ハイクノミカタ

めぐりあひやその虹七色七代まで 中村草田男【季語=虹(夏)】


めぐりあひやその虹七色七代まで)

中村草田男

 中村草田男は昭和58年(1983)8月5日に、急性肺炎のため満82歳で帰天した。14日ぶりに精密検査のための入院から自宅へと帰った矢先の事であった。急に容態が悪化し、草田男は病院に緊急搬送され、内科病棟に再入院。医師から危篤状態にあることが告げられた。その後、臨終の床にカトリック吉祥寺教会の宮崎神父が病院に到着し、草田男の枕頭に洗礼の儀が行われ、草田男に「ヨハネ・マリア・ヴィアンネ」というクリスチャンネームが授けられた。その後も見舞い客やご親族の懸命なる祈りも虚しく、草田男は四人のご息女たちに見守られながら、しずかに息を引き取った。

 実はこの逝去の前、草田男の身にはたびたび試練が降りかかり、体調の上がり下がりが著しかったという。そのきっかけとなったのが、前々回の「白夜の忠犬百骸挙げて石に近み」の稿でも紹介した昭和37年(1962)草田男61歳の時の神経症である。俳人協会のゴタゴタや前衛俳句との論争の真っただ中にあったが、その頃の草田男はまさに「ただ渺茫たる『永遠の時間』という心理的時間の中にさめきったまま」でいる状態であり、その凄まじさに身内の人々はいたたまれない毎日を過ごしていたという。

 そうした危機を救ったのが、草田男の妻直子夫人のひたすらな加護によるものである。もともと直子夫人は草田男に出会う前は、プロのピアニストを目指し、本格的に己が道へ進もうとしていた。しかし、草田男との見合いで、草田男のその純粋なる眼にほれ込み、結婚を決意。草田男を妻として支える道を選んだのである。その決意は草田男の大いなる危機においても揺らぐことはなかった。

そんな直子夫人の懸命な努力と助けにより、草田男は半年後に、

  ラザロの感謝落花の下に昼熟睡(まどろ)

という句のもと、本復した。ラザロとは絵画でもたびたび描かれている「ラザロの復活」のラザロのことであり、新約聖書「ヨハネによる福音書」にて、一度は死に、埋葬されたが、キリストの奇跡によって甦らせられた人物である。

 草田男の「ラザロの感謝」とは、ねんごろな加護によって草田男を救済した妻を通しての神への感謝であり、落花の下にまどろむ安らぎを、いやむしろ、まどろむという所謂安らぎの行為が出来るという実感を句として詠んだのである。この時草田男を救済したのは、草田男自身の意志では到底なく、神はたや妻の助けによるものに他ならない。

 その後、草田男は信仰の道には入らず、句作活動を再開し、作品の汾湧を汲みつづけ、主宰誌や総合誌に作品を発表し続けた。しかし、昭和52年の直子夫人の急逝により状況が一変した。

 直子夫人の死後、草田男は同じ敷地に住むご息女たちが世話することになったのだが、草田男はよく自宅内で「どこか違う」「どこか違う」と口に出して言っていたそうだ。自分の妻が亡くなったのだから、どこか違うのは当たり前のことであるのだが、深刻な事態に対してあえて直視をしないようにして、自らの神経を保つため、あるいは寂しさを紛らわすための自己保身によるものが、口癖となって出てきてしまったのであろうか。

 この直子夫人の死により、草田男の活力は急速に衰え始めていった。

 草田男と直子夫人の関係を、平畑静塔は「炎天の空へ吾妻の女体恋ふ」「妻恋し炎天の岩石もて撃ち」(どちらも昭和12年『火の島』収録)の二句を挙げ、高村光太郎とその妻智恵子との間柄に重ねている。それは、「『僕等』『愛の嘆美』『晩餐』『われらつねにみちよ』『淫心』に到る、結婚直後の痛切な肉感にささげた数篇の詩に通じ合うものがある」とする。

 「唯一回の酒のブランク」という草田男の随筆では、草田男と直子夫人の実際の関係性の一端を垣間見ることができる。

 それは戦災の混乱からようやく平和時代が巡り来た終戦後4年ほど経った頃であった。ひとつ酒宴でも開いて、たまにはアルコールによる開放的幸福感に包まれようではないかと、職場の若い同僚たちから誘われたのである。晩酌はやらないが、酒は好物であった草田男は快く承諾したものの、酒宴の当日、草田男はかなりの仕事をかかえ込んでおり、二晩程半徹夜のうえ、原稿を書き終えたばかりの完全な空腹の状態で飛び込み参加することになってしまった。

 草田男のコップに中へひそかにウイスキーを注入し続けるという同僚たちのひそやかな悪ふざけも重なり、草田男は大いに酔っぱらってしまった。そして酒宴の帰り道、国電のシートの上に腰を落とした瞬間、それ以後の事は忽然として記憶がなく、完全なブランク(空白)状態に陥ってしまった。

 翌朝早くに、自室の畳の上で目を覚ました草田男であったが、その目の前には直子夫人が三人の娘たちを自身の背後に一列に控えさせて、涙を流し続けながら正座をしていた。直子夫人は「昨晩のあなたの正体の醜さをありのままに報告してあげましょう」と言って、昨夜の草田男の醜態を刻々と語り始めた。それは敬虔な家庭で育った直子夫人にはまるで身の毛もよだつほどの狂態であったのだろう。

 そして直子夫人は、「近頃のあなたの眼は急速に濁ってきました。俳壇でのいささかのネーム・バリューにいい気になって根本の気持ちが歪んでいるからです。今日から永久に句作を止めてしまうと、妻子の前で約束してください。そうでなければ、我々は即刻ここから出てゆきます」と宣言して草田男に回答を求める。

 そんな事到底できない草田男を見かねて直子夫人は、とうとう娘たちを引き連れて自宅から出ていき、遥かな町角へまで立ち去ってしまった。すると、次女だけがとめどなく泣きじゃくりながら草田男の所まで走り寄り、「ただ一言、俳句を止めるとおっしゃいよ。そうしないと私たち一生親なし子になってしまうじゃないの」と懇願するも、草田男は「どんなにしても『止めてしまう』などという方便的な嘘を口頭にのぼせることだけは金輪際できない。私は結婚以来、それがどんな不利を招こうとも一度も嘘を言ったことがない。ただ一つの嘘をつけば二人の間はすべて嘘になってしまうからである」と取り合わなかった。

 こんな大喧嘩をしつつも、結局はその日の夜に、直子夫人とその娘たちは草田男のいる自宅に戻ってくるという結末であるのだが、次女がこっそり、しかしいかにも落ち着いて草田男にこう報告した。「あの後でお母様が私達に言ってきかせたわよ。<止める>などと言うような男だったら、だれが帰ってきてやるものかって」。

 この随筆を見てもらうと分かる通り、草田男と直子夫人の関係は確かに不器用であったかもしれない。しかしそれは、お互いの愛情の深さゆえ、情熱の深さゆえに、いわゆる世俗の浮気や夫婦喧嘩といったものとは全く別次元のところで、互いに対してあくまでも純粋に、そしてあくまでも真剣に向き合っていたと言えるだろう。

 草田男は直子夫人の通夜での挨拶の際、こんな言葉を残している。「凡ての人が等しく彼女を愛したとは言えないまでも、凡ての人を彼女は愛しておりました」と。

 草田男と直子夫人の死後、二人の墓はあきる野市のカトリック霊園に安置されており、「勇気こそ地の塩なれや梅真白」という草田男の句が彫られた白い御影石の石棺の中に、共に埋葬されている。

 同門の家登みろく氏のYouTubeチャンネル「みろくの森」では、草田男忌での墓参りの動画がアップされており、その雰囲気を味わいたい方はぜひ鑑賞されたい。

 さて、掲句であるが、この句には「中村直子の霊前に捧ぐ」という前書がある。しかし、掲句の発表年は昭和53年10月。直子夫人が急逝されたのは昭和52年11月。直子夫人の死後、草田男による妻への追悼句は実はこれが初出であり、愛妻俳句を営々と詠み続けたあの草田男に対し、直子夫人の死から凡そ一年もの間、レクイエムの一句すら詠んでいなかったことになる。いやむしろ、かろうじて一句詠めたとも言っていいだろう。それだけ草田男は弱り切っていたし、草田男にとって衝撃的な出来事であったと思われる。

 「七代(ななよ)」とは、末代の子孫「七世代に渡って」という意味にも捉えられるが、“ななよ”と言葉は他に、「神代七代(かみよななよ)」の「七代」を連想させる。

 「神代七代」とは、日本書紀や古事記といった日本神話のなかで、天地開闢の際に現れた七代の神の総称であり、第一世代の国之常立神(くにのとこたちのかみ)から、第七世代の伊邪那岐神(いざなぎのかみ)伊邪那美神(いざなみのかみ)に至るまでを指す。第七世代の伊邪那岐神(いざなぎのかみ)伊邪那美神(いざなみのかみ)の物語はひろく人口に膾炙しているので、知っている方も多いであろう。伊邪那岐神(いざなぎのかみ)伊邪那美神(いざなみのかみ)は高天原の神々に命じられ、日本列島を構成する島々を産み落とした所謂「国生み」の神であり、日本創生の神である。伊邪那岐神(いざなぎのかみ)は国生みの前に、「然者(しからば)()()()天之御柱(あめのみはしら)を行きめぐり逢ひて、みとのまぐはひ()む。」と言い、伊邪那岐神(いざなぎのかみ)は左回りに伊邪那美神(いざなみのかみ)は右回りに天の御柱の周囲を巡り、そうしてお互い出逢った所で、国生みを始めるのである。

 掲句の「七代まで」というのは、この第七世代の伊邪那岐神(いざなぎのかみ)伊邪那美神(いざなみのかみ)の時代までということであり、我々が今生きているこの一つの宇宙が消滅し、また新たな宇宙が誕生し、天地開闢後の混沌とした神代の時代がまた新たにやって来るまで、つまり「永遠に」という意味合いが暗に示されているであろう。 

 上五の「めぐりあひや」という措辞には、前述の伊邪那岐神(いざなぎのかみ)伊邪那美神(いざなみのかみ)の天の御柱

でのめぐり逢いを踏まえつつ、十回以上のお見合いを経てようやくめぐり逢った直子夫人との出逢いに思いを馳せているのであろう。

 そして、「その虹」の「その」であるが、草田男の俳句の中には「この」や「その」「かの」などの言葉が多用されており、“永遠”という語と比較した際における、いま・ここに・一生という長くも短い時間の中にある「その」ものという意味であると捉えられることが多い。

 以上の事から掲句は、草田男自身と直子夫人との出逢いを、神代の時代の伊邪那岐神(いざなぎのかみ)伊邪那美神(いざなみのかみ)の出逢いに重ね合わせ、お互いを信じ合い、真剣に向き合ったからこそ、その情念は単なる寂しさで終わらず、直子夫人への永遠なるその愛を、感謝を、はたや祈りを、「虹」という季語に託して詠んだのではなかろうか。

 追悼句としての意味合いで発表されており、直子夫人が亡くなってしまった以上「妻」という措辞はないにしろ、草田男俳句の中で至極の愛妻俳句の一つと言ってもいいだろう。

 最後にではあるが、平畑静塔が指摘した高村光太郎の『僕等』という詩の一節を、草田男と直子夫人の哀悼の念を込めてここに誌して終わりにしたい。

 僕等   (高村幸太郎『智恵子抄』より)

僕はあなたをおもふたびに

一ばんぢかに永遠を感じる

僕があり あなたがある

自分はこれに尽きてゐる

僕のいのちと あなたのいのちとが

よれ合ひ もつれ合ひ とけ合ひ

渾沌としたはじめにかへる

すべての差別見は僕等の間に価値を失ふ

僕等にとつては凡が絶対だ

そこには世にいふ男女の戦がない

信仰と敬虔と恋愛と自由とがある

そして大変な力と権威とがある

人間の一端と他端との融合だ

僕は丁度自然を信じ切る心安さで

僕等のいのちを信じてゐる

そして世間といふものを蹂躪してゐる

頑固な俗情に打ち勝つてゐる

二人ははるかに其処をのり超えてゐる

北杜駿


【執筆者プロフィール】
北杜駿(ほくと・しゅん)
1989年生まれ。千葉県出身。現在は山梨県在住。2019年「森の座」入会、横澤放川に師事。2022年星野立子新人賞受賞。2023年森の座新人賞受賞。「森の座」同人。
Email: shun.hokuto@outlook.com


【北杜駿の自選10句】

さらさらと春流れ出す白馬の尾

湧水の飽くなき光山葵生ふ

争ひのなきが青空鯉のぼり

なにゆゑにここなにゆゑに泉湧く

とことはの指輪を交はす白南風に

これより夫婦登々と雲夏になる

蒲の穂の風に遅れて揺るるなり

仙蓼や日々百グラム増ゆる胎

産月のおなかいちめん冬日浴む

吾子抱けば伝ふ息の緒春障子


【お知らせ】
2015年に亡くなられた俳人・澤田和弥さんの句文集の出版するクラウドファンディングのプロジェクトが立ち上がっています。詳細は以下のバナーから!(Motion Galleryのプロジェクトページに遷移します)

2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2023年7月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】

>>〔5〕「我が毒」ひとが薄めて名薬梅雨永し 中村草田男
>>〔6〕白夜の忠犬百骸挙げて石に近み 中村草田男
>>〔7〕折々己れにおどろく噴水時の中 中村草田男

【2023年7月の水曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔5〕数と俳句(一)
>>〔6〕数と俳句(二)
>>〔7〕数と俳句(三)

【2023年7月の木曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔10〕来たことも見たこともなき宇都宮 筑紫磐井
>>〔11〕「月光」旅館/開けても開けてもドアがある 高柳重信
>>〔12〕コンビニの枇杷って輪郭だけ 原ゆき

【2023年6月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】

>>〔1〕田を植ゑるしづかな音へ出でにけり 中村草田男
>>〔2〕妻のみ恋し紅き蟹などを歎かめや  中村草田男
>>〔3〕虹の後さづけられたる旅へ発つ   中村草田男
>>〔4〕鶏鳴の多さよ夏の旅一歩      中村草田男

【2023年6月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔6〕妹の手をとり水の香の方へ 小山玄紀
>>〔7〕金魚屋が路地を素通りしてゆきぬ 菖蒲あや
>>〔8〕白い部屋メロンのありてその匂ひ 上田信治

【2023年5月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔5〕皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人
>>〔6〕煮し蕗の透きとほりたり茎の虚  小澤實
>>〔7〕手の甲に子かまきりをり吹きて逃す 土屋幸代
>>〔8〕いつまでも死なぬ金魚と思ひしが 西村麒麟
>>〔9〕夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ  堀本裕樹

【2023年5月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔1〕遠き屋根に日のあたる春惜しみけり 久保田万太郎
>>〔2〕電車いままつしぐらなり桐の花 星野立子
>>〔3〕葉桜の頃の電車は突つ走る 波多野爽波
>>〔4〕薫風や今メンバー紹介のとこ 佐藤智子
>>〔5〕ハフハフと泳ぎだす蛭ぼく音痴 池禎章

【2023年4月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔1〕春風にこぼれて赤し歯磨粉  正岡子規
>>〔2〕菜の花や部屋一室のラジオ局 相子智恵
>>〔3〕生きのよき魚つめたし花蘇芳 津川絵理子
>>〔4〕遠足や眠る先生はじめて見る 斉藤志歩

【2023年4月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔6〕赤福の餡べつとりと山雪解 波多野爽波
>>〔7〕眼前にある花の句とその花と 田中裕明
>>〔8〕対岸の比良や比叡や麦青む 対中いずみ
>>〔9〕美しきものに火種と蝶の息 宇佐美魚目

【2023年3月の火曜日☆三倉十月のバックナンバー】

>>〔1〕窓眩し土を知らざるヒヤシンス 神野紗希
>>〔2〕家濡れて重たくなりぬ花辛夷  森賀まり
>>〔3〕菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ 金原まさ子
>>〔4〕不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ【←三倉十月さんの自選10句付】

【2023年3月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔1〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波
>>〔2〕砂浜の無数の笑窪鳥交る    鍵和田秞子
>>〔3〕大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波
>>〔4〕カードキー旅寝の春の灯をともす トオイダイスケ
>>〔5〕桜貝長き翼の海の星      波多野爽波

【2023年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔6〕立春の零下二十度の吐息   三品吏紀
>>〔7〕背広来る来るジンギスカンを食べに来る 橋本喜夫
>>〔8〕北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり 平川靖子
>>〔9〕地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島 櫂未知子

【2023年2月の水曜日☆楠本奇蹄のバックナンバー】

>>〔1〕うらみつらみつらつら椿柵の向う 山岸由佳
>>〔2〕忘れゆくはやさで淡雪が乾く   佐々木紺
>>〔3〕雪虫のそつとくらがりそつと口笛 中嶋憲武
>>〔4〕さくら餅たちまち人に戻りけり  渋川京子

【2023年1月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔1〕年迎ふ父に胆石できたまま   島崎寛永
>>〔2〕初燈明背にあかつきの雪の音 髙橋千草
>>〔3〕蝦夷に生まれ金木犀の香を知らず 青山酔鳴
>>〔4〕流氷が繋ぐ北方領土かな   大槻独舟
>>〔5〕湖をこつんとのこし山眠る 松王かをり

【2023年1月の水曜日☆岡田由季のバックナンバー】

>>〔1〕さしあたり坐つてゐるか鵆見て 飯島晴子
>>〔2〕潜り際毬と見えたり鳰     中田剛
>>〔3〕笹鳴きに覚めて朝とも日暮れとも 中村苑子
>>〔4〕血を分けし者の寝息と梟と   遠藤由樹子

【2022年11・12月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】

>>〔1〕氷上と氷中同じ木のたましひ 板倉ケンタ
>>〔2〕凍港や旧露の街はありとのみ 山口誓子
>>〔3〕境内のぬかるみ神の発ちしあと 八染藍子
>>〔4〕舌荒れてをり猟銃に油差す 小澤實
>>〔5〕義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳
>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
>>〔7〕胸の炎のボレロは雪をもて消さむ 文挾夫佐恵
>>〔8〕オルゴールめく牧舎にも聖夜の灯 鷹羽狩行
>>〔9〕去年今年詩累々とありにけり  竹下陶子

【2022年11・12月の水曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔1〕泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ
>>〔2〕牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等
>>〔3〕誕生日の切符も自動改札に飲まれる 岡田幸生
>>〔4〕雪が降る千人針をご存じか 堀之内千代
>>〔5〕トローチのすつと消えすつと冬の滝 中嶋憲武
>>〔6〕鱶のあらい皿を洗えば皿は海 谷さやん
>>〔7〕橇にゐる母のざらざらしてきたる 宮本佳世乃
>>〔8〕セーターを脱いだかたちがすでに負け 岡野泰輔
>>〔9〕動かない方も温められている   芳賀博子

【2022年10月の火曜日☆太田うさぎ(復活!)のバックナンバー】

>>〔92〕老僧の忘れかけたる茸の城 小林衹郊
>>〔93〕輝きてビラ秋空にまだ高し  西澤春雪
>>〔94〕懐石の芋の葉にのり衣被    平林春子
>>〔95〕ひよんの実や昨日と違ふ風を見て   高橋安芸

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔5〕運動会静かな廊下歩きをり  岡田由季
>>〔6〕後の月瑞穂の国の夜なりけり 村上鬼城
>>〔7〕秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
>>〔8〕逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ 池田澄子

【2022年9月の火曜日☆岡野泰輔のバックナンバー】

>>〔1〕帰るかな現金を白桃にして    原ゆき
>>〔2〕ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
>>〔3〕サフランもつて迅い太子についてゆく 飯島晴子
>>〔4〕琴墜ちてくる秋天をくらりくらり  金原まさ子

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔1〕九月来る鏡の中の無音の樹   津川絵理子
>>〔2〕雨月なり後部座席に人眠らせ    榮猿丸
>>〔3〕秋思かがやくストローを嚙みながら 小川楓子
>>〔4〕いちじくを食べた子供の匂ひとか  鴇田智哉

【2022年6月の火曜日☆杉原祐之のバックナンバー】

>>〔1〕仔馬にも少し荷を付け時鳥    橋本鶏二
>>〔2〕ほととぎす孝君零君ききたまへ  京極杞陽
>>〔3〕いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝
>>〔4〕雲の峰ぬつと東京駅の上     鈴木花蓑

【2022年6月の水曜日☆松野苑子のバックナンバー】

>>〔1〕でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子
>>〔2〕襖しめて空蟬を吹きくらすかな  飯島晴子
>>〔3〕螢とび疑ひぶかき親の箸     飯島晴子
>>〔4〕十薬の蕊高くわが荒野なり    飯島晴子
>>〔5〕丹田に力を入れて浮いて来い   飯島晴子

【2022年5月の火曜日☆沼尾將之のバックナンバー】

>>〔1〕田螺容れるほどに洗面器が古りし 加倉井秋を
>>〔2〕桐咲ける景色にいつも沼を感ず  加倉井秋を
>>〔3〕葉桜の夜へ手を出すための窓   加倉井秋を
>>〔4〕新綠を描くみどりをまぜてゐる  加倉井秋を
>>〔5〕美校生として征く額の花咲きぬ  加倉井秋を

【2022年5月の水曜日☆木田智美のバックナンバー】

>>〔1〕きりんの子かゞやく草を喰む五月  杉山久子
>>〔2〕甘き花呑みて緋鯉となりしかな   坊城俊樹
>>〔3〕ジェラートを売る青年の空腹よ   安里琉太
>>〔4〕いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希

【2022年4月の火曜日☆九堂夜想のバックナンバー】

>>〔1〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔2〕未生以前の石笛までも刎ねる    小野初江
>>〔3〕水鳥の和音に還る手毬唄      吉村毬子
>>〔4〕星老いる日の大蛤を生みぬ     三枝桂子

【2022年4月の水曜日☆大西朋のバックナンバー】

>>〔1〕大利根にほどけそめたる春の雲   安東次男
>>〔2〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔3〕田に人のゐるやすらぎに春の雲  宇佐美魚目
>>〔4〕鶯や米原の町濡れやすく     加藤喜代子

【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】

>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸   正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ  正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉      正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな     正岡子規
>>〔5〕おとつさんこんなに花がちつてるよ 正岡子規

【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】

>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる    野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
>>〔3〕春天の塔上翼なき人等      野見山朱鳥
>>〔4〕春星や言葉の棘はぬけがたし   野見山朱鳥
>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海    野見山朱鳥

【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】

>>〔1〕年玉受く何も握れぬ手でありしが  髙柳克弘
>>〔2〕復讐の馬乗りの僕嗤っていた    福田若之
>>〔3〕片蔭の死角から攻め落としけり   兒玉鈴音
>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな     畠山弘

【2022年2月の水曜日☆内村恭子のバックナンバー】

>>〔1〕琅玕や一月沼の横たはり      石田波郷
>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養    石田波郷
>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず  有馬朗人
>>〔4〕仕る手に笛もなし古雛      松本たかし

【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】

>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は   中原道夫
>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催      潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ      田口武

【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】

>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎     神野紗希

【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺    正岡子規
>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事   岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ
>>〔4〕共にゐてさみしき獣初しぐれ   中町とおと

【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】

>>〔1〕綿入が似合う淋しいけど似合う    大庭紫逢
>>〔2〕枯葉言ふ「最期とは軽いこの音さ」   林翔
>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より      藺草慶子
>>〔4〕みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何
>>〔5〕ともかくもくはへし煙草懐手    木下夕爾

【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】

>>〔1〕海くれて鴨のこゑほのかに白し      芭蕉
>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ    芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉      芭蕉
>>〔4〕埋火もきゆやなみだの烹る音      芭蕉
>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【前編】
>>〔5-2〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【後編】

【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】

>>〔1〕秋灯机の上の幾山河        吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
>>〔3〕後輩の女おでんに泣きじゃくる  加藤又三郎
>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す    寺田京子

【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】

>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊     杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ  後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す   仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒     山口青邨

【2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】

>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり   夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな   永田耕衣


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 澤龜の萬歳見せう御國ぶり 正岡子規【季語=萬歳(新年)】
  2. 太宰忌や誰が喀啖の青みどろ 堀井春一郎【季語=太宰忌(夏)】
  3. 水吸うて新聞あをし花八ツ手 森賀まり【季語=花八ツ手(冬)】
  4. 後輩の女おでんに泣きじゃくる 加藤又三郎【季語=おでん(冬)】
  5. 一天の玉虫光り羽子日和 清崎敏郎【季語=羽子板(新年)】
  6. 日光に底力つく桐の花 飯島晴子【季語=桐の花(夏)】
  7. あたたかき十一月もすみにけり 中村草田男【季語=冬の空(冬)】
  8. 草餅や不参遅参に会つぶれ 富永眉月【季語=草餅(春)】

おすすめ記事

  1. まはすから嘘つぽくなる白日傘 荒井八雪【季語=白日傘(夏)】
  2. 草餅や不参遅参に会つぶれ 富永眉月【季語=草餅(春)】
  3. 食欲の戻りてきたる子規忌かな 田中裕明【季語=子規忌(秋)】
  4. 【書評】鈴木牛後 第3句集『にれかめる』(角川書店、2017年)
  5. 「けふの難読俳句」【第9回】「蹼」
  6. カルーセル一曲分の夏日陰  鳥井雪【季語=夏日陰(夏)】
  7. ほほゑみに肖てはるかなれ霜月の火事の中なるピアノ一臺 塚本邦雄
  8. 【短期連載】茶道と俳句 井上泰至【第3回】
  9. 【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2022年11月分】
  10. 針供養といふことをしてそと遊ぶ 後藤夜半【季語=針供養(春)】

Pickup記事

  1. コーヒー沸く香りの朝はハットハウスの青さで 古屋翠渓
  2. 【春の季語】雛祭
  3. 【書評】菅敦 第1句集『仮寓』(書肆アルス、2020年)
  4. いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希【季語=苺(夏)】
  5. 数と俳句(三)/小滝肇
  6. 【夏の季語】草いきれ
  7. 中年や遠くみのれる夜の桃 西東三鬼【季語=桃(秋)】
  8. 無駄足も無駄骨もある苗木市 仲寒蟬【季語=苗木市(春)】
  9. もの書けば余白の生まれ秋隣 藤井あかり【季語=秋隣(夏)】
  10. 【#40】「山口誓子「汽罐車」連作の学術研究とモンタージュ映画」の続き
PAGE TOP