ハイクノミカタ

霜柱五分その下の固き土 田尾紅葉子【季語=霜柱(冬)】


霜柱五分その下の固き土

田尾紅葉子

掲句は、「良い俳句とはどんな俳句か」と考え考え、ときどき口ずさんでいる句の一つである。当時「駒草」に発表されると、何が良いのか、なぜ入選なのかと大問題になってしまったという。今の私には、たしかな格調を備え「その」という指標詞に心の昂りがあるように見える。しかし、事実を引き写しただけという感じもする。「本当に五分と測ったのか?」といじわるな見方をしそうにもなる。私の師の一人である蓬田紀枝子から「本当にいい句はどこがいいとは言えない」と聞いたことがあるが、掲句が果たしてそのような佳句なのかどうか。この句と出会って長くなるが、今でもときどき口ずさんで考える。

作者の田尾紅葉子は、昭和13年から16年にかけてのわずか3年半ほどの間、「駒草」で活躍した俳人である。私なりに紅葉子にキャッチフレーズをつけるとしたら「愚直の徹底」「不器用の具現化」といったところだろうか。

*****

ときどき驚かれるのだが、初学時代の私の俳句の勉強方法は、ほぼ結社誌「駒草」を読むことだけだった。子ども時代から毎月5句作って「駒草」に5句投句する、といった俳句とのお付き合いを十数年続けたあと、入学した大学に「駒草」のバックナンバーが戦後復刊第2号(昭和21年正月)から揃っていたことに気づいた。若干の欠本がありつつも、尊敬している先輩や、彼らが影響を受けた作家たちが躍動する誌面に惹き込まれ、順に読んでいるうちに作句にも熱が入った。大学図書館に「駒草」が入っていたのは、戦後の活字に飢えた時代、「駒草」誌は河北新報社から総合文芸誌として復刊を果たしたという事情があり、河北新報社が地元の大学ということで納本したものと思われる。第二芸術を巡るさまざまな議論も、前衛俳句論争も、戦後の俳句史は「駒草」誌の記事を通して学んだ。してみれば、俳句が好きと言うよりは「駒草」が好きで俳句にのめり込んだとも言えるわけで、そこに自分の俳人としての危うさがある気がしなくもない。

というわけで、私の担当回は、私自身が「俳句ってどういうものだろう」と考えながら口ずさんでいる「駒草」の先人を取り上げてゆきたい。「駒草」と言うと、どうしても「昭和七年創刊の老舗結社で、女性で最初の蛇笏賞作家である阿部みどり女が創刊した」で話が終わってしまいがちだが、「駒草」91年の歴史には、「長生きしていたら……」という作家、彗星のように俳壇に足跡を残して消えていった作家、結社内で確かな指導力を発揮した作家、たくさんの有力作家がいる。こうした「駒草」という結社内の俳人たちの句の紹介によって、大文字の俳句史が取りこぼすような何かを少しでも掬い上げられたらうれしい。

*****

さて、掲句の作者、田尾紅葉子は大正5年生まれ、昭和13年から作句するが、昭和16年7月26日、急性肺炎のため、26歳の若さで死去。大学進学時に西田町にあったみどり女宅に下宿した縁で入門し、昭和15年からは短期間ではあるが編集長として辣腕を振るった。各地に支部句会を設置すると共に、駒草道場精神・駒草純正俳句を唱え、巻頭言に駒草の「新発足について」という一文を草する。紅葉子の道場精神によって、「駒草」を足掛かりにして「ホトトギス」入選を狙うといった誌友は態度決定を迫られ、その結果、「駒草調」が誌面に生まれたとされる。半面、当時「駒草」に協力していた高橋淡路女や福田蓼汀といった人の名前は誌上から消え、粛清の断行という評もあったようだ。没後、紅葉子はみどり女主宰という旗印のもとに駒草の組織固めをした人として伝説的な扱いをされ、新人賞として「田尾紅葉子賞」が設置された。

「駒草調」と言ったが、主宰者のみどり女自身は、俳句に関する主張をスローガン的に結社に掲げたわけではない。ただ、写生については非体系的ながら、画家の森田恒友に学んだ画論を基礎に確固とした考えを持っていた。自然を愛情をもって見て写生以前の気持ちを大切にすること、集中して見て、情的にではなく非情に見ること、不器用でも一生懸命に描くこと、結果として自然物の描写に作者が投影される表現になること、等々、折に触れて文章化している。虚子の花鳥諷詠とも似ているが、「自然」や「心」という恒友経由の用語によって、虚子の写生を理解しようとしたものだったのかもしれない。

そのあたりのみどり女の考えは筆者には何とも言えないが、只野柯舟は次のような句を昭和15年頃の代表的作品、つまり「駒草調」の典型例として挙げている(只野柯舟『駒草のあゆみ』、昭和37年、私家版、44―47頁)。

犬屹と遠ちの枯野の犬を見る 阿部みどり女

枯草に日輪あるを忘れ佇つ  宮本けい子

冬日仰ぐまぶたは黒きものなりき 梶田吐雲(梶大輔)

蓮堀りのやうやく進む一歩かな 野村蝶子

冬の雨落ち来ぬ烏二羽過ぐる 杜野光(一力五郎)

掲句〈霜柱五分その下の固き土〉も、ちょうどその頃、昭和16年2月号に発表された。

霜柱五分その下の固き土   紅葉子

手に取りし霜柱その光溶く

霜柱とけしを捨てて泥がのこる

霜柱すて手を拭ふ草も冷え

跡部祐三郎(第6回「俳句研究」50句競作佳作第2位)はこれらの句を、「写生の徹底さと俳句の無意味さとを自ら語っていよう」「第一句目の道筋の行方の俳句は、後の「天狼」を中心とする根源俳句にぶちあたったであろうと予測される」(「駒草」昭和55年8月号29頁)と評する。

「駒草」重鎮として長く活躍した佐藤茂は〈霜柱五分その下の固き土〉を次のように評した。「これは、そのままの句である。そのままの句だからすばらしいのだ。そのままでないような句が多すぎるから、そのままの句が光りを放つ」(「駒草」昭和43年10月号)。

「駒草」二代主宰となった八木澤高原もまた、掲句を紅葉子の代表句として「紅葉子の人格がにじみ出て、自然を深く見つめていることが共感を呼んだ」(「駒草」昭和36年10月号、54頁)と評している。

どれも、わかるようでわからない。右も左もわからない俳句初学の頃、これらの評で俳句のわからなさのワクチンを打たれたような気がする。結果、何がなんだかわからないがすごいらしい句、として愛誦してきた。

みどり女の評は次のようなもの。

相当問題になった句である。つまらぬといへばこれほどつまらぬ句はなからう。而しこゝまで自然をつきつめる人があるであらうか。大抵はつまらぬ経験をもとゝしたり常識でこんなものときめてゐることが多いのではなからうか。こゝまでまじめに自然を視る紅葉子の謙虚な態度に大いに教へられたのである。(阿部みどり女「序」、田尾紅葉子遺稿『椎落葉』、駒草発行所、昭和17年、7-8頁)

上に見た評ではみどり女のものが私にはもっともわかりやすい。未完成ながらも不器用に突き詰めていく句としてみどり女は評価したようだ。しかし、掲句には愚直な自然の写生を徹底する態度を学ぶにとどめるべきなのだろうか。何度も何度も口ずさんでいると、他の駒草人たちが言うように、何か底知れぬものを湛えているような気もしてくる。それは「駒草」先人による紅葉子伝説の先入観のせいにすぎないのかどうか……。いまだに私を悩ませる句の一つである。

*****

紅葉子の句として、こんな句もある。

夏の蝶三浦一族ここに亡ぶ(昭和13年)

三代主宰蓬田紀枝子、四代主宰西山睦、それぞれと紅葉子の話題になったとき、紀枝子前主宰は、実景の〈夏の蝶〉と想念としての滅亡への感慨、この二つの瞬間的な結び付きを高く評価している感じがあった。一方睦現主宰は、直感が働いているというよりも歴史趣味的な作り方としてあまり感心していないように見えた。そういうわけで、「良い俳句とは何だろう」と考えさせられた句である。ただ、〈霜柱〉の句とちがって、私はこの句ははっきりと好きである。紀枝子の句にもこのような性格はあるが、これも俳句の呼吸だと思う。みどり女は「写生写生と言っていた紅葉子にはこの句は大いなる飛躍だった。生きていたら真の写生の深いものとなっていただろう」(「思い出の俳人たち(一)」『俳句』昭和53年9月号、46頁)と、やや曖昧に評しているが。

実は筆者に〈夏の礁滅びのときを誰も知らず〉(令和4年)という句がある。今この原稿を書きながら、85年の歳月を経て、紅葉子の影響を受けていたことにはっと気づいた次第である。

他、筆者の愛誦する紅葉子俳句を挙げる。

句帳もち片手は火鉢にまじめな顔

星空と虫を天地となし住まふ

吾が影の大きく屋根に春の宵

海荒れて島は眠れり天の川

煖房に牡蛎の心臓とまりけり

海無情破船は底に寒に入る

雀とんで来て春光の景に入る

椎落葉雀と落ちて地に残り

最後の〈椎落葉〉の句は、「俳句研究」昭和十六年七月号に発表された作品「昼」の一句。その7月26日、紅葉子の魂は椎の葉といっしょに地に落ち、雀のように天上へ消えた。

浅川芳直


【執筆者プロフィール】
浅川芳直(あさかわ・よしなお)
平成四年生まれ。平成十年「駒草」入門。現在「駒草」同人、「むじな」発行人。
令和五年十二月、第一句集『夜景の奥』(東京四季出版)上梓。

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「むじな」発行人の第一句集!

この人の鋭さと柔らかさの兼ね合いは絶妙。清新と風格の共存と言い換えてもよい。──高橋睦郎

春ひとつ抜け落ちてゐるごとくなり
一瞬の面に短き夏終る
カフェオレの皺さつと混ぜ雪くるか
論文へ註ひとつ足す夏の暁
人白くほたるの森に溶けきれず

夜景の奥(購入方法) 東京四季出版

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2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



【2023年12月・2024年1月の火曜日☆土井探花のバックナンバー】
>>〔1〕忘年会みんなで逃がす青い鳥 塩見恵介

【2023年11月・12月の水曜日☆北杜駿のバックナンバー】
>>〔9〕静臥ただ落葉降りつぐ音ばかり 成田千空
>>〔10〕綿虫や母あるかぎり死は難し 成田千空
>>〔11〕仰向けに冬川流れ無一文 成田千空
>>〔12〕主よ人は木の髄を切る寒い朝 成田千空

【2023年10・11月の火曜日☆西生ゆかりのバックナンバー】
>>〔1〕猫と狆と狆が椎茸ふみあらす 島津亮
>>〔2〕赤福のたひらなへらもあたたかし 杉山久子
>>〔3〕五つずつ配れば四つ余る梨 箱森裕美
>>〔4〕湯の中にパスタのひらく花曇 森賀まり
>>〔5〕しやぼんだま死後は鏡の無き世界 佐々木啄実
>>〔6〕待春やうどんに絡む卵の黄 杉山久子
>>〔7〕もし呼んでよいなら桐の花を呼ぶ 高梨章
>>〔8〕或るときのたつた一つの干葡萄 阿部青鞋
>>〔9〕若き日の映画も見たりして二日 大牧広

【2023年10・11月の木曜日☆野名紅里のバックナンバー】
>>〔1〕黒岩さんと呼べば秋気のひとしきり 歌代美遥
>>〔2〕ロボットの手を拭いてやる秋灯下 杉山久子
>>〔3〕秋・紅茶・鳥はきよとんと幸福に 上田信治
>>〔4〕秋うらら他人が見てゐて樹が抱けぬ 小池康生
>>〔5〕縄跳をもつて大縄跳へ入る 小鳥遊五月
>>〔6〕裸木となりても鳥を匿へり 岡田由季
>>〔7〕水吸うて新聞あをし花八ツ手 森賀まり
>>〔8〕雪の速さで降りてゆくエレベーター 正木ゆう子
>>〔9〕死も佳さそう黒豆じっくり煮るも佳し 池田澄子

【2023年9・10月の水曜日☆伊藤幹哲のバックナンバー】
>>〔1〕暮るるほど湖みえてくる白露かな 根岸善雄
>>〔2〕雨だれを聴きて信濃の濁り酒 德田千鶴子
>>〔3〕雨聴いて一つ灯に寄る今宵かな 村上鬼城
>>〔4〕旅いつも雲に抜かれて大花野  岩田奎
>>〔5〕背広よりニットに移す赤い羽根 野中亮介
>>〔6〕秋草の揺れの移れる体かな 涼野海音
>>〔7〕横顔は子規に若くなしラフランス 広渡敬雄
>>〔8〕萩にふり芒にそそぐ雨とこそ 久保田万太郎

【2023年8・9月の火曜日☆吉田哲二のバックナンバー】
>>〔1〕中干しの稲に力を雲の峰   本宮哲郎
>>〔2〕裸子の尻の青あざまてまてまて 小島健
>>〔3〕起座し得て爽涼の風背を渡る 肥田埜勝美
>>〔4〕鵙の朝肋あはれにかき抱く  石田波郷
>>〔5〕たべ飽きてとんとん歩く鴉の子 高野素十
>>〔6〕葛咲くや嬬恋村の字いくつ  石田波郷
>>〔7〕秋風や眼中のもの皆俳句 高浜虚子
>>〔8〕なきがらや秋風かよふ鼻の穴 飯田蛇笏
>>〔9〕百方に借あるごとし秋の暮 石塚友二

【2023年8月の木曜日☆宮本佳世乃のバックナンバー】
>>〔1〕妹は滝の扉を恣       小山玄紀
>>〔2〕すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる 阿部完市
>>〔3〕葛の花来るなと言つたではないか 飯島晴子
>>〔4〕さういへばもう秋か風吹きにけり 今井杏太郎
>>〔5〕夏が淋しいジャングルジムを揺らす 五十嵐秀彦
>>〔6〕蟷螂にコップ被せて閉じ込むる 藤田哲史
>>〔7〕菊食うて夜といふなめらかな川 飯田晴
>>〔8〕片足はみづうみに立ち秋の人 藤本夕衣
>>〔9〕逢いたいと書いてはならぬ月と書く 池田澄子

【2023年7月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】

>>〔5〕「我が毒」ひとが薄めて名薬梅雨永し 中村草田男
>>〔6〕白夜の忠犬百骸挙げて石に近み 中村草田男
>>〔7〕折々己れにおどろく噴水時の中 中村草田男
>>〔8〕めぐりあひやその虹七色七代まで 中村草田男

【2023年7月の水曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔5〕数と俳句(一)
>>〔6〕数と俳句(二)
>>〔7〕数と俳句(三)
>>〔8〕数と俳句(四)

【2023年7月の木曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔10〕来たことも見たこともなき宇都宮 筑紫磐井
>>〔11〕「月光」旅館/開けても開けてもドアがある 高柳重信
>>〔12〕コンビニの枇杷って輪郭だけ 原ゆき
>>〔13〕南浦和のダリヤを仮のあはれとす 摂津幸彦

【2023年6月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】

>>〔1〕田を植ゑるしづかな音へ出でにけり 中村草田男
>>〔2〕妻のみ恋し紅き蟹などを歎かめや  中村草田男
>>〔3〕虹の後さづけられたる旅へ発つ   中村草田男
>>〔4〕鶏鳴の多さよ夏の旅一歩      中村草田男

【2023年6月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔6〕妹の手をとり水の香の方へ 小山玄紀
>>〔7〕金魚屋が路地を素通りしてゆきぬ 菖蒲あや
>>〔8〕白い部屋メロンのありてその匂ひ 上田信治
>>〔9〕夕凪を櫂ゆくバター塗るごとく 堀本裕樹

【2023年5月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔5〕皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人
>>〔6〕煮し蕗の透きとほりたり茎の虚  小澤實
>>〔7〕手の甲に子かまきりをり吹きて逃す 土屋幸代
>>〔8〕いつまでも死なぬ金魚と思ひしが 西村麒麟
>>〔9〕夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ  堀本裕樹

【2023年5月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】

>>〔1〕遠き屋根に日のあたる春惜しみけり 久保田万太郎
>>〔2〕電車いままつしぐらなり桐の花 星野立子
>>〔3〕葉桜の頃の電車は突つ走る 波多野爽波
>>〔4〕薫風や今メンバー紹介のとこ 佐藤智子
>>〔5〕ハフハフと泳ぎだす蛭ぼく音痴 池禎章

【2023年4月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】

>>〔1〕春風にこぼれて赤し歯磨粉  正岡子規
>>〔2〕菜の花や部屋一室のラジオ局 相子智恵
>>〔3〕生きのよき魚つめたし花蘇芳 津川絵理子
>>〔4〕遠足や眠る先生はじめて見る 斉藤志歩

【2023年4月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔6〕赤福の餡べつとりと山雪解 波多野爽波
>>〔7〕眼前にある花の句とその花と 田中裕明
>>〔8〕対岸の比良や比叡や麦青む 対中いずみ
>>〔9〕美しきものに火種と蝶の息 宇佐美魚目

【2023年3月の火曜日☆三倉十月のバックナンバー】

>>〔1〕窓眩し土を知らざるヒヤシンス 神野紗希
>>〔2〕家濡れて重たくなりぬ花辛夷  森賀まり
>>〔3〕菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ 金原まさ子
>>〔4〕不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ【←三倉十月さんの自選10句付】

【2023年3月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】

>>〔1〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波
>>〔2〕砂浜の無数の笑窪鳥交る    鍵和田秞子
>>〔3〕大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波
>>〔4〕カードキー旅寝の春の灯をともす トオイダイスケ
>>〔5〕桜貝長き翼の海の星      波多野爽波

【2023年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔6〕立春の零下二十度の吐息   三品吏紀
>>〔7〕背広来る来るジンギスカンを食べに来る 橋本喜夫
>>〔8〕北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり 平川靖子
>>〔9〕地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島 櫂未知子

【2023年2月の水曜日☆楠本奇蹄のバックナンバー】

>>〔1〕うらみつらみつらつら椿柵の向う 山岸由佳
>>〔2〕忘れゆくはやさで淡雪が乾く   佐々木紺
>>〔3〕雪虫のそつとくらがりそつと口笛 中嶋憲武
>>〔4〕さくら餅たちまち人に戻りけり  渋川京子

【2023年1月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】

>>〔1〕年迎ふ父に胆石できたまま   島崎寛永
>>〔2〕初燈明背にあかつきの雪の音 髙橋千草
>>〔3〕蝦夷に生まれ金木犀の香を知らず 青山酔鳴
>>〔4〕流氷が繋ぐ北方領土かな   大槻独舟
>>〔5〕湖をこつんとのこし山眠る 松王かをり

【2023年1月の水曜日☆岡田由季のバックナンバー】

>>〔1〕さしあたり坐つてゐるか鵆見て 飯島晴子
>>〔2〕潜り際毬と見えたり鳰     中田剛
>>〔3〕笹鳴きに覚めて朝とも日暮れとも 中村苑子
>>〔4〕血を分けし者の寝息と梟と   遠藤由樹子

【2022年11・12月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】

>>〔1〕氷上と氷中同じ木のたましひ 板倉ケンタ
>>〔2〕凍港や旧露の街はありとのみ 山口誓子
>>〔3〕境内のぬかるみ神の発ちしあと 八染藍子
>>〔4〕舌荒れてをり猟銃に油差す 小澤實
>>〔5〕義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳
>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
>>〔7〕胸の炎のボレロは雪をもて消さむ 文挾夫佐恵
>>〔8〕オルゴールめく牧舎にも聖夜の灯 鷹羽狩行
>>〔9〕去年今年詩累々とありにけり  竹下陶子

【2022年11・12月の水曜日☆近江文代のバックナンバー】

>>〔1〕泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ
>>〔2〕牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等
>>〔3〕誕生日の切符も自動改札に飲まれる 岡田幸生
>>〔4〕雪が降る千人針をご存じか 堀之内千代
>>〔5〕トローチのすつと消えすつと冬の滝 中嶋憲武
>>〔6〕鱶のあらい皿を洗えば皿は海 谷さやん
>>〔7〕橇にゐる母のざらざらしてきたる 宮本佳世乃
>>〔8〕セーターを脱いだかたちがすでに負け 岡野泰輔
>>〔9〕動かない方も温められている   芳賀博子

【2022年10月の火曜日☆太田うさぎ(復活!)のバックナンバー】

>>〔92〕老僧の忘れかけたる茸の城 小林衹郊
>>〔93〕輝きてビラ秋空にまだ高し  西澤春雪
>>〔94〕懐石の芋の葉にのり衣被    平林春子
>>〔95〕ひよんの実や昨日と違ふ風を見て   高橋安芸

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔5〕運動会静かな廊下歩きをり  岡田由季
>>〔6〕後の月瑞穂の国の夜なりけり 村上鬼城
>>〔7〕秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
>>〔8〕逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ 池田澄子

【2022年9月の火曜日☆岡野泰輔のバックナンバー】

>>〔1〕帰るかな現金を白桃にして    原ゆき
>>〔2〕ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
>>〔3〕サフランもつて迅い太子についてゆく 飯島晴子
>>〔4〕琴墜ちてくる秋天をくらりくらり  金原まさ子

【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】

>>〔1〕九月来る鏡の中の無音の樹   津川絵理子
>>〔2〕雨月なり後部座席に人眠らせ    榮猿丸
>>〔3〕秋思かがやくストローを嚙みながら 小川楓子
>>〔4〕いちじくを食べた子供の匂ひとか  鴇田智哉

【2022年6月の火曜日☆杉原祐之のバックナンバー】

>>〔1〕仔馬にも少し荷を付け時鳥    橋本鶏二
>>〔2〕ほととぎす孝君零君ききたまへ  京極杞陽
>>〔3〕いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝
>>〔4〕雲の峰ぬつと東京駅の上     鈴木花蓑

【2022年6月の水曜日☆松野苑子のバックナンバー】

>>〔1〕でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子
>>〔2〕襖しめて空蟬を吹きくらすかな  飯島晴子
>>〔3〕螢とび疑ひぶかき親の箸     飯島晴子
>>〔4〕十薬の蕊高くわが荒野なり    飯島晴子
>>〔5〕丹田に力を入れて浮いて来い   飯島晴子

【2022年5月の火曜日☆沼尾將之のバックナンバー】

>>〔1〕田螺容れるほどに洗面器が古りし 加倉井秋を
>>〔2〕桐咲ける景色にいつも沼を感ず  加倉井秋を
>>〔3〕葉桜の夜へ手を出すための窓   加倉井秋を
>>〔4〕新綠を描くみどりをまぜてゐる  加倉井秋を
>>〔5〕美校生として征く額の花咲きぬ  加倉井秋を

【2022年5月の水曜日☆木田智美のバックナンバー】

>>〔1〕きりんの子かゞやく草を喰む五月  杉山久子
>>〔2〕甘き花呑みて緋鯉となりしかな   坊城俊樹
>>〔3〕ジェラートを売る青年の空腹よ   安里琉太
>>〔4〕いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希

【2022年4月の火曜日☆九堂夜想のバックナンバー】

>>〔1〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔2〕未生以前の石笛までも刎ねる    小野初江
>>〔3〕水鳥の和音に還る手毬唄      吉村毬子
>>〔4〕星老いる日の大蛤を生みぬ     三枝桂子

【2022年4月の水曜日☆大西朋のバックナンバー】

>>〔1〕大利根にほどけそめたる春の雲   安東次男
>>〔2〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア  豊口陽子
>>〔3〕田に人のゐるやすらぎに春の雲  宇佐美魚目
>>〔4〕鶯や米原の町濡れやすく     加藤喜代子

【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】

>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸   正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ  正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉      正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな     正岡子規
>>〔5〕おとつさんこんなに花がちつてるよ 正岡子規

【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】

>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる    野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
>>〔3〕春天の塔上翼なき人等      野見山朱鳥
>>〔4〕春星や言葉の棘はぬけがたし   野見山朱鳥
>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海    野見山朱鳥

【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】

>>〔1〕年玉受く何も握れぬ手でありしが  髙柳克弘
>>〔2〕復讐の馬乗りの僕嗤っていた    福田若之
>>〔3〕片蔭の死角から攻め落としけり   兒玉鈴音
>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな     畠山弘

【2022年2月の水曜日☆内村恭子のバックナンバー】

>>〔1〕琅玕や一月沼の横たはり      石田波郷
>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養    石田波郷
>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず  有馬朗人
>>〔4〕仕る手に笛もなし古雛      松本たかし

【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】

>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は   中原道夫
>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催      潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ      田口武

【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】

>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな    蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる  岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎     神野紗希

【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】

>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺    正岡子規
>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事   岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ
>>〔4〕共にゐてさみしき獣初しぐれ   中町とおと

【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】

>>〔1〕綿入が似合う淋しいけど似合う    大庭紫逢
>>〔2〕枯葉言ふ「最期とは軽いこの音さ」   林翔
>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より      藺草慶子
>>〔4〕みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何
>>〔5〕ともかくもくはへし煙草懐手    木下夕爾

【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】

>>〔1〕海くれて鴨のこゑほのかに白し      芭蕉
>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ    芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉      芭蕉
>>〔4〕埋火もきゆやなみだの烹る音      芭蕉
>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【前編】
>>〔5-2〕蝶落ちて大音響の結氷期  富沢赤黄男【後編】

【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】

>>〔1〕秋灯机の上の幾山河        吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
>>〔3〕後輩の女おでんに泣きじゃくる  加藤又三郎
>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す    寺田京子

【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】

>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊     杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ  後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す   仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒     山口青邨

【2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】

>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり   夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな   永田耕衣


【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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