ハイクノミカタ

春光のステンドグラス天使舞ふ 森田峠【季語=春光(春)】


春光のステンドグラス天使舞ふ

森田峠

 

今日は、2月17日金曜日、「天使の囁きの日」と言われている。名前の由来は、1978年2月17日、北海道幌加内町母子里(もしり)の北大演習林で氷点下41.2℃の最低気温を記録。地元の有志で作る「天使の囁き実行委員会」がこの日を「天使の囁きの日」と制定したことによる。記念日は、一般社団法人・日本記念日協会により認定、登録され、正式に「天使の囁きの日」となった。因みに、「天使の囁き」とは空気中の水蒸気が細氷となって浮遊する「ダイヤモンドダスト」のことらしい。ただ、日本最低気温の公式記録は、気象庁が認定する、1902年1月25日に旭川市で記録された氷点下41.0度なので、「天使の囁きの日」の気温はあくまで参考記録扱いなのである。

春光のステンドグラス天使舞ふ 森田峠

 森田峠(1924年10月16日~2013年6月6日)は、大阪府北河内郡(現大東市)生まれ、1942年より作句し「誹諧」の高浜虚子・年尾選に投句。1944年、岡安迷子(めいし)に師事、迷子に連れられて小諸に疎開中の虚子を訪問、この際に虚子から「峠」の俳号を貰った。1944年12月「ホトトギス」に峠の号で初入選。1951年、阿波野青畝「かつらぎ」に入会し、1990年から後を継いで「かつらぎ」の主宰となった。作風は、虚子、青畝から学んだ写生の作句法を大事にし、吟行を重んじる。峠は、身長184センチ、体重86キロの体躯ながらも、小さきものを愛し、俳句はしゃべり過ぎず、飾らず素朴であれと「寡黙」を力説したようである。

 掲句は、教会の祭壇の上のステンドグラスに春の光が差し込んでいる。それはまるで天使が舞っているように見え、ひときわ鮮やかに教会の中を彩っている。もしくは、ステンドグラスに描かれた天使が陽気な春光の中で踊るように見えたのか。いずれにしても明るく色彩が豊か、かつ動きの見える句である。

 さて、冒頭の「天使の囁き実行委員会」が、明日、2月18日(土)17時~24時にライトアップイベントを開催する。1年に一晩だけ、「最寒の地記念公園クリスタルパーク」にてモニュメントのクリスタルピークスをライトアップする催しで、今年は3年ぶりに開催するようである。筆者の家からは最短ルートで1717kmもあり、ちょっと参加は難しいが、お近くにお住まいの方は是非、参加してみては如何でしょうか。ただ、悪天候の場合は中止なのでよくよくご確認ください。

塚本武州


【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。神戸市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。

【塚本武州のバックナンバー】

>>〔5〕バー温し年豆妻が撒きをらむ    河野閑子
>>〔4〕初場所の力士顚倒し顚倒し     三橋敏雄
>>〔3〕わが知れる阿鼻叫喚や震災忌    京極杞陽
>>〔2〕福笹につけてもらひし何やかや   高濱年尾
>>〔1〕一月や去年の日記なほ机辺     高濱虚子

【初代金曜日・阪西敦子のバックナンバー】

>>〔118〕【最終回】なぐさめてくるゝあたゝかなりし冬    稲畑汀子
>>〔117〕クリスマスイヴの始る厨房よ                千原草之
>>〔116〕傾けば傾くまゝに進む橇                         岡田耿陽
>>〔115〕風邪ごもりかくし置きたる写真見る     安田蚊杖
>>〔114〕舟やれば鴨の羽音の縦横に                    川田十雨
>>〔113〕つはの葉につもりし雪の裂けてあり     加賀谷凡秋
>>〔112〕毛帽子をかなぐりすててのゝしれる     三木朱城
>>〔111〕牡蠣舟やレストーランの灯をかぶり      大岡龍男
>>〔110〕梁折れて頬を打つあり鶉追ふ                三溝沙美
>>〔109〕桔梗やさわや/\と草の雨                楠目橙黄子
>>〔108〕鳥屋の窓四方に展けし花すゝき         丹治蕪人
>>〔107〕秋めくやあゝした雲の出かゝれば          池内たけし
>>〔106〕コスモスのゆれかはしゐて相うたず      鈴鹿野風呂
>>〔105〕淋しさに鹿も起ちたる馬酔木かな      山本梅史
>>〔104〕蜩や久しぶりなる井の頭                     柏崎夢香
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>>〔101〕おやすみ
>>〔100〕おやすみ
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>>〔27〕芽柳の傘擦る音の一寸の間      藤松遊子
>>〔26〕日の遊び風の遊べる花の中     後藤比奈夫
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>>〔19〕梅ほつほつ人ごゑ遠きところより  深川正一郎
>>〔18〕藷たべてゐる子に何が好きかと問ふ  京極杞陽
>>〔17〕酒庫口のはき替え草履寒造      西山泊雲
>>〔16〕ラグビーのジヤケツの色の敵味方   福井圭児
>>〔15〕酒醸す色とは白や米その他     中井余花朗
>>〔14〕去年今年貫く棒の如きもの      高浜虚子
>>〔13〕この出遭ひこそクリスマスプレゼント 稲畑汀子
>>〔12〕蔓の先出てゐてまろし雪むぐら    野村泊月
>>〔11〕おでん屋の酒のよしあし言ひたもな  山口誓子
>>〔10〕ストーブに判をもらひに来て待てる 粟津松彩子
>>〔9〕コーヒーに誘ふ人あり銀杏散る    岩垣子鹿
>>〔8〕浅草をはづれはづれず酉の市   松岡ひでたか
>>〔7〕いつまでも狐の檻に襟を立て     小泉洋一
>>〔6〕澁柿を食べさせられし口許に     山内山彦
>>〔5〕手を敷いて我も腰掛く十三夜     中村若沙
>>〔4〕火達磨となれる秋刀魚を裏返す    柴原保佳
>>〔3〕行秋や音たてて雨見えて雨      成瀬正俊
>>〔2〕クッキーと林檎が好きでデザイナー  千原草之
>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月      松藤夏山




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