百方に借あるごとし秋の暮石塚友二【季語＝秋の暮（秋）】

ハイクノミカタ

百方に借あるごとし秋の暮　石塚友二【季語＝秋の暮（秋）】

2023/9/26
ハイクノミカタ, マンスリーゲスト
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百方に借あるごとし秋の暮

石塚友二

まだ盛夏だった8月初旬から始まった筆者の担当も、いよいよ最終回となりました。開始当初は連日熱中症注意なんて言っていた時期でしたが、季節は変わり、すっかり深秋といった趣になりました。

さて、この短期連載の最初の方に、筆者の故郷である新潟のことを書きました。いかにも望郷しきりといった調子で書いておりましたが、子どもがまだ小さいこともあって、実はちょくちょく帰省しています。おかげさまで交通事情も便利ですし（角栄先生ありがとう）。

で、新潟には新潟日報という地方紙があって、毎週月曜日に俳壇欄があります。選者は中原道夫さんと津川絵理子さんです。特に中原さんはご当地新潟のご出身で、ずっと以前から担当されています。また、少し前までは黒田杏子さんが長年選者をお務めになっていました。古くは石田波郷や加藤楸邨が選をしていたこともあるとか。地方紙ですが大変豪華な新聞俳壇です。

と、今回はこんな感じの短めのマクラで、原点回帰して同郷先達の句を取り上げたいと思います。

百方に借あるごとし秋の暮　石塚友二

作者の代表句です。

いつも引かせてもらっている山本健吉によれば、「友二の俳句の世界は、飽くまでも私小説的な世界であって作者の生活そのままの強烈な体臭と飄逸な風格の中に人の世のペーソスを滲ませているところ、独特のものを持っている」とのこと。

なるほどペーソスということであれば、特に掲句などは深秋（ですよね？）の季感とあいまって、確かに深い哀調を感じさせます。作者らしいその庶民性、日常性が遺憾なく発揮された句かと。

掲句は昭和18年の作ですから、背景として世相からくる貧しさであったり生活の困窮はもちろんあるのでしょうが、そういった物質的なものではなく、秋の暮に誰もが感じる「なんとも言いようのない、そして理由もわからずこみ上げてくる申し訳なさ」を詠んでいるような気がします。秋の暮の存在そのものの感じがします。

作者にとっては、やはり俳句と生活とは不即不離なのでしょう。知行合一といいますか、そこに偽りのない等号があるような気がするのです。こういった虚飾のない句境は憧れちゃいます。

同じ作者の秋の句で、〈子が病めば百千の虫や啞の虫〉というのもあります。鑑賞するならこちらの方が興味深かったかも。健吉の言う「強烈な体臭と飄逸なペーソス」がより具体的に感じられるような気がします。この句は型としてはなかなか破格破調ですけども、そもそもこの句の価値の根源は作者の生活の息遣いそのものであったわけですから、波郷もこれを是としていたようです。

よし、今回はそこそこまっとうな鑑賞ができました。

といったところで、どこからかサライが聴こえてきました。冒頭に書いた通り、この短期連載は今回が最後となります。これまでお付き合いありがとうございました。皆様のご寛容のおかけで、なんとか乗り切ることができました。

今回同じく短期連載を担当した宮本佳世乃さんと打ち上げでもしたいなーと思います（堀切さんもいらっしゃいますか？）。荻窪あたりによく出没しているので、見かけたら気軽に声を掛けてください。

それでは皆様ごきげんよう。

（吉田哲二）