゆ)の外光身をのがれ来て何のがれん

鶏鳴まちまち梅雨の午刻のみだれたる

蚕蛾(こが)に似し灯蛾や母はや歯で息す

梅雨ごもれる神、罪ふかき母子(ぼし)ゆるし給へ

梅雨の病院かの窓閉じぬ白玉楼

全体として悲壮なリズムと痛々しいまでの写生というリアリズムで貫かれており、そして何より、母ないしは神への純粋でひたむきな祈りに終始している。このあくまでも鋭い眼光(リアリズム)と純情的な求道性(祈り)との相混淆するところに、草田男の詩魂が存在する。

『銀河依然』の後記には、四女の誕生と母の死を取り上げ、「前者の『祝宴歌』こそただ一声唱ひ得たれ、後者の『鎮魂歌』を、きよらかにまどかに唱ひつづけて、その冥福に供へ得なかったことを痛嘆するのである」とある。母の最期を看取とり、切々なる思いで群作を作り上げた草田男ではあるが、詩人草田男としてはそれでもなお、母への鎮魂に対する心残りがあったのである。

そして翌年の昭和28年(1953)の8月に、草田男は母の遺骨を故郷松山の地の懐に託しに行く旅「母郷行」へと出立する。

前回の「ハイクノミカタ」で述べた通り、草田男はこの生母の死をきっかけに、「詩の湧きつぐことが詩十一月の薔薇」(昭29・『美田』)という句さながら、「汾湧期」とも呼べる多作期に突入する。そして、この50代初めに始まった多作期は60代まで継続した。

第6句集『母郷行』(昭和31年/1956/草田男55歳)、第7句集『美田』(昭和42年/1967/草田男66歳)はそれぞれその多作期の句が編まれた句集である。『美田』にいたっては2000句あまりの汾湧した句から、「我身をさいなむに似た苦痛を味いながら」922句を厳選し、収録している。

    ☆

 第6句集『母郷行』の眼目はやはりなんといっても、亡母の遺骨とともに帰郷したときの160句にも及ぶ群作「母郷行」であろう。草田男はこの群作の題名をそのまま句集の題とした。この群作の中に、「嘗ての乳母、健在にてたまたま松山にありとて、親戚の一人自転車にて、伴ひ来らんと走せゆく。」という前書を添えて、再会の昂揚を詠った8句がある。

清水でそそくさ顔洗ひざま来し乳母ぞ

とたんにゆがむ乳母の小さき涼しき顔

乳母夏痩「針当指環」今もして

話しつつ西日に乳母と後しざり

西日も消えぬ乳母語りつぐ四畳半

話題も夕涼焼けたる家の井戸のこと

夏星ほつほつ長患ひの話縷々

身をしぼる夕顔の蕾よさらば

 「難解」と揶揄されがちな草田男俳句ではあるが、こういった何の衒いも屈託もない素直な詠みぶりの句も数多く存在する。『夏星ほつほつ』とは、なんと軽やかで心弾みのある句であろうか。また、一見ただの報告になりがちな題材とモチーフであるが、それが報告とならずに、しっかりと焦点を絞った写生と措辞で詠まれており、草田男の技術の高さが垣間見える。乳母の隣にはまるで生母が居るような感じも受け、やはり帰郷の旅という心の開かれが、このような外連味のない表現にさせるのであろう。

    ☆

 これほどまでに母への愛情が強かった草田男ではあるが、自身の随筆にはあまり母の姿は出て来ない。母が登場する数少ない随筆の一つが昭和10年「ホトトギス」誌上に掲載された「灯の消えた時」である。

草田男が幼少期の頃、家に初めて電燈を引いた明治40年代の初めのその日の晩。夕食の後片付けが済んで、浩々と燈に照らされた新聞を読んでいる母に、草田男は電燈がともったうれしさを母にとめどもなしに話しかける。だが、母はだまってじっと新聞を読み続けている。母の注目を浴びたい草田男は、しまいには、母の「二尺ざし」を片手にとって、ブンブン振り回し、はしゃぎながら頻りにしゃべっているうちに、勢い余って電球を割ってしまう。

突然目の前が真っ暗になってしまい、上も下も、前も横も、なにもかもが無くなってしまう。真っ黒なものの中に頭を突っ込んだまま呆然としていると、あまりの静寂に怖くなり、「電気はおそろしい。母さんに電気が伝ワツタア。母さ——ん。」と魂消るような嗄れた声で母を呼ぶ。

しかし返事がない。また恐怖のあまり、切れ切れの声で「かさん、かさん、かあさーん、かさん、かあさあーん」と声をしぼってさけびつづけると、「な、ん、で、す、」と不意に、すぐそこに、いやに冷たく落ち着いた男のような母の声がする。「破片が危ないから壁の方へ寄るんです……あちらの部屋へおいき……あちらの部屋。灯をおつけ」と母はまた声を掛けるも、草田男は声がでなくなって、震えが止まらなくなる。

やっとの思いで隣の部屋に行き、灯をつけると、母は黙って草田男を真直ぐに眺めていた。「母あさん、僕ね僕ね——母あさんが、死んじゃったのかと思ってねえ——」としゃっくりをあげて、急に大きな声で泣きだした。という話である。

 草田男が小学校1・2年生くらいの話であろうが、あまりにも如実で鮮明に描かれている。その記憶力もさることながら、幼少期以来のこうした感受性のゆらぎを抱えていたからこそ、母への思慕は純粋なものであったし、その別れは辛いものであったというのは、想像に難くない。

    ☆

 第7句集『美田』でも、引き続きその詩魂の源泉は亡母詠と妻子詠(特に末子詠)に(あか)される。

冬幹や目なれしものに母の肌  草田男(『美田』より)

深爪切りし亡母の春愁今ぞ解す

母の手恋し揉んでッと押す盆団子

菜の花日和母居しことが母の恩

子のための又夫のための乳房すずし

夏天の鷹妻への恋情傾けり

末子が横目で話しにくるよ風邪床へ

葉桜や末子が追ひ来て橋鳴らす

着ぶくれて子が可愛いといふ病

末子との会話はかがむ菫二本

 あまりにも独創的で、類想類句を寄せ付けない草田男独自のオリジナリティに溢れている。「五十にして天命を知る」と言うが、52歳で四女が生まれ、母が亡くなり、それでもなお、ここまでの情念を臆せずむぎだしに詠むことができるであろうか。そして、当時としては、年齢的に孫がいてもおかしくない歳ではあるが、やはりまだまだ妻恋が健在なのである。

 この偏愛にも近い情念と率直な表白の内奥にこそ、草田男が追い求め続けた、日常の不断に培われた生活実感ゆえの作為を超越した詩があるのではないだろうか。

    ☆

 さて掲句であるが、「『我が毒』」というのは、19世紀フランスの文芸評論家サント・ブウヴの文芸批評の書物の題名であり、この句の着想がこの書から来ていることはまず間違いあるまい。というのも、此本のエピグラフとして、「この手帖には、濃い、屡々毒薬の状態にある僕の顔料がある。少し計り薄めさえすれば、物を生動させる色彩が手に入るわけだ」(訳・小林秀雄)という、まさに句の内容とほぼ同じ文章があり、此本にはサント・ブウヴのいわば日々の鬱憤やストレスの捌け口として手帖に書きなぐった思想や、近しい友人や文人の観察録がそのままの形で収録されている。

この「毒薬の状態にある僕の顔料」というのは、まさに著者自身の内心、すなわち自我(エゴ)であり、掲句での「『我が毒』」というのも、やはりその汾湧たる創作意欲の一つとなった強烈な自我の事であろう。草田男三女、中村弓子氏は、そんな草田男の強烈な自我の傍ら、「俳句文学に人間の実存的な問題の解決を求め、絶対を求める求道的・倫理的な欲求があり、その二者は共存しているものだった」と語る。

草田男自身も『母郷行』の跋にて、「単なる思想的要素でなく、単なる社会的要素でなく、ましてや、単なる散文的要素でなく、詩的要素でなく、それらが意識と分別との埒を忘却し去って、自己の内なる生命といふ大いなる存在と、外なる歴史的現実といふ大いなる存在と、更に俳句文芸の基本たる造化という大いなる存在とに、ただ一枚に合体したとき「私の声」であって、「公の声」であるところの「詩魂の声」が初めて発生する」と著しており、やはりそこには、『来し方行方』や『銀河依然』で見られた、自然との彼我融合的な対面もさることながら、自身の毒を薄めて、外なる歴史的現実と造化という大いなる存在とを融合し、いかに「詩魂の声」という「第三存在」を生み出せるかという、求道的欲求があった。

その好例が『母郷行』に収録されている、「チンドン屋」の連作であろう。

汗が糸ひく(べに)を血と拭きチンドン屋  草田男(『母郷行』より)

チンドン屋前後の荷解き緑蔭へ

チンドン屋すずむヒタと世(しづ)かになし

チンドン屋緑蔭に吐息紅脚絆

チンドン屋すずむ鬘の後毛(おくれげ)ごと

チンドン屋すずむ半男半女(はんなんはんにょ)姿

白塗り十指そよがしチンドン屋すずむ

チンドン屋と半学者なる詩人すずむ

鼻梁の左右(さう)に澄む眼やすずむチンドン屋

チンドン屋緑蔭いざ発つ巷入り

単身のチンドン屋の音ほそく涼し

 当時の庶民=人々とその貧と汗(労働)という厳しい歴史的現実と、それを只管に見つめている自己の内なる生命。そしてその二つを繋ぎ、融合させている季語という造化のはたらき。個が普遍に達したこの「詩魂の声」がついに祝福の念となって一聯のうちを流動してゆくさまを、その結晶度の高さを見てとりたい。

 サント・ブウヴの「我が毒」には、「文学というものが、文学をやっているとは夢にも思っていない人々の文学より味いの深いものとは、僕にはどうしても思われない」という一文がある。草田男もまた、自己の内なる自我は自己の外なる人々、歴史的現実に佇つ人々との共在によって初めてゆるされを持つということを見出しているのではないだろうか。だからこその「『我が毒』ひとが薄めて」なのである。

 つまり掲句は、「我が毒」(=自我・エゴ)は、「ひと」(=歴史的現実に佇つ人間)が薄めてくれて、ようやく名薬(=詩魂の声・第三存在)に近づく事ができるという、草田男による「人間」という存在の発見と「詩魂の声・第三存在」の誕生という俳句への展望を示している。しかし、それでもなおの「梅雨永し」なのである。

 草田男にとって「梅雨」とは、冒頭で紹介した生母の看取りの群作に誌されている通り、母との死別の季節であり、哀嘆の季節である。

 どんなに自分の毒を薄めて、名薬が出来たとしても、俳句への情熱を燃やし続けていたとしても、母への哀惜は薄まらず、その思いは増すばかりなのだ。

 草田男は「梅雨」が明けるまで、その永い永い「梅雨」を、自己の内から湧いてくる情念をひたすら汲み取り続けていくしかなかったのだ。そこにはやはり、前述の中村弓子氏の語る通り、人間の実存的な問題の解決と、絶対を求める求道との石地の道が続いていたに他ならない。

北杜駿


【執筆者プロフィール】
北杜駿(ほくと・しゅん)
1989年生まれ。千葉県出身。現在は山梨県在住。2019年「森の座」入会、横澤放川に師事。2022年星野立子新人賞受賞。2023年森の座新人賞受賞。「森の座」同人。
Email: shun.hokuto@outlook.com


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2023年6月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】

>>〔1〕田を植ゑるしづかな音へ出でにけり 中村草田男
>>〔2〕妻のみ恋し紅き蟹などを歎かめや  中村草田男
>>〔3〕虹の後さづけられたる旅へ発つ   中村草田男
>>〔4〕鶏鳴の多さよ夏の旅一歩      中村草田男

【2023年6月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔6〕妹の手をとり水の香の方へ 小山玄紀
>>〔7〕金魚屋が路地を素通りしてゆきぬ 菖蒲あや
>>〔8〕白い部屋メロンのありてその匂ひ 上田信治

【2023年5月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔5〕皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人
>>〔6〕煮し蕗の透きとほりたり茎の虚  小澤實
>>〔7〕手の甲に子かまきりをり吹きて逃す 土屋幸代
>>〔8〕いつまでも死なぬ金魚と思ひしが 西村麒麟
>>〔9〕夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ  堀本裕樹

【2023年5月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔1〕遠き屋根に日のあたる春惜しみけり 久保田万太郎
>>〔2〕電車いままつしぐらなり桐の花 星野立子
>>〔3〕葉桜の頃の電車は突つ走る 波多野爽波
>>〔4〕薫風や今メンバー紹介のとこ 佐藤智子
>>〔5〕ハフハフと泳ぎだす蛭ぼく音痴 池禎章

【2023年4月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔1〕春風にこぼれて赤し歯磨粉  正岡子規
>>〔2〕菜の花や部屋一室のラジオ局 相子智恵
>>〔3〕生きのよき魚つめたし花蘇芳 津川絵理子
>>〔4〕遠足や眠る先生はじめて見る 斉藤志歩

【2023年4月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔6〕赤福の餡べつとりと山雪解 波多野爽波
>>〔7〕眼前にある花の句とその花と 田中裕明
>>〔8〕対岸の比良や比叡や麦青む 対中いずみ
>>〔9〕美しきものに火種と蝶の息 宇佐美魚目

【2023年3月の火曜日☆三倉十月のバックナンバー】

>>〔1〕窓眩し土を知らざるヒヤシンス 神野紗希
>>〔2〕家濡れて重たくなりぬ花辛夷  森賀まり
>>〔3〕菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ 金原まさ子
>>〔4〕不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ【←三倉十月さんの自選10句付】

【2023年3月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔1〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波
>>〔2〕砂浜の無数の笑窪鳥交る    鍵和田秞子
>>〔3〕大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波
>>〔4〕カードキー旅寝の春の灯をともす トオイダイスケ
>>〔5〕桜貝長き翼の海の星      波多野爽波

【2023年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔6〕立春の零下二十度の吐息   三品吏紀
>>〔7〕背広来る来るジンギスカンを食べに来る 橋本喜夫
>>〔8〕北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり 平川靖子
>>〔9〕地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島 櫂未知子

【2023年2月の水曜日☆楠本奇蹄のバックナンバー】

>>〔1〕うらみつらみつらつら椿柵の向う 山岸由佳
>>〔2〕忘れゆくはやさで淡雪が乾く   佐々木紺
>>〔3〕雪虫のそつとくらがりそつと口笛 中嶋憲武
>>〔4〕さくら餅たちまち人に戻りけり  渋川京子

【2023年1月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔1〕年迎ふ父に胆石できたまま   島崎寛永
>>〔2〕初燈明背にあかつきの雪の音 髙橋千草
>>〔3〕蝦夷に生まれ金木犀の香を知らず 青山酔鳴
>>〔4〕流氷が繋ぐ北方領土かな   大槻独舟
>>〔5〕湖をこつんとのこし山眠る 松王かをり

【2023年1月の水曜日☆岡田由季のバックナンバー】

>>〔1〕さしあたり坐つてゐるか鵆見て 飯島晴子
>>〔2〕潜り際毬と見えたり鳰     中田剛
>>〔3〕笹鳴きに覚めて朝とも日暮れとも 中村苑子
>>〔4〕血を分けし者の寝息と梟と   遠藤由樹子

【2022年11・12月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】

>>〔1〕氷上と氷中同じ木のたましひ 板倉ケンタ
>>〔2〕凍港や旧露の街はありとのみ 山口誓子
>>〔3〕境内のぬかるみ神の発ちしあと 八染藍子
>>〔4〕舌荒れてをり猟銃に油差す 小澤實
>>〔5〕義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳
>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
>>〔7〕胸の炎のボレロは雪をもて消さむ 文挾夫佐恵
>>〔8〕オルゴールめく牧舎にも聖夜の灯 鷹羽狩行
>>〔9〕去年今年詩累々とありにけり  竹下陶子

【2022年11・12月の水曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔1〕泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ
>>〔2〕牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等
>>〔3〕誕生日の切符も自動改札に飲まれる 岡田幸生
>>〔4〕雪が降る千人針をご存じか 堀之内千代
>>〔5〕トローチのすつと消えすつと冬の滝 中嶋憲武
>>〔6〕鱶のあらい皿を洗えば皿は海 谷さやん
>>〔7〕橇にゐる母のざらざらしてきたる 宮本佳世乃
>>〔8〕セーターを脱いだかたちがすでに負け 岡野泰輔
>>〔9〕動かない方も温められている   芳賀博子

【2022年10月の火曜日☆太田うさぎ(復活!)のバックナンバー】

>>〔92〕老僧の忘れかけたる茸の城 小林衹郊
>>〔93〕輝きてビラ秋空にまだ高し  西澤春雪
>>〔94〕懐石の芋の葉にのり衣被    平林春子
>>〔95〕ひよんの実や昨日と違ふ風を見て   高橋安芸

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔5〕運動会静かな廊下歩きをり  岡田由季
>>〔6〕後の月瑞穂の国の夜なりけり 村上鬼城
>>〔7〕秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
>>〔8〕逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ 池田澄子

【2022年9月の火曜日☆岡野泰輔のバックナンバー】

>>〔1〕帰るかな現金を白桃にして    原ゆき
>>〔2〕ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
>>〔3〕サフランもつて迅い太子についてゆく 飯島晴子
>>〔4〕琴墜ちてくる秋天をくらりくらり  金原まさ子

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔1〕九月来る鏡の中の無音の樹   津川絵理子
>>〔2〕雨月なり後部座席に人眠らせ    榮猿丸
>>〔3〕秋思かがやくストローを嚙みながら 小川楓子
>>〔4〕いちじくを食べた子供の匂ひとか  鴇田智哉

【2022年6月の火曜日☆杉原祐之のバックナンバー】

>>〔1〕仔馬にも少し荷を付け時鳥    橋本鶏二
>>〔2〕ほととぎす孝君零君ききたまへ  京極杞陽
>>〔3〕いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝
>>〔4〕雲の峰ぬつと東京駅の上     鈴木花蓑

【2022年6月の水曜日☆松野苑子のバックナンバー】

>>〔1〕でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子
>>〔2〕襖しめて空蟬を吹きくらすかな  飯島晴子
>>〔3〕螢とび疑ひぶかき親の箸     飯島晴子
>>〔4〕十薬の蕊高くわが荒野なり    飯島晴子
>>〔5〕丹田に力を入れて浮いて来い   飯島晴子

【2022年5月の火曜日☆沼尾將之のバックナンバー】

>>〔1〕田螺容れるほどに洗面器が古りし 加倉井秋を
>>〔2〕桐咲ける景色にいつも沼を感ず  加倉井秋を
>>〔3〕葉桜の夜へ手を出すための窓   加倉井秋を
>>〔4〕新綠を描くみどりをまぜてゐる  加倉井秋を
>>〔5〕美校生として征く額の花咲きぬ  加倉井秋を

【2022年5月の水曜日☆木田智美のバックナンバー】

>>〔1〕きりんの子かゞやく草を喰む五月  杉山久子
>>〔2〕甘き花呑みて緋鯉となりしかな   坊城俊樹
>>〔3〕ジェラートを売る青年の空腹よ   安里琉太
>>〔4〕いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希

【2022年4月の火曜日☆九堂夜想のバックナンバー】

>>〔1〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔2〕未生以前の石笛までも刎ねる    小野初江
>>〔3〕水鳥の和音に還る手毬唄      吉村毬子
>>〔4〕星老いる日の大蛤を生みぬ     三枝桂子

【2022年4月の水曜日☆大西朋のバックナンバー】

>>〔1〕大利根にほどけそめたる春の雲   安東次男
>>〔2〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔3〕田に人のゐるやすらぎに春の雲  宇佐美魚目
>>〔4〕鶯や米原の町濡れやすく     加藤喜代子

【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】

>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸   正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ  正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉      正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな     正岡子規
>>〔5〕おとつさんこんなに花がちつてるよ 正岡子規

【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】

>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる    野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
>>〔3〕春天の塔上翼なき人等      野見山朱鳥
>>〔4〕春星や言葉の棘はぬけがたし   野見山朱鳥
>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海    野見山朱鳥

【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】

>>〔1〕年玉受く何も握れぬ手でありしが  髙柳克弘
>>〔2〕復讐の馬乗りの僕嗤っていた    福田若之
>>〔3〕片蔭の死角から攻め落としけり   兒玉鈴音
>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな     畠山弘

【2022年2月の水曜日☆内村恭子のバックナンバー】

>>〔1〕琅玕や一月沼の横たはり      石田波郷
>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養    石田波郷
>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず  有馬朗人
>>〔4〕仕る手に笛もなし古雛      松本たかし

【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】

>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は   中原道夫
>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催      潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ      田口武

【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】

>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎     神野紗希

【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺    正岡子規
>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事   岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ
>>〔4〕共にゐてさみしき獣初しぐれ   中町とおと

【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】

>>〔1〕綿入が似合う淋しいけど似合う    大庭紫逢
>>〔2〕枯葉言ふ「最期とは軽いこの音さ」   林翔
>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より      藺草慶子
>>〔4〕みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何
>>〔5〕ともかくもくはへし煙草懐手    木下夕爾

【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】

>>〔1〕海くれて鴨のこゑほのかに白し      芭蕉
>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ    芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉      芭蕉
>>〔4〕埋火もきゆやなみだの烹る音      芭蕉
>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【前編】
>>〔5-2〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【後編】

【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】

>>〔1〕秋灯机の上の幾山河        吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
>>〔3〕後輩の女おでんに泣きじゃくる  加藤又三郎
>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す    寺田京子

【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】

>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊     杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ  後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す   仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒     山口青邨

【2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】

>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり   夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな   永田耕衣


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 跳ぶ時の内股しろき蟇 能村登四郎【季語=蟇(夏)】
  2. 人垣に春節の龍起ち上がる 小路紫峡【季語=春節(春)】
  3. 橘や蒼きうるふの二月尽 三橋敏雄【季語=二月尽(春)】
  4. いつせいに柱の燃ゆる都かな 三橋敏雄
  5. 月かげにみな美しき庭のもの 稲畑汀子【季語=月影(秋)】
  6. 晴れ曇りおほよそ曇りつつじ燃ゆ 篠田悌二郎【季語=躑躅(春)】
  7. 前をゆく私が野分へとむかふ 鴇田智哉【季語=野分(秋)】
  8. バー温し年豆妻が撒きをらむ 河野閑子【季語=年豆(冬)】

おすすめ記事

  1. 神保町に銀漢亭があったころ【第27回】安里琉太
  2. 海女ひとり潜づく山浦雲の峰 井本農一【季語=雲の峰(夏)】
  3. 【秋の季語】秋思
  4. 【春の季語】旧正
  5. 「パリ子育て俳句さんぽ」【8月27日配信分】
  6. 【春の季語】春の塵
  7. 年迎ふ父に胆石できたまま 島崎寛永【季語=年迎ふ(新年)】 
  8. 【秋の季語】団栗
  9. 【セクト・ポクリット読者限定】『神保町に銀漢亭があったころ』注文フォーム【送料無料】
  10. 黒服の春暑き列上野出づ 飯田龍太【季語=春暑し(春)】

Pickup記事

  1. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第19回】平泉と有馬朗人
  2. ダリヤ活け婚家の家風侵しゆく 鍵和田秞子【季語=ダリヤ(夏)】
  3. 恋の句の一つとてなき葛湯かな 岩田由美【季語=葛湯(冬)】
  4. 筍にくらき畳の敷かれあり 飯島晴子【季語=筍(夏)】
  5. ビール買ふ紙幣をにぎりて人かぞへ 京極杞陽【季語=ビール(夏)】
  6. 【秋の季語】秋山
  7. 「パリ子育て俳句さんぽ」【6月18日配信分】
  8. 浅春の岸辺は龍の匂ひせる 対中いずみ【季語=亀浅春(春)】
  9. 南海多感に物象定か獺祭忌 中村草田男【季語=獺祭忌(秋)】
  10. 蓮根や泪を横にこぼしあひ 飯島晴子【季語=蓮根(冬)】
PAGE TOP